ひとりがふたりになる話 肆
側らにあった桜の木に背を預け、どちらともなく唇を貪った。角度を変え、唇を触れ合わせ、柔らかな口内をくすぐり舌を絡める。始めは舌先でつつきあって、徐々に大胆に表面をざらりと擦れ合わせれば、ほんのりと残る酒の香を交えて。 くらりと眩暈を感じつ…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
ひとりがふたりになる話 参
風邪を引いてもいけないから、先に湯浴みしてしまいなさいな。そう言って追い立てられた浴場で、湯により浮かび上がる同じ箇所の傷痕に触れ合い、あわよくばと夜が食指を伸ばしかけたところで、その知らせは届いた。――あと四半刻もしないうちに今宵の宴は…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
ひとりがふたりになる話 弐
桃ってのは退魔の力があって、この酒には妖気さえ弾く力があるんだと。 そんな話を聞いて目覚めてみれば、人間の自分と妖怪の自分、二人で一人の自分たちが見事二つの個体として分離していた。妖気を弾く――その言葉通り、退魔の酒を含んだリクオはその体…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
ひとりがふたりになる話 壱
はらり、はらりと薄紅色の花弁が舞う。幾つもの樹齢を重ねただろうしだれ桜は、少しばかり咲き誇る時期を過ぎてしまったというのに一向に葉桜になる気配はなく、それどころか依然として花咲き誇る美しさを魅せていた。綺麗だなぁ、と昼は柱に凭れつつ、大樹…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
咎人 参
知識が無いわけではなかった。同じ性を持つ者同士でも出来ないことはないのだと同じクラスの女子生徒が面白半分に話してくれたから。あの時はキスどころか告白さえ満足に出来る関係では無かったから、へぇ、そうなんだ……、と何とも言いようのない顔で無難…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
咎人 弐
また見られてる……。 見返してはいけない。こちらが気付いていることをあちらに気付かせてはならない。こちらが気付かなければあちらもそう易々と手を出したりはしないから。自然に振舞うのだ。いつも通りの道と、いつも通りの眺めと、そう思い込むのだ。…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
咎人 壱
神様、赦してください。 自分は好きになってはいけない人を好きになってしまいました。愛してはいけない人を愛してしまいました。 結ばれるべきではない間柄だと分かっています。悲劇しか生まぬ関係なのだとずっと昔から知っています。 それでも傍にいた…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
獣は花の夢を見るかパロ 陸
大都会のある場所にその屋敷はひっそりと佇んでいた。アスファルトと壮大な高層ビルに占められた、この街の中には似つかわしくない土と草木の香りを纏う純日本建築。門先には青い炎が揺らめき、屋敷の中には何故か一年中、枯れることなく淡い薄紅色の花弁を…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
獣は花の夢を見るかパロ 伍
「…んっ、…よ、る…っ……ま、…待っ…」 少しだけ慣れ親しんだ玄関。そこをくぐった瞬間、夜は鍵を閉めるのさえ忘れ、自分へと深く口付けた。勢い任せのままにガタン、と音を立てて押し付けられたドアは冷たいはずなのに今はそれさえもどうでも良くて、そ…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
獣は花の夢を見るかパロ 肆
一体、どれだけの時が過ぎ去ったのか……。闇夜に沈んだ街に雨が降る。それは一つ、二つと大きめの雨粒が落ちてきて、次第に数を増やし、いつしかさぁさぁと細く切れない糸のように続いて、しとどに昼の体を濡らした。結局、帰る場所も、逃げる場所もなかっ…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
獣は花の夢を見るかパロ 参
莫迦な行為だと、無謀な行為だと分かっていた。それでも押し進める足を止められなかった。明るいネオンの灯った街の中、怪しい店ばかりが顔を出す夜の街で、決して子どもが歩き回るような場所ではないと突き付けられる雰囲気に呑まれそうになりながらも昼は…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ
獣は花の夢を見るかパロ 弐
「……リクオ様」「ん? ……あぁ、首無か」 煙管片手にぬらりくらりとやって来た男に首無は呆れたように溜息を零した。随分遅い御着きなようで、総大将に怒られますよ、と苦言を呈してもその余裕さは変わらない。……もはやさすがと言うべきか、たまには耳…
最期まで、君と共に夜のリクオ×昼のリクオ