ぬら孫 他

数年後の夜と昼

「出てやろうか?」 聞く耳を持たずといった姦しい座敷をひとり言葉もなく見つめる片割れに男はそう囁いた。声につられてつい、と片割れが視線を向ける。片割れにしてみればまた突然に、と言ったところだろう。障子戸の合間から見えるであろう桜の大木、枝の…

鴆と子リクオ

 遠くでごふ、かふ、と息を詰めるような我慢するような咳の音にふと意識が浮かび上がった。じっとりと重苦しいくらいの闇の中、いつもならぐっすりと眠っている時間で、これくらいの小さな音では起きもしないというのに、不思議と今日に限って目が覚めてしま…

鴆と子リクオと父

「ねぇ、おとうさん。どうして、ゼン君には名前が無いの?」 ことり、と可愛らしく首を傾げた息子にそんなことを聞かれた。「? 名前ならあるだろ? 鴆、てお前も呼んでるじゃねぇかい」「違うよ、それは妖怪の種類の名前って、この前ゼン君言ってたもん」…

馬鹿親な鯉さんと子リクオ

 親というのは何だかんだと言って、子どもが可愛くて可愛くてしょうがない生き物であり、それがまだ小さい上に何百年と待ちに待った御子なら尚更のこと、子煩悩とならずにいられようか……いや、いられまい。まさにそんな子煩悩が服を着て歩いてるような御人…

奴良家と子リクオ

 一家団欒の真っただ中、ねぇねぇ、お父さん、と無邪気に子どもが口を開く。「今日聞いたんだけどね、ヒロシくんのところに妹が生まれたんだって! ヨシキくんは今度弟が出来るとも言ってたよ。ぼくも弟や妹が欲しいな。おにいちゃんって呼ばれたいよ。ねぇ…

鴆と赤子リクオの邂逅

 鴆は側近たちの目をすり抜けて呼びだした元主のところへと向かう。普段ならすぐに見つかりそうな場所でも、今日が今日であるがために本家の中はわらわらと人が溢れ、誰も彼もがあちらこちらへと行き急いでおり誰ひとりとして目もくれなかった。用心深く妖気…

雪珱【指先:賞賛】

「……つう、」 小さな声と共にぴく、と肩を跳ねさせた珱姫に雪麗はまたかと呆れ顔をした。場所は奴良家の台所、女共は夕食の用意の真っ只中……そこに嫁いで来たばかりの珱姫も加わっていた。いつかはやらねばならぬこと、ついでに本人もやる気なのだからと…