夜若→攻若→昼若(力関係:昼若 〉攻若、夜若)

 ギリギリと力が拮抗する中で、こいつがナニをしようとしているのか、それは双子でなくとも分かった。

「この、馬鹿、はな、せ…っ……!」
「だが断る」

 そう言ってあむ、と首筋を噛み付かれると、否応なしにびくりと体が跳ねる。それを良しとばかりに男の体が調子に乗って、より一層体を密着させた。噛み付いた跡を撫でるようにべろりと舌で這われれば、肩を押し戻していた手の力が少しだけ弱まって、にやりと男の嗤う気配がする。

「どうせ暇なんだろ。付き合え」
「……なっ、それこそ、断る……!!」

 何が嬉しくて男相手に、それもよりによって自分そっくりな双子の片割れに組み敷かれなくてはならないのか。そう抗議する自分に、だから暇つぶしだろ、と一笑すると、男は慣れた手つきでするりと合わせから指を滑り込ませた。暇つぶし、という言葉と言うから乱雑にするかと思えば、その考えとは裏腹に羽で触れるかのような触り方をしてきて、思わず息を詰める。

「ふ…っ」
「とか何とか言うわりには、良い反応じゃねぇか」
「……っ、うっさ…ッ」

 大変不本意なことであるが、この男に翻弄されたのは一度や二度ではない。つまるところ、どこが弱いとか感じるなど全て男の了解済みなのである。ぐりっと膝で下肢を強く擦られ、体が仰け反っても、声を出さなかったのは誉めてほしいくらいだ。全く、一体誰に似たのか、男はその涼しげな見かけによらず梃子でも動かぬ頑固者だ……普段は自分以上の無関心を装って、のらりくらりとしているくせに、こうと決めたら最後まで手を引かない面倒なやつ。しかもなかなかの手練ときた。男はこちらの意思など無視して体を撫でまわす。堪らず体が反応すれば、腰まで伸びる髪がざらざらと畳の上で擦れ、蛇のようにのたくった。それについつい苛立ちが込み上げる。この髪は、せっかく昼に――愛しい弟に毎日手入れしてもらっている気に入りだと言うのに、これでは痛んでしまうではないか。せめて布団の上でやれ、と思いはするものの、そもそもそういう問題ではなかったことを思い出す。

「離、せっ、馬鹿! 今日は、てめぇと、遊んでやる気分じゃねぇんだよ…っ…!」

 第一、遊ぶも何もまずこういう相手には昼しか考えていないということを毎度毎度言っているというのに、何故こうも聞きわけがないのか。嫌がらせ、物好き、その他含め、てめぇの方が面白いから、との理由で組み敷かれるなんて理不尽以外の何物でもない。元々、気の短い性質もあり、苛立ちはすぐにピークを迎えた。今日と言う今日は好き勝手やらせるわけにはいかないのだ。今日はようやく、最愛の弟が(試験とか何とか言う期間を終え)相手してくれる特別な日なのだから。

「い、い加減……ッ」

 手を離せ! と本気で噛み付こうとしたその時――…スス、と音を立てて襖が開かれる。それに自然、動きを止めて、横になったままの視界で音のした方へと下から上に辿って見てみれば、そこには自分達を見て首を傾げている昼の姿があった。それを理解したと同時に、自分の上に乗っかる男がぎくりと肩を跳ねさせたのは恐らく気のせいではないだろう。昔から、この男はなぜか昼を前にして怯えていた。こんな可愛い弟を前にして。

「昼……!」

 だが、自分となれば話は別で、もし自分が犬でであればこれ以上ないほど尾を振る勢いで満面の笑みとなる。男に組み敷かれ、あまつさえ喰われかけていたことなど遥か彼方、思考の隅に追いやって、だ。昼の視線が自分に向けられ、ぱちくりと瞬いた後、にこりと笑みが浮かんだ。それから上で冷や汗をだらだらと流している男にも向けられて。

「わー、愉しそうだね二人とも。ボクも混ぜてよ」

 誰がどう聞いても棒読みな口調でそう言った。口元だけをにっこり笑みの形にして。そうだな、と思い直す、さっきの少しだけ訂正させてくれ、と――可愛い弟は確かに可愛いけど、天使なんだけど、たまにものすごく恐い笑顔浮かべて爆弾発言してくれるんだった、と。あぁ、あと、目はな……目は、笑ってなかったわ。

「それと夜、そこのわんこに手出して良いなんて、言った覚え無いんだけど?」

 ひやりと兄である男二人の体感温度を下降させつつ、とことこと歩いて近付き、なんで勝手に味見してるのかなぁ? なんて問い掛ける昼は天使だけど悪魔だった。傍らにしゃがんで自分の頭を撫でる姿は、抱かれる側とは思えないほど男前だった。その証拠に上にいる男が半泣きしそうな顔で固まっている。まぁ……どんなに恐くても、目の前の男が泣きそうになってても、そっとひと掬いした髪に口付けられている身としては、どうでも良い話なのだけど。