咎人 参

 知識が無いわけではなかった。同じ性を持つ者同士でも出来ないことはないのだと同じクラスの女子生徒が面白半分に話してくれたから。あの時はキスどころか告白さえ満足に出来る関係では無かったから、へぇ、そうなんだ……、と何とも言いようのない顔で無難に答えて、そうなのか、と少しだけひとり小さな夢を見た気がする。出来るのだと、もっと違う関係になれるのだと。ただ、妄想はそこでお終い。実際は同じ歳の恋人たちがやっているような手を繋ぐこともままならない相手ではどうしようもないのだと思うとその先を考えることは諦めた。それは真実が明るみに出てからも同じで、つまるところ昼は同性同士で『出来る』という事実は知っていても、『どうすれば出来るのか』なんてことは知らなかったである。まさかそんな知識が必要となるなんて思ってもみなかったから。自分の夜への想いは永遠に自分の胸の内に仕舞われるものだと思っていたから。まさか痛いと脅しを掛けられた先の話がこの行為だなんて一体誰が思っただろう。嬉しいのに現実は知識も無く、どう応えれば良いのかも分からなくて、おろおろと視線を惑わせていることしか出来ず……それに夜は艶やかに笑う。
 自分に全てを任せれば良いのだと、そう言って。

「…………ぁっ、…ふ…」

 夜の指が胸の頂きを優しく撫ぜる。触れるか触れないかの絶妙な距離で丸く円を描くように撫でられるそれは、どちらかと言えばくすぐったくて恥ずかしかった。思わず腕で顔を隠せば、隠してくれるなと、ふっと洩らされる吐息がもう片方の頂きへと吹きかけられ、こそばゆさに身をよじる。顔はまだ隠したまま。まぁ、いいさ、と男は呟いて、薄く唇を開いた。頂きにぬるりと湿る感触が触れ、びく、と肩を跳ねさせると、生ぬるいそれはちょん、ちょんと先をつついて、全体をべろりと舐め上げた。

「………ん、ぅ、ふ…っ」
「――尖ってきた」

 可愛らしくぷっくりと。舌に唾液をたっぷりと纏わせ、男は頂きに触れる。くに、と舌で弄られて、じっくりと潰すように舐め上げられ、舌の上で転がしながらちゅっ、と吸いつかれたかと思えば、少し鋭い歯で甘く噛みつかれて。もう片方も同じようにくにくにと抓まれるばかりか、爪でカリ、と引っ掻かれればくっ、と背が撓った。むずむずする。……でもそれだけじゃない。じんじんと熱を帯びてそこに神経が繋がっているようにあらぬところまでもじわりと熱が上がるような、そんな感じ。びくびくと震える体に気を良くしたのか夜は指で、爪で、舌で、歯で、唇で愛撫することを止めず、教え込むかのように繰り返し動作を続けた。堪らず顔を覆っていた腕を男へと伸ばす。靡く銀色の髪に指を差し入れて、押しとどめようと力を込めるも、さらさらと流れて上手く力が入らない。
 ……しかし男はそれに、よく出来ましたと顔を露わにした昼へ唇を弧にして、空いた手を下へと滑らせた。そろりと大腿に這わせられた指、それが内腿を掠めた瞬間、ちりっと火傷に似た僅かな痛みが走る。

「…ッぅ……な、に…」
「あぁ、これかい? オレの妖気を入れたと言っただろう? その妖気が主であるオレに反応しているだけだ。悪い気はしないはずだが?」
「…ぇ……んっ……ん、…ふ…っ!」

 するすると、手のひらで擦られる内腿。痛みだったはずの感覚は二度、三度と続けられるうちにじくじくと痺れるような熱となって灯り始め、ゆるゆると昼は腰を揺らめかす。
 ――どうしてだろう。……体が熱くて熱くてしょうがない。
 何となくであった奥の疼きがもはや違えようも無い程にずくずくと脈を打ち、羞恥心を煽る。そんな昼の胸にちゅ、と夜は口付けを落とし、優しく舐り、もう片方は指でつまんで、ゆっくり、ゆっくりと責め立て、幼い体を悶えさせる。
 そうしてしばらく愛撫した後で男は唐突に唇を離し、ゆるりと満足そうに目を細めると、尖りきったそれをつんと爪先で触れた。どちらも立ち上がる可愛らしい頂きであるが、口に含んだ方はてらてらと唾液で濡れて赤く色付き、十分欲をそそる姿へと変わり果てていた。それに、もうしばらくか、と小さく笑って、夜は意地の悪い目で昼の顔を覗き込む。赤くていやらしくて可愛いからお前も見てみな、なんて言って。そこで昼の羞恥は限界に達し、頬だけでなく、耳朶、首、ありとあらゆる場所を真っ赤に染め上げ、せっかく伸ばしていた腕も再び顔を隠すために縮んでしまうと、夜は許さぬとばかりにその手を取って己の頬へと添えさせた。

「隠すくれぇなら触れてくれねぇかい? お前の指は気持ちが良い」

 隠すなと言いながら手のひらへ顔を擦り寄せる夜に、少し戸惑いを見せながらも昼は恐る恐る男の顔を撫でた。頬から目元、それから形の良い耳、顎……染み一つ無いすべすべとした肌に、形の整った骨格、そこらにいる女性よりもよっぽど美しい顔立ちをする男に昼は違った意味で心拍を速める。
 きれい、と知らずほう、と溜息を吐いて最後は濡れた唇に触れれば、ふにゃりと柔らかい感触がした。酷薄そうに見える薄い唇。けれどその唇から零される優しい言葉を昼は確かに知っている。

 ふと、男の唇がそっと開いた。隙間から覗いた舌が、唇を辿っていた昼の指を探り絡み付くと、驚く昼を余所にそのままぱくりと咥えてしまう。それからあむり、と噛み付き、ぎゅっと目を瞑る昼を見れば、夜は全く可愛い指だと誉めそやした。

「可愛いこの指で、いつも自分のを慰めたんだろ? ……ここ、を、こうやって――必死に声を殺しながら」
「――――――な…っ……ひぁ、あ…っ!!」

 ここ、と、夜は開いた合わせを肌蹴させ、下着を器用に取り去るとその幼い性へと手を伸ばした。既に熱を持っていたそれは緩やかに立ち上がっており、蜜を滴らせとろりと男の指を濡らして――それを、輪にしてゆるゆると上下に繰り返せば、唇からは、あ、あ、と高い嬌声が零れる。覚えているだろう、と男が問い掛ける。この部屋で、こうやった感触を。夜毎、よる、よる、とうわごとのように洩らし、切なくもひとりあまやかな声を呑み込んで自分を慰めていたことを。かああ、と全身が紅に染まる。知られていたのだという事実に動揺と羞恥がごちゃ混ぜになる。思わず涙を溢れさせると夜はそれを舌で掬い取りながら、泣くなと苦笑しつつ、泣かなくて良いからあの時と同じように自分の名を呼んでみろと、声を殺さず啼いてみろとその手を滑らせた。

「…やぁッ……よ、…ん、ああぁ…ッッ…」

 ぬるぬるといつも以上に滑るそこ。夜の言う通り、確かに自分の手は知ってはいた。……けれども他人の手を知るはずもなくて。触れる手はずっと想っていた相手のもので、予想も付かぬ動きは自分の時とは比べようもないほど快感を与え、添えられた親指の腹がぐりぐりと先をいじり、小さな孔を刺激するように擦られるともう堪らなかった。ひくひくと震えるそこからは次々と涎を垂らし、くちくちと男の指との間に糸を作って。残りの指で包まれたところは揉みしだかれ、悪戯に堰き止められては悲鳴を上げた。昼の爪先が何度も布団を引っ掻く。

「あ、…よ、る……はっ…や、ぁ、あ…っ…」

 さらに小さくなった指の輪で、下から上へと搾り取るように動かされると腰から下の力全てが抜けてしまうような気がした。内腿がぴくぴくと痙攣する。熱の逃がし方を知らない体にはもう、すぐそこまで限界が訪れていた。イきたい、出したい、気持ち良くなりたい……。とろとろと溶けそうになる思考、心は欲望に忠実で快楽を享受する。けれどもそこですんなりと受け止められなかったのは、とろける頭の片隅で、このまま達してしまえばどうなるか、という考えがふっと頭をよぎったからだ。
 それは子どもながらの潔癖だったかもしれないし、もしかしたら想い人は穢れに遠い存在などと神聖視していたのかもしれない。口にすればおそらく今更なことと軽く笑い飛ばされることだろう。それでも昼は、ただ夜の手を汚したくないとばかり考えて、きゅうっと耐えるよう唇を噛み締めた。
 とにかく震える腹を撫でようと、弱い所を強く擦られようと昼はふるふると頭を振り、頑なに達することを拒む。今、出しておかねば後で辛い思いをするのはお前だぞ、と囁かれても昼の心が変わることは無く、しょうがない、と夜は肩を竦めると、触れていた手をやんわりと離すのだった。

「――初めてだってぇのに、知らねぇぞ?」

 意地悪気にそう言って、少し足りねぇか、と男は濡れていた指を口に含んだ。何をしようとしてるのか見当も付かず、ぼぅっと見つめる昼に魅せ付けるように、くちゅ、と音を立てて舌を見せ、たっぷりの唾液を纏わせていく。同じ男であるというのに艶のある淫猥な姿、それに知らずこくりと喉を鳴らすと真っ赤な舌が白い指先を丹念に舐って。あぁ、これが自分に触れていたのだと思うとそれだけで昼の奥底がずくりと疼いた。つ、と唾液が指を伝うほど濡らしたところでようやく咥えるのを止めると、夜は片手でそっと膝裏を掬い開かせる。ひやりと冷たいものが滑り落ちた。指が奥のつぼみへと触れる感触に――なに、と口にするより先、それはぬるりとくすぐり、熟れさせて、ゆっくりとナカへ入ってきた。何をするのだと……いやだと、こわいと怖ろしくなって首だけをふるふると横に振る昼に、夜はふっと笑って、落ち付けとばかりに唇へと触れる。

「いいか、昼。ここ、を使うんだ。ここ、で繋がる。痛ぇのが嫌なら大人しくしてな」

 ならすだけだから、とそう言って優しく唇を食み、そちらに気を取られているうちに含まれた指はぐっ、と奥へと進んだ。すぐに襲う少なからぬ圧迫感、慣れない感覚。耐えるように、縋るように布団をきつく握って必死に呼吸を落ち着かせようとすれば、夜は額に唇を落として、指の数を増やし、ゆるりとナカを探った。言いようのない違和感に、固く目を閉じる。思わず息を止め、体を強張らせる昼に男は苦笑を洩らして今度は唇を重ね、舌でなぞると薄く唇を開かせ、呼吸を促す。そしてお前も触れろとばかりにちろりと伸ばされる舌に、そっと絡み付けば少しだけ体が弛緩するのが分かった。夜との口付けは頭が痺れるような感覚を齎し、気持ちが良い。
 もっとちょうだいと夜の頬に耳朶に指を這わしてねだってみれば、それに男は一瞬ぴたりと止まり、しかしすぐに噛み付くように荒く深いものへと変えた。指の動きと口付けの苦しさに浅い呼吸を繰り返しながら、もっとと、早くと快楽と圧迫の挟間で知りもしない次を望む。……男の指がある部分を掠めるまでは。

「ひっ…ゃ、…ア、…ンンン…っ…!」

 そこを擦られた瞬間、びくん、と体が跳ねた。びり、とそこに電流が流れたような、とでも言えば良いのか。突然のことに、何が起きたのか分からず、何が起こっているのかも分からず、今にも零れそうな涙を目じりに浮かべる昼だったが、夜は一度唇を離して、ここか、と艶冶に唇を弧にすると、そこを何度も擦り上げた。意識しているわけでも無いのにきゅう、とナカが収縮して、甘い疼きが生まれる。

「…あっ……や、…だ…や…あああ…ッ……」

 折り曲げられた指でぐっ、と強く押し込まれる度に体が撓って、あまりの気持ちよさに身を捩ると、暴れんじゃねぇよ、と愉しそうに押し留められ、また触れられて。そんなことを言われても、と昼は布団に顔を擦り寄せる。声を抑える余裕なんて無い。上手く快感を逃す手立てなど以ての外で、頭が白く染められる。くるりと撫でられ、くにくにと押しつぶされ、奥底から高められる射精感、強張りはいつの間にか解けて、ひくつくそこは呑む込む指を従順に受け入れていた。引けば吸いついて離そうとせず。再びとろとろと蜜を零し始める高ぶりに指を絡め、潤滑剤のように纏わせると、また一つ指を増やして同じ所へ。幾度も注挿を繰り返し、ナカを拡げて、それぞれの指をばらばらに動かして。喘ぐ声は止まらずに、時間を掛ければ掛けるほど柔らかくなっていくそこに、男はふっと満足気に笑みを浮かべて、こんなものかと指を引き抜いた。

「――昼、イイコに、力抜いてろよ?」
「え……っぅ、…いっ……ッッ…!」

 両の膝裏を抱えられ、ひたり、と熱いものが押し付けられる。ぐぐ、と押し入ってくるものの熱さに、圧迫感に、ひゅっと昼は息を呑んだ。入るには狭いと明らかに分かっているところへ無理やり押し入ってくるそれは、言わずもがなひどい引き攣れと痛みを伴い奥へと進む。初めての痛みに先程までの心地良さなど瞬く間に吹き飛んで、ぽろぽろと涙が零れた。けれども、きついのは夜も一緒なようで、普段の涼しい顔とは程遠い、眉を寄せ余裕の無い顔で、息を吐きな、と口に指を割り入れ舌を引き出す。
 その間にも深くナカを犯していく熱と痛み。途切れ途切れになりそうな意識を必死に留めて、出来る限り息を吐きだそうとすれば、夜は唇をなぞって自分のそれを重ね合わせた。
 それは決して舌を、唾液を交らせるような濃厚なものではなく、ちゅっ、ちゅっ、と触れるだけの、唇を食まれるだけの優しいもので。角度を変えて、上手く吐息を洩らす隙間を与え、安心と落ち着きを取り戻させてくれるそんな口付けだった。あまやかなそれに縋りつきたくて血の気の引いた少し冷えた指で頬をなぞると、こっちだ、と男は腕を掴んで己の首へと回させる。自分なんかが、と躊躇する昼に男は唇を引き上げ、更にぐっ、と強く腰を押し付け、奥へと進んだ。

「…ぃ、……ッ…ふ、あ、あ……!」
「――……ほら、全部入ったぜ? 昼。繋がってんだ……分かるだろう?」

 奥の奥まで、侵入してくる熱に堪らずぎゅっと抱きついた昼に悦を浮かべ、そう囁いて。労わるように前髪を掻きあげ、汗の浮かぶ額に、涙の痕を残す目元に、赤いままの頬に夜は次々と口付けを落とす。そして痛みに萎えかけていた幼い性をゆるゆると扱けば、直接的な刺激はみるみるうちに熱を取り戻させ、知らず詰めていた息を、はふりと吐き出させた。
 それから次第にナカで感じる熱。じくじくと広がるその熱に、ふるりと腰が震える。ぎちりといっぱいいっぱいに収まったそれが苦しくとも何故か嬉しいと思った。あぁ、これが繋がるということなのだと、夜の熱なのだと、そう思っただけでナカが蠢く。もっと欲しいと夜を求める。回した腕に力を込めた。近づけた夜の唇に自分から重ねて、ふわりと笑う――嬉しいのだと、しあわせなのだと、その思いを伝えたくて。一瞬の口付けに、夜はうっすらと目元を赤く染める。苦虫を噛み潰したような顔をして、けれども次の瞬間には、ひとを煽るのは程々にしとけ、と不敵に笑って、息を吐く。

「………加減、忘れんだろ?」
「……ぇ……?」
「覚えとけ…無闇やたらにひとを煽ったらどうなるか、ってな」

 膝裏を抱え直して、突然、夜は激しく動き始める。なじみ、食らいつくように引き留めるナカから無理やり引き抜いて、急に無くなった熱量へ寂しげにひくつくそこへもう一度深く穿って。柔らかく受け入れつつあったそこは驚いてきゅう、と締め付けまた男を誘う。昼と言えば痛いと言うよりも熱いという感覚が強く、灼け爛れてしまうのではないかという思ってしまうほどだった。荒々しい注挿にただ体を任せて、同時に触れられる高ぶりに快楽を得る。
 腰が勝手に揺らめいて、夜の手へと自ら擦りつけた。あぁ、そうだったな、と男はささめくと、膝をぐっと押し曲げてここだろ? と狙いを定め思いきり擦り上げた。

「…ひぃっ、…あ…あああ…あ、…ッッ…!」

 達するかと思うくらい強い衝撃に昼の体はびくんと仰け反る。それが出来なかったのは偏に男が高ぶりの根元を強く握ったからで――指でも堪らなかったところを、今度はあの熱でも触れられるのだということに昼は恐怖を覚えた。そんなことをされれば、オカシクなってしまう。せめて手を離して、と。いやいや、と慌てて首を振る昼に、夜は容赦などしなかった。煽ったお前が悪いのだと、気持ち良い方がいいだろう? と、最後はイかせてやるから我慢しろと、そう言って己のものをギリギリまで引きずり出す。感じるところを荒々しく押しつぶすように摩擦して、奥まで突き上げ、引き抜く時もまた腰を使って。お前のナカは気持ちが良いな、とうっそりと目を細める夜は根元を戒めながら、ゆるゆると他の指で刺激した。
 つ、と伝う蜜を指で辿って、袋もやんわりと揉みしだいて。そうすればナカでは嫌が応でも収縮し、男のものをさらに締め付け離さぬようになるのだが……昼からしてみれば堰き止められ、先の方から白いものを滲ませ、もう限界だった。

 擦られる度に、奥へと穿たれる度に体は驚くほど跳ねて、ぴんと足が伸びる。その瞬間、強く締め付けるというのに、ずるりと引き出されれば快感と共にくたりと力が抜け、そうすると夜が動いてナカへ進み、足先で引っ掻く布団は皺を増やして。
もはや、達しているのか、いないのか。強すぎる快楽に抱き付いた背へ爪を立てる。
 許容の範囲などとっくに超えていた。増え続けはしても減ることのない熱は確実に昼の理性を削り取っていた。痛みなんて忘れてる。あるのは溶けてしまいそうなほど激しい熱と快楽のみで。……イかせて、と朦朧とする頭で昼は懇願する。もうイかせてと。赦してと。終わりを乞い願った。く、と夜が肩を竦める。

「――全く…普段はねだり下手のくせに…こういう時だけねだり上手とはな」

 どうせなら、もっとせがむとこを見せてもらいてぇもんだ、と苦く笑い、まぁ、次の愉しみに取っておくかとそう呟いて、仕方無いとでも言うように戒めていた指を外すとぐちゅりと音を立てて深く突く。腰を動かし、高ぶりを愛撫して、出してしまえと先を促されれば。我慢など出来るはずもなく、くっ、と撓る身体、無意識に力の込められる手足が、終わりはすぐそこだと示していた。ほら、と男が高ぶりの先を指でつつく。割り開いて敏感なそこを抉るように触れられて。ぐり、とナカの弱いところを擦られた瞬間、もうダメだとばかりに昼はひゅう、と大きく息を吸い、頭を真っ白に染めた。

「…っ…、……ぁっ、――――…ッ!!」
「――――ッッ、」

 ぴん、と足先を伸ばし、爪を立て、びくんびくんと体を大きく痙攣させると、びゅるりと濃い白濁が勢い良く吐き出される。それがべっとりと男の手を汚すのと共に、これ以上無いくらいの締め付けに、男もつられるよう昼のナカへと欲を吐き出した。
 達したばかりの腹の内に感じる滾る熱。ひくひくと腹を震えさせ、息が止まった。受け止める熱にどろりと浸る感触にぎゅっと目を閉じて耐えていると、それを宥めるように夜は唇で瞼に触れてずるりとナカから己のものを引き抜いた。途端、熱を持った体に一気に疲れがドッと押し寄せて来る気がした。
 くたり、と体の力が抜ける。未だ熱いものがナカを伝う感触に一度だけぴくりと肩を跳ねさせるもの瞼は重く、目を瞑ると余計、意識もふわふわと現実味を帯びないものへと変わった。

 昼、と夜が名前を呼ぶ。なぁに、よる、と返したかったけれど何分、体のあちこち、どこもかしこも重くてだるくて口さえ利けず、するすると頬や髪を撫でる手をうっすらと感じていた。それが終わると、次は柔らかい何かが顔中をくすぐって。額、鼻先、頬に目元……そうして耳朶にまで及び、ふるりと吐息のようなものと共に吹き掛けられる夜の声。

「―――…やっと、手に入れた」

 そう呟かれる声と共にくつり、と笑う音が聞こえ、唇をそっとなぞられる感触。二度、三度と往復して、また柔らかいものが触れ、あぁ、と感嘆にも溜息にも似た声音が耳朶を掠めた。

「………愛してる、昼。これでお前はオレのもの……」

 もう逃がさないぞ、と内腿を撫で擦る夜に、逃げないよ、と心の中でそう言って、昼はとろりと微睡みの中へと落ちていく。愛してる、とそう囁かれただけで十分だった。これ以上に望むこなんてありはしなかった。僕も好きだよ、と言いたかった。そう言って抱き締めて、その感触を確かめたかった。けれども指一つ、言葉一つ浮かばなくて、目が覚めたらきちんと言おうと心に決める。
 すぅ、と眠りに落ちる昼。そんな眠りに落ちる昼の知らぬところで……己の手のひらの下で、紅々と浮かび上がった桜の紋様が、初めの頃より可憐な花を一つ増やしているのをただただ夜は気悦に満ちた目で見つめているのだった。