最期まで、君と共に

  • 子夜と子昼

     夫婦の間というのは子どもにはさっぱり分からないものである。いつもは構ってくれる両親も今日だけはべったり寄り添って全然相手にしてくれないし、おまけにちょっとお庭で遊んでおいで、なんて言うのだ。「……ってゆうことで、ね! おとうさんだけ、おか…

  • 正座

     オレの昼はどんな顔をしていても可愛らしい。その表情豊かな顔はくるくると絶えず喜怒哀楽を浮かべるし、小さな体も負けず劣らず分かりやすく動くからずっと見てて飽きない。ただ、それを眺めるのは己にとって楽な姿勢、又はそれなりに愉しめる姿勢を所望し…

  • 子夜と子昼とイタク

    「あぁ、もう泣かないで、夜」 そう焦れたように昼が言ったのは、目の前で女々しく顔を伏せてしくしくと泣き続ける幼馴染にである。人間である昼と違って、美しい白銀の髪に紅い目を有した幼馴染は小さくとも明らかに人とは違う雰囲気を持っており、つまると…

  • 兄夜と弟昼

     ドクヒメサマの話を知っているかい? 漢字で書くと毒姫様……とある国の可哀想なお姫様の話なんだけどね、実は彼女、生まれた時から毒の温室の中で過ごしてきたすごいお姫様でもあるんだ。毒姫様のお友達はもっぱら毒蛇に毒蜘蛛、お食事は様々な毒の入った…

  • 子夜と子昼の誕生日

     一年に一度訪れる日。昼はこの日が大好きだった。なんてったって、普段なかなか会えない遠くに住む者たちが家にやって来るし、そんなみんなは自分たちに一段と優しいし、宴会まで開いて楽しそうだし、なにより大きなケーキが食べられる。毎年決まったふわふ…

  • 子夜と子昼で手袋を買いに

     狐の呪いというものを知っているか。そうやって始まるのは偶に寝物語のように聞かされた話の冒頭で、昔も昔、遠い昔におじいさまがおばあさまを悪い狐から助けたところから始まる話であった。昔々、その昔、この世には悪い狐が住んでいて、綺麗な女の人を片…

  • 夜と昼と夢の話

     ふと目が覚めた。とは言ってもまだ、うとうとした意識の中で、夢か現実かもよく分かっていない夢心地、また目を閉じてしまえばすぐにでも深い眠りに陥れるだろうくらいのうすぼんやりした感覚だった。それでもリクオはもぞもぞと布団の中を這いだして、ゆっ…

  • 夜と鴆

    『――君は昼の世界の美しさを知らなくて、それなのに触れることを赦してあげられなくて……』「――だから昼のお前は、ごめん、と?」「あぁ」 綺麗な月を肴に縁側で鴆と月見酒と洒落込みながら、口火を切るようにそんな言葉を呟いた。夢現の世界、何を思っ…

  • 雪珱【指先:賞賛】

    「……つう、」 小さな声と共にぴく、と肩を跳ねさせた珱姫に雪麗はまたかと呆れ顔をした。場所は奴良家の台所、女共は夕食の用意の真っ只中……そこに嫁いで来たばかりの珱姫も加わっていた。いつかはやらねばならぬこと、ついでに本人もやる気なのだからと…

  • 邪魅昼【脛:服従】

    「――邪魅?」 濡れ縁から青々と生い茂る桜の木を立ってじっと眺める男にリクオは声を掛ける。すっ、と音も無く振り向いた男の顔にはたくさんの護符が貼り付いているが、リクオは構わずにっこりと笑い、食べない? と手にしていた盆を掲げた。盆の上には水…

  • 鴆と夜

     例えば恋の病と言うだろう? 名に『病』と付きながら本人はさておき、余程のことが無い限りそれは大したことないのが現状だ。それと同じ、一見大事そうに見えてそれほど悪いわけではない、要は気持ちの持ちよう、考え方次第、下手に手出ししなければいずれ…

  • 鴆と赤子リクオの邂逅

     鴆は側近たちの目をすり抜けて呼びだした元主のところへと向かう。普段ならすぐに見つかりそうな場所でも、今日が今日であるがために本家の中はわらわらと人が溢れ、誰も彼もがあちらこちらへと行き急いでおり誰ひとりとして目もくれなかった。用心深く妖気…

  • 夜と羽衣狐に拐かされた昼パロ

     あの時の自分は時よ、戻れと強く願っていた。子どもの心はあまりにも傷付きすぎて、弱まり続ける人の魂と強大過ぎる妖の魂の均衡が脆くも崩れ始め、ついには消滅へと向かい始めていたから。何も知らない、常に死と直面するような戦場などとは無縁だったあの…

  • 奴良家と子リクオ

     一家団欒の真っただ中、ねぇねぇ、お父さん、と無邪気に子どもが口を開く。「今日聞いたんだけどね、ヒロシくんのところに妹が生まれたんだって! ヨシキくんは今度弟が出来るとも言ってたよ。ぼくも弟や妹が欲しいな。おにいちゃんって呼ばれたいよ。ねぇ…

  • 馬鹿親な鯉さんと子リクオ

     親というのは何だかんだと言って、子どもが可愛くて可愛くてしょうがない生き物であり、それがまだ小さい上に何百年と待ちに待った御子なら尚更のこと、子煩悩とならずにいられようか……いや、いられまい。まさにそんな子煩悩が服を着て歩いてるような御人…

  • 夜昼:自信家な彼のセリフ / By 確かに恋だった

    「…おい、あんま見惚れてんじゃねぇよ」 そう言ってしだれ桜の木の上から、縁側に腰掛けるこちらへとじっと視線を落とした男にリクオは少しだけ頬を染めた。さっきまで遠く闇に浮かぶ月を見つめながら、気ままに煙官を口にしていた彼だったのだが、一体いつ…

  • 夜昼:純粋じゃない彼のセリフ / By 確かに恋だった

     胸の奥でぐるぐるする淀んだ気持ちが嫌いだった。綺麗じゃない、浅ましい想いや願いを抱いている自分が恥ずかしかった。恋焦がれるほどに想いを抱く相手は、その男は自分と違ってあまりにも美しかったからより一層隠さねばと思った。ひとつがふたつ、ふたつ…

  • 夜→昼→鴆:年上の彼のセリフ / By 確かに恋だった

    『――悪ぃな、ガキには興味ねぇんだ』 そうこっぴどく振られたリクオ……もとい昼のリクオは一人、夢現の世界で黙々とふくれっ面を続行していた。相手はそう、鴆だ、あの莫迦鳥だ。告白する者がどれほどの勇気を振り絞って相手に想いの裡を伝えたのかを欠片…

  • 夜→昼→鴆:偉そうな彼のセリフ / By 確かに恋だった

     好きなのだと言われた。家族ではなく、仲間としてでなく、一個人として、一人の男として君が好きなのだと、子どもはそう言った。好きだと言われることに嫌悪は無かった。けれどもそれが子どもへの愛だの恋だのへと繋がるかと問われれば答えは否、としか言い…

  • 後天性 夜昼女体化

     そう、例えば胸とか下半身とか? 性別が変わったら気になるものは気になるだろうね、それなりに。でもそれは最初だけの話であって、慣れてくれば徐々に弊害が生じてくる。すなわち、「………重い、」「それ、なんかの嫌味か何かかなぁ、夜?」「嫌味じゃな…

  • 鴆と子リクオと父

    「ねぇ、おとうさん。どうして、ゼン君には名前が無いの?」 ことり、と可愛らしく首を傾げた息子にそんなことを聞かれた。「? 名前ならあるだろ? 鴆、てお前も呼んでるじゃねぇかい」「違うよ、それは妖怪の種類の名前って、この前ゼン君言ってたもん」…

  • 鴆と子リクオ

     遠くでごふ、かふ、と息を詰めるような我慢するような咳の音にふと意識が浮かび上がった。じっとりと重苦しいくらいの闇の中、いつもならぐっすりと眠っている時間で、これくらいの小さな音では起きもしないというのに、不思議と今日に限って目が覚めてしま…

  • 寝かしつけ

     ぽん、ぽん、と心地よいであろう間隔で眠りに落ちかける子どもの背を優しく叩く。うとうととしたその顔の瞼は重そうに下りてはゆるりと上げられ、どうしても眠りたくないのかその指はぎゅうっと着物にしがみついた。それにまた、ぽん、ぽんと背を叩いてあや…

  • 夜と昼と鴆

     顎を掴む指が痛い。その内の親指だけが口の中へと突っ込まれ、上手く下顎を押さえているのか閉じることが出来ない。「…ぁ…う、…あ゛っ…」 無理やり上を向けさせられた開きっぱなしの唇に少し冷たくなった匙が触れる。傾けられたそれからはどろりとした…

  • 妖怪夜と小学生昼 / Byオジプラスbot

     好きなのに。こんなにも好きで好きでしょうがないのに、それを口にすればするほど夜はいっつも大人の余裕な笑みを浮かべてこちらを子ども扱いした。「僕、本当に夜のことが好きなんだよ?」「ははは、そりゃあ随分、ありがてぇこった」 ほら、またそうやっ…

  • 弟夜と兄昼 壱

     嫌い、嫌いだよ……君なんか大っ嫌い。ちょっと頑張っただけで僕の欲しいものを全てを手に入れられる君なんて。ちょっと笑っただけで、あんなにも愛される君なんて。きっとこの世の人間、妖をとある一つの法則で分けるとしたら、それはきっと自分と夜みたい…

  • 弟夜と兄昼 弐

    「昼っ! また試験で一番取ったんだってな!」 そう言って夜は帰ってきたばかりの兄の部屋に勢いよく飛び込んだ。着替えの途中だったのか、普段着の着物の帯を締めていた昼は突然訪れた弟に目を丸くし、手を止める。「よ、夜!」「お帰り、昼。で、おめでと…

  • 弟夜と兄昼 参

     その者の印象は御機嫌麗しゅうなんて言葉使う奴、本当に居たんだなぁくらいだった。正直どうでも良かった。挨拶だろうが御機嫌取りだろうが。ただあまりにも自分ばかりに話しかけてくるのが気に入らなかった。この者には見えてないのだろうか――自分の手を…

  • 弟夜と兄昼 肆(一部、牛昼)

     隙間から覗くそれに、あぁ、綺麗だなと思った。自分よりも日に焼けて健康そうな肌も、ぎゅっと固く瞼を閉じて耐えるようなその顔も、ぴんと伸びる爪先も、猿轡をされた唇から零れる喘ぎ声も、みんなみんな綺麗だと思った。綺麗という言葉以外それを表す言葉…

  • 学パロ 昼が好きな夜と夜が嫌いな昼 壱

     日が落ちて暗くなりつつある放課後、誰も居なくなった教室の後ろの棚の上の片隅で、壁に背を預け行儀悪くも足を伸ばしている影が一つ。おそらく普段の彼の姿を知る者としては驚くべき所作なのだろう、その影の持ち主、リクオ自身そう思いながら傍らの小さな…

  • 学パロ 昼が好きな夜と夜が嫌いな昼 弐

    「……離して、っていうか離せ!」「いやだ」「我儘言ってんじゃな……! って、ちょっ、夜……んっ」 ギリギリと拮抗、そして最後には抵抗という暴れを見せるも空しく問答無用で押し留められ、口付けられる。ここは学校で、誰もいない教室で、けれどもドア…

  • 学パロ 昼が好きな夜と夜が嫌いな昼 参

     はぁっ、と息吐いて唇を離す。整わぬ呼吸を押し留めながら、直前まで口付けていた夜をじとりと睨んだ。自分はこんなにも息を乱しているというのに、目の前の男と言えばこの余裕綽々の顔、なんとも腹立たしいことである。それもこれもあんなにキスが上手いの…

  • 学パロ 昼が好きな夜と夜が嫌いな昼 肆

    「…他愛も無い」 そう呟いてリクオは手にしていた鉄パイプを目の前の男たちの方へと投げ捨てた。元々、それは男たちが持ってきたものであり、その男たちは今、全員、地に伏せ呻き声を上げているのだった。大体、仕掛けてきたのはそちらだと言うのに呆気ない…

  • 学パロ 鴆昼前提、攻若→昼←夜若

    『今日の十八時、第二視聴覚室に来てください』 白い封筒に入っていたものは、女子特有の丸い柔らかい筆跡でそう書かれた手紙。特に何かを期待していたわけでは無かった。ただ誰からの手紙かも分からず、何も言わないで放って置いたあげくずっと待たせておく…

  • 数年後の夜と昼

    「出てやろうか?」 聞く耳を持たずといった姦しい座敷をひとり言葉もなく見つめる片割れに男はそう囁いた。声につられてつい、と片割れが視線を向ける。片割れにしてみればまた突然に、と言ったところだろう。障子戸の合間から見えるであろう桜の大木、枝の…

  • ご主人様夜とメイド昼

     ぴちゃぴちゃと音がする。淫らな音だ。こんなところでするような音ではない。……こんな書斎の机上でするような音では。噛んでいろ、と言い渡された黒いメイド服は更に深い色に染まっているに違いない。机の上に乗せられ、後ろに手を付き、広げた足と咥えて…

  • イカサマ勝負

     宴の片隅でよくやっていたから腕にはそこそこ自信があった。ましてや誘いかけてくる相手は鴆と夜。二人とも酒が十二分に入っていたし、興じているところなど今まで見たことがなかったから、負けるなんてそうそう有りはしないだろうと思っていた。全てはそん…

  • 約束 壱

     どんなに時が流れても、どんな姿になろうとも、また君の元に戻ってくるよ。そう言って真っ赤な血に染まった小指を突き出しボクは笑った。「だから、ね、よる……そんなに、泣かないで」 約束するから。また君の元に戻ってくるから。絶対、絶対、君のところ…

  • 約束 弐

     生まれながらに毒を抱く鴆が生まれたと言う。その知らせを聞いた瞬間、それが昼であることをリクオは確信していた。幼友であった、かの兄貴分である鴆から数代、親交は多少薄れようとも現在も良き下僕である鴆一派の当主へその子どもに逢わせろと迫ったのは…

  • 約束 参

     本当は。本当は殺す気だったのだ……三代目、というそのひとを。 生まれながらにして鴆毒を抱く自分は誰よりも強く、如何様にも鴆毒を操ることが出来た。しかしその分だけ、誰よりも醜いとされていた。幼い体を取り巻くのは毒に冒された証である紋様で、そ…

  • 約束 肆

    「はじめまして――幼い鴆……いや、昼、と呼んだ方が良いか?」 聞き覚えの無い名前。与えられていた呼び名とは掠りもしないその響きに、反復するよう、ひる? と首を傾げると三代目はあぁ、と言って目元を和らげた。「お前のその色は昼の世界の色によく似…

  • 夜若→攻若→昼若(力関係:昼若 〉攻若、夜若)

     ギリギリと力が拮抗する中で、こいつがナニをしようとしているのか、それは双子でなくとも分かった。「この、馬鹿、はな、せ…っ……!」「だが断る」 そう言ってあむ、と首筋を噛み付かれると、否応なしにびくりと体が跳ねる。それを良しとばかりに男の体…

  • 夜若→攻若→昼若→夜若

    「……ん…」  微かな声を上げて、昼が目を覚ます。散々、貪られた体は疲労で気だるいのか、自分がすぐ傍にいると言うのにぼんやりとその視線は宙を彷徨った。ぐるりと部屋を一周して、それからようやく視線が合う。かと思えば、「……よる…?」 名前を呼…

  • 異母兄弟パロ 壱

     細い瞳だった。日の下に彷徨う猫のように細くしなやかで、なのに紅を支配するその黒い瞳はとても綺麗。注意深く睨みつけるのに無関心。その一方で声を掛ければ眩しそうにしながらも睥睨する。そんな目だった。「夜のおめめは紅くてきれいだね」 五年経って…

  • 異母兄弟パロ 弐

     赤い夕焼けが空を染め、薄く白く浮かぶ月が輝かしかった太陽と入れ替わりを始める頃、縁側に軽い足取りで進む子どもの影が長く伸びる。この時間帯の子どもは少々元気が良すぎて、幾人かの屋敷の者たちは苦笑を零すのだが、子どもはお構いなしに今日も溌剌と…

  • 異母兄弟パロ 参

     ざく、と貫く重い感触に手を滑らせないよう気を付けながら、ぐっと力を込める。鉄っぽい生臭い血の臭いに纏われながら斬り裂いた体は、切り口から血液や妖気を勢いよく噴き出し、屍と化した。初めの頃とは違い、飛び散る血液で身体に目立つ汚れを残すことは…

  • 異母兄弟パロ 肆(少し大きくなった子夜と子昼)

    「……お前が望まなければ、オレはこれ以上の危害を加えない」 そういう誓約だ、だから安心しろ。そう言って押し倒したままの姿勢で、夜は昼の茶色い髪をさらりと指梳く。思った以上に優しい手つきに、もしかしたらこれは何かの冗談なのかもしれないという一…

  • 酒は飲んでも呑まれるな

     ――ねぇ誰、ここまで夜を酔わせたのは? 声には出ていなかったが、顔もにっこりと愛らしい笑みを浮かべていたが、周囲にいる者たちは皆、恐ろしい地響きのような低い昼若さまの言葉を耳にしたような気がした。 どうしてこうなったのかって? 答えは簡単…

  • 猫又物語【プロローグ・出逢い】

     どんなに時が流れても、どんな姿になろうとも、また君の元に戻ってくるよ。 そう小指を絡め合って紡いだ約束を、君はまだ覚えているだろうか…――。   それは雪のちらつく寒い日のことだった。雪見酒だ、と鴆のところまで足を伸ば…

  • 猫又物語【かくれんぼ】

     気持ちの良い風が吹き、生い茂った青い葉がさわさわと葉擦れの音を響かせる。季節は春から夏へ。花の盛りも疾うに過ぎたしだれ桜の上で、リクオは煙管を片手にのんびりと夜の帳が下りるのを眺めていた。夕暮れから夜へと変わっていく時間帯、妖怪たちの動き…

  • ご近所さんの話 壱【大人夜と子昼】

     怖い、怖いよ、と子どもの泣く声がする。赤い赤い夕焼け色に染まる世界で、奇異な目で嘲笑うばかり誰一人として助けてくれる者のいない世界で、子どもは必死にその短い足で走り、縺らせ、転び、されど起き上がっては這い逃げる。 子どもはいつも追われてい…

  • ご近所さんの話 弐【大人夜と鴆(一部、鴆→夜)】

    「……つまりだ、あんたはいつから衆道横切って稚児趣味になったんだ」「稚児とはまた粋も何も無いもんだ。もう少し違う言い回しが出来ないもんかねぇ」 稚児は稚児だろう。あんな子どものうちにさえ入らぬようなガキ相手に何やってるんだ! と怒鳴りたいも…

  • ご近所さんの話 参【大人夜と子昼の訪問】

     静かな夜道にからん、ころん、と音が鳴る。歩を進める度にからん、ころん。小さな歩幅でゆっくりとからん、ころん。軽やかなそれは耳に心地よくリクオにとっては決して嫌いな音ではなかった。……いや、むしろ好き、という部類に入るだろう。 母の揺れる袂…

  • ご近所さんの話 肆【大人夜と子昼、時々鴆】

     主はとても気紛れだ。それは猫のように、風のように、機嫌一つ、思惑一つで相手をあれやこれやと弄ぶ。珍しく差し出されたその白き手さえ、如何に鴆が恭しくいただき舌を這わそうとも眉一つ動かさず受け入れていたというのに、突然何を思ってか簡単にひらり…

  • ご近所さんの話 伍【大人夜と子昼でハロウィン】

    「本当にお母さん、付いて行かなくても大丈夫?」「うん、平気だよ! 夜が誘ってくれたんだから危ないことはないでしょ? そんなに心配しないでよ」「ふふ、それもそうね。みんなも一緒だし危ないことなんて無いわよね。それじゃあ、みんな気を付けて行って…

  • 獣は花の夢を見るかパロ 壱

     ……お母さん、僕、何も悪いことやってないよ……? ちゃんと言うこと聞いてるよ……? でも、さ、もう、さ、こんな、事――――……。   踏みしめていたコンクリートから踵を浮かせる。大丈夫、大丈夫、この小さな段差に足を掛け…

  • 獣は花の夢を見るかパロ 弐

    「……リクオ様」「ん? ……あぁ、首無か」 煙管片手にぬらりくらりとやって来た男に首無は呆れたように溜息を零した。随分遅い御着きなようで、総大将に怒られますよ、と苦言を呈してもその余裕さは変わらない。……もはやさすがと言うべきか、たまには耳…

  • 獣は花の夢を見るかパロ 参

     莫迦な行為だと、無謀な行為だと分かっていた。それでも押し進める足を止められなかった。明るいネオンの灯った街の中、怪しい店ばかりが顔を出す夜の街で、決して子どもが歩き回るような場所ではないと突き付けられる雰囲気に呑まれそうになりながらも昼は…

  • 獣は花の夢を見るかパロ 肆

     一体、どれだけの時が過ぎ去ったのか……。闇夜に沈んだ街に雨が降る。それは一つ、二つと大きめの雨粒が落ちてきて、次第に数を増やし、いつしかさぁさぁと細く切れない糸のように続いて、しとどに昼の体を濡らした。結局、帰る場所も、逃げる場所もなかっ…

  • 獣は花の夢を見るかパロ 伍

    「…んっ、…よ、る…っ……ま、…待っ…」 少しだけ慣れ親しんだ玄関。そこをくぐった瞬間、夜は鍵を閉めるのさえ忘れ、自分へと深く口付けた。勢い任せのままにガタン、と音を立てて押し付けられたドアは冷たいはずなのに今はそれさえもどうでも良くて、そ…

  • 獣は花の夢を見るかパロ 陸

     大都会のある場所にその屋敷はひっそりと佇んでいた。アスファルトと壮大な高層ビルに占められた、この街の中には似つかわしくない土と草木の香りを纏う純日本建築。門先には青い炎が揺らめき、屋敷の中には何故か一年中、枯れることなく淡い薄紅色の花弁を…

  • 咎人 壱

     神様、赦してください。 自分は好きになってはいけない人を好きになってしまいました。愛してはいけない人を愛してしまいました。 結ばれるべきではない間柄だと分かっています。悲劇しか生まぬ関係なのだとずっと昔から知っています。 それでも傍にいた…

  • 咎人 弐

     また見られてる……。 見返してはいけない。こちらが気付いていることをあちらに気付かせてはならない。こちらが気付かなければあちらもそう易々と手を出したりはしないから。自然に振舞うのだ。いつも通りの道と、いつも通りの眺めと、そう思い込むのだ。…

  • 咎人 参

     知識が無いわけではなかった。同じ性を持つ者同士でも出来ないことはないのだと同じクラスの女子生徒が面白半分に話してくれたから。あの時はキスどころか告白さえ満足に出来る関係では無かったから、へぇ、そうなんだ……、と何とも言いようのない顔で無難…

  • ひとりがふたりになる話 壱

     はらり、はらりと薄紅色の花弁が舞う。幾つもの樹齢を重ねただろうしだれ桜は、少しばかり咲き誇る時期を過ぎてしまったというのに一向に葉桜になる気配はなく、それどころか依然として花咲き誇る美しさを魅せていた。綺麗だなぁ、と昼は柱に凭れつつ、大樹…

  • ひとりがふたりになる話 弐

     桃ってのは退魔の力があって、この酒には妖気さえ弾く力があるんだと。 そんな話を聞いて目覚めてみれば、人間の自分と妖怪の自分、二人で一人の自分たちが見事二つの個体として分離していた。妖気を弾く――その言葉通り、退魔の酒を含んだリクオはその体…

  • ひとりがふたりになる話 参

     風邪を引いてもいけないから、先に湯浴みしてしまいなさいな。そう言って追い立てられた浴場で、湯により浮かび上がる同じ箇所の傷痕に触れ合い、あわよくばと夜が食指を伸ばしかけたところで、その知らせは届いた。――あと四半刻もしないうちに今宵の宴は…

  • ひとりがふたりになる話 肆

     側らにあった桜の木に背を預け、どちらともなく唇を貪った。角度を変え、唇を触れ合わせ、柔らかな口内をくすぐり舌を絡める。始めは舌先でつつきあって、徐々に大胆に表面をざらりと擦れ合わせれば、ほんのりと残る酒の香を交えて。 くらりと眩暈を感じつ…