最期まで、君と共に

弟夜と兄昼 参

 その者の印象は御機嫌麗しゅうなんて言葉使う奴、本当に居たんだなぁくらいだった。正直どうでも良かった。挨拶だろうが御機嫌取りだろうが。ただあまりにも自分ばかりに話しかけてくるのが気に入らなかった。この者には見えてないのだろうか――自分の手を…

弟夜と兄昼 弐

「昼っ! また試験で一番取ったんだってな!」 そう言って夜は帰ってきたばかりの兄の部屋に勢いよく飛び込んだ。着替えの途中だったのか、普段着の着物の帯を締めていた昼は突然訪れた弟に目を丸くし、手を止める。「よ、夜!」「お帰り、昼。で、おめでと…

弟夜と兄昼 壱

 嫌い、嫌いだよ……君なんか大っ嫌い。ちょっと頑張っただけで僕の欲しいものを全てを手に入れられる君なんて。ちょっと笑っただけで、あんなにも愛される君なんて。きっとこの世の人間、妖をとある一つの法則で分けるとしたら、それはきっと自分と夜みたい…

夜と昼と鴆

 顎を掴む指が痛い。その内の親指だけが口の中へと突っ込まれ、上手く下顎を押さえているのか閉じることが出来ない。「…ぁ…う、…あ゛っ…」 無理やり上を向けさせられた開きっぱなしの唇に少し冷たくなった匙が触れる。傾けられたそれからはどろりとした…

寝かしつけ

 ぽん、ぽん、と心地よいであろう間隔で眠りに落ちかける子どもの背を優しく叩く。うとうととしたその顔の瞼は重そうに下りてはゆるりと上げられ、どうしても眠りたくないのかその指はぎゅうっと着物にしがみついた。それにまた、ぽん、ぽんと背を叩いてあや…

鴆と子リクオ

 遠くでごふ、かふ、と息を詰めるような我慢するような咳の音にふと意識が浮かび上がった。じっとりと重苦しいくらいの闇の中、いつもならぐっすりと眠っている時間で、これくらいの小さな音では起きもしないというのに、不思議と今日に限って目が覚めてしま…

鴆と子リクオと父

「ねぇ、おとうさん。どうして、ゼン君には名前が無いの?」 ことり、と可愛らしく首を傾げた息子にそんなことを聞かれた。「? 名前ならあるだろ? 鴆、てお前も呼んでるじゃねぇかい」「違うよ、それは妖怪の種類の名前って、この前ゼン君言ってたもん」…