弟夜と兄昼 肆(一部、牛昼)

 隙間から覗くそれに、あぁ、綺麗だなと思った。自分よりも日に焼けて健康そうな肌も、ぎゅっと固く瞼を閉じて耐えるようなその顔も、ぴんと伸びる爪先も、猿轡をされた唇から零れる喘ぎ声も、みんなみんな綺麗だと思った。綺麗という言葉以外それを表す言葉を夜は知らなかった。普段の物静かな様とは全く違う姿。牛鬼の膝の上に座らされ、割開かれた裾からもぐり込んだ指に自身を翻弄され、激しく上下される度に背を反らせる兄。高く鼻にかかる甘い声に夜の体はじくじくと熱を灯した。

「――そこに居られるのは夜若様か?」

 魅入っていて、つい気配を消すのを忘れていた。別に否定する理由もなかったから、そうだと答えると昼の体がびくりと大きく震えるのが分かった。どうぞ中へ、と入ることを促されて、すす、と襖を開ければ、んー、んー、と昼がくぐもった声を出してふるふると首を横に振る。少しだけ綺麗じゃなくなった。何してるんだ、と問い掛けると、見ての通り、と牛鬼は答えた。見ての通りも何も初めて見るものだからよく分からなかったのだが。
 牛鬼がきゅっ、と強く胸の頂きを摘まむと、昼は顎を仰け反り、爪先で宙を引っ掻いた。それが綺麗で、それ以上のことを口にするのは止めた。無粋だ。
 それよりも随分と面白そうなことをしている。小さな手で真似して兄の大腿を撫でさすると、ふるりと震え、しかし嫌とでも言うように抵抗する。まるで自分だけが拒否された気分になって口を尖らせた。牛鬼の時はあんなにも綺麗で気持ち好さそうな声を上げていたのに。

「――何を?」
「声、聞きたいから外す」

 別に良いだろ、とそう言って、勝手に昼の後頭部で固く結ばれた猿轡を解く夜に牛鬼は何も言わなかった。そうですか、とただそれだけを呟いてゆっくりと昼のものを扱く。くちゅくちゅと濡れた音に苦しそうな声。なかなか緩まず時間を掛け、ようやく結びを綻ばせて外してやると白い布と、それに対照的な昼の赤い舌とにつ……、と糸が繋がって。甘い息遣いが漏れ出でて、夜の耳朶をくすぐった。

「あっ…ぁ…ん、ぁ…ッッ」

 やっぱり綺麗だな、と思う。もっと見せて、と半ば熱に浮かされたように夜が昼の耳元へと囁けば、昼はだめ、だめ、と繰り返して泣く。

「だ、…み…なっ…、で……よ、る…んん…ッ」
「やだ。もっと綺麗な昼、見せてくれよ」

 どうしたら、もっと綺麗になるだろうか。どうしたら……。
 そうだ、と夜は昼の胸に指を伸ばす。赤く熟れた胸の尖り、それをカリッと引っ掻いて、ぐり、と牛鬼が弱いところを抉るように触ったせいもあるのだろう――思わず見開いたその涙浮かぶ目はとても綺麗で、すぐに閉じられると夜はまた見たくなってしまった。

「や…っ…あ、ぁ…」
「夜若様、どうせならこちらに触れてやるといい」
「でも……びくびくしてるぞ?」
「安心くだされ――もうすぐ爆ぜてしまう証でございますよ」

 ふぅん、と一つ頷いて、ぬるりとすべる高ぶりへと指を絡める。熱くて、震えてて変な感じだ。ひくひくと震えていると逆につついてみたくなって、夜は指の先でつつ、となぞり、激しく擦り上げるとより一層震えは大きくなった。