両側一方通行(R-15)

「……なんだお前は、急に。重い」

そう、ばっさり切りと捨てられた言葉にクライヴの体はピシリと固まった。さすがにこの展開は考えていなかった。せめて下心を見透かされ、からかわれるくらいだと思っていたのに……。
どうするべきか、何と言って取り繕うべきか、そもそもそれが必要な状況なのか。いくつもの想定を積み重ね、ようやく決心して実行した状況で、仕掛けた側にも関わらずクライヴは思わず泣きたい心境となった。
慣れないことなんてやるんじゃなかった。そう後悔したってもう遅い。まさかバルナバスがここまで気付かないなんて思わなかったのだ。そもそもどうしてこんな事になったのかを思い出し、きゅっと唇を引き結ぶ。
全ては一週間前──あの嵐のような夜に起因する。バルナバスに初めて抱かれた、あの日の夜に。

 

最近では様々な事が片付き始め、互いに心の余裕ができ始めていた。それ故に心だけでなく身体も結ばれたとて、何ら可笑しな話でもなかっただろう。元よりクライヴとバルナバスはそういう関係なのだ。むしろ遅い方でもあった気がする。

初めての夜はバルナバスより乞われた。──今宵こそ、お前を私のものにしたい、と。熱の籠った眼差しを向けられ、クライヴは頷くことしか出来なかった。
右も左も分からぬまま寝台へ寝転ぶとバルナバスは愉悦に満ちた顔で、それはもう隅々まで愛した。彼の知らぬ場所などもはやありはしないだろうと思わせるくらい、じっくりと時間を掛け、検められ、かと思えばこれまで溜めていた熱量をぶつけるように朝までとことん交わることとなった。その時間はまるで嵐のようだったと言っても過言ではないほどに長く、激しく、為す術もなかった。ただ愛されるままに愛され、鳴かされるままに鳴かされた。ひたすらにバルナバスという男の愛し方を身に教えられたのである。そしてそれと同時に大変な爪痕を残していった。

ふ、とクライヴは知らず熱い息を漏らす。腹の奥が熱に渦巻いていた。あの夜を終えた日からだった。クライヴの身体が可笑しくなったのは。いや、可笑しいというのは少々違う。正確に言うならばクライヴの性欲が遅い思春期を迎えた、と言ったところか。
幼い頃はともかく、過酷なベアラー時代からあの日に至るまでそんな欲など抱く暇もなかったのだ。そのせいなのか、あの夜を境に、熱を教え込まれた身体が今になって欲を思い出し、次から次へと押し寄せてきたのである。あの熱がもっと欲しい、と。明け透けに言えばヤりたい、と。

始めはクライヴもまさかと思った。青少年でもあるまいしと。この歳にもなって気のせいだと。だが、どんなに目を背けても、気の迷いだと思っても、ムラムラとしたこの気持ちが治まる気配は一向に訪れなかった。
それどころかバルナバスを視界に入れただけで腹の熱が暴れだしそうになる始末である。こんなバカなことを誰かに相談するわけにもいかず、だからと言って我慢し続けられるわけもなく。
ならば答えは一つだと、そこに辿り着いたのは自明の理だろう。クライヴにはバルナバスという相手がいるのだから、彼に頼れば良い。つまり夜のお誘いをすれば良いだけのことだと。

そういうわけで、クライヴはあぁでもない、こうでもない、と慣れない上に拙いであろう誘いを掛けることになったのである。そしてどういうわけだか、一つたりとて気付いてもらえず、とうとう最後は強行手段に出るしかなかったのだ。それが前述の通りである。バルナバスの膝へと乗り上げて、けれども誘いの言葉を掛ける前に散々な結果となったのは、もうお分かりいただけるだろう。

「……クライヴ」

先程から一体何なんだとばかりに、バルナバスがしかめ面で頭を撫でてくる。まるで叔父さんの屋敷で飼っていた猫にするように。
ごつごつとした、剣を持ち慣れた武骨な手だというのに、その撫で方、力の入れようは実に絶妙な加減であり、抗議の言葉を口にする前に、うっかりと大人しく受け入れてしまった。それが、いけなかった。
なんだお前は、撫でてほしかったのかと。分かっているのかいないのか、ようやく腑に落ちたかのように、今度はここぞとばかりにクライヴの身体を撫で回し始める。
違う……! そう口にしても甘やかされるのが癪で虚勢を張っているだけだと思われているのか、大人しくしていろと優しく抱き込まれ、撫で上げられてしまう。
肩や腕に背中、後頭部。子ども相手に甘やかすだけなら相応の箇所だった。性的な雰囲気など一切無い。しかしその絶妙な力加減と穏やかさは、既に限界を目前としているクライヴにとっては生殺し以外の何物でもなかった。ただただ焦らされ、高められていくだけ。もはやわざとそうしているのではないかと疑うほどなのに。

「……どうした、さっきから」

それなのに。当のバルナバスは全くと言って良いほど性的なものを匂わせない。何かを試しているような気配も、自分で遊んでいるような雰囲気でもない。ただただこれで満足か? と駄々を捏ね、へそを曲げようとする子どもを前にして、どうにか満たしてやろうとしているだけなのである。
じわり、と目の奥が熱くなった。まだ誘っていないのだからと、せめてそういう言葉でも掛ければ良い雰囲気になるのではと、そういう期待さえもが折れていく。
明らかに場違いなのはクライヴの方だった。当たり前だ。たった一週間で三十路も過ぎた男がこんなにもがっついてくるなんてバルナバスも思ってはいないだろう。口下手ながらもなんとか紡ごうとしていた言葉は端の方から消えていき、喉まで出かかっていた言葉の代わりに口を突いたのは拒絶の言葉だった。

「……っ、もう、いい、」
「何がだ」
「もう、いい…からっ、離せ……ッ!」

まるで癇癪を起こした子どものように、クライヴはバルナバスの腕から逃げ出した。これが正しくないことなど分かっている。それでもどうすれば正解に辿り着くのか、もう分からなかったのだ。
部屋から飛び出し、その途中で引ったくるように掲示板から適当に手配書を剥がすと、階下へと降りてオボルスに路銀を渡した。
こんな宵の口にどこに行く気だと怪訝な顔をした男は、それでもフードを目深に被り、黙り込むクライヴを乗せ、舟を出してくれた。手配書をきつく握りしめる“シド”に何か思うものがあったのかもしれない。
それでも良かった。今はただ、この滾る熱を、吐き出せない欲を少しでも紛らわせる場所へと行ければそれで。ゆっくりと進み始めた舟の上でクライヴは固く固く目を瞑った。

 

自分の方が可笑しいことなどクライヴが一番分かっていた。それこそ、こういうのは三十も越えれば落ち着くものではないのかと、何度も自問自答したくらいに。だがどうしたって治まらないのである。きっとあの夜を境に十数年、溜めに溜めた性欲が目覚めてしまったのだ。そして覚えたばかりの熱を、欲を、自分だけが持て余している。
そんなどうしようもないものを少しでも発散するために、クライヴは思い切り剣を振りかぶった。

「──ッ、これで終わりだ…ッ!」

最後の一撃を沈め、『それ』はようやく動きを止める。大型の獣の姿をした魔物……手配書通りのリスキーモブである。ハッ…ハッ……と息を整えながら、辺りを見回す。小型の魔物も含め、動いているものはいないようだった。
討伐完了か。遠くでうっすらと夜が明け始めたのを見上げ、血を払った剣を担ぎ直すと大きく息を吐いた。

「……………」

そのままくしゃり、と髪を掻き上げる。落ち着くと思ったものが全く落ち着いておらず、困惑していた。発散するどころかとぐろを巻く熱が無性に増した気がして、どうしていいのか分からなかった。

「……はぁ、」

そもそもの話である。男というのは疲れた時や命のやりとりにこそ興奮する生き物ではなかっただろうか。そうでなくとも身体の方は朝方となれば勝手に反応するものであり……つまり血を見る戦闘などもっての他だったのではないだろうかと今更ながらに気付いてしまう。

「一体…どうしろと……、」

身体の方はまだ良い。放っておけばそのうち治まるのだから。問題はそれに引き摺られて出てきた情欲の方だ。
もはやムラムラという感情を通り越し、苛立ちにも似た余裕のない感情に、いっそのこと娼館にでも駆け込んでしまおうかとバカなことを考え、自嘲する。
バルナバスという相手がいると言うのに? そもそも男と女、どちらを相手にすると言うんだ。
どうして相手が居るのにこんなことを考えなくてはならないのかと思うと虚しさと不甲斐なさでますます悲しくなってくる。ぶつける先がないのだ。どこにも、誰にも。

「……やめだ…帰ろう」

きっと自分は疲れているのだ。疲れすぎて頭が回っていない。だから可笑しなことや余計なことばかりを考えてしまう。さっさと帰って仮眠でも取ろう。そして起きたら討伐の報告書でも作るのだ。そうすれば多少は気も紛れるだろう。
元より“シド”が一晩中、誰も──トルガルすら連れず、たった一人でリスキーモブを狩っていたなどと知れたらオットーだけでなく、そこら中の者達にどやされる案件なのだ。そうしよう、と疲れた頭を切り替え、踵を返して、ふと思う。

「……バルナバスも起きてないと良いが…」

やけに早起きな男の顔を思い出し、熱のこもった溜息を吐き出した。どうせ顔を合わせたとて朝帰りを見咎められることはあっても、抱き合うことはないのだ。それが一番苦しい。バルナバスには会いたい。でも触れ合えないのなら会いたくない。
相反する感情ととめどない淫らな欲望を内に抱えながら、クライヴはのろのろと隠れ家への帰路を辿った。

 

運良くバルナバスと鉢合わせすることもなく辿り着いた私室でぴくりと肩が跳ねる。寝台の上。あからさまに置いてあるバルナバスの上着に目が離せなくなってしまったのである。

「……来て、いたのか」

おそらくクライヴが逃げ出してから、その可笑しな様子にバルナバスも気にはしたのだろう。そのまま部屋に戻ったかと思えば居らず、帰ってくるかと思えば戻らずで結局ここを後にしたのか。そろそろと手を伸ばして触れれば、まだどこか熱が残っているような気がして、胸がぎゅっと締め付けられる。
これをわざわざ置いていったということは届けに来い、という意味なのか。それとも取りに行くから待っていろ、という意味なのか。
どちらにせよ、クライヴをそう何度も逃がす気はないという意思表示だけは分かった。……別にクライヴも好きで逃げたわけではないのだが。

「…………ぁ、」

持ち上げた服からうっすらとバルナバスの匂いがしたような気がして、下腹部がずくりと熱を持つ。
あ、これは……。不味いと思いつつ、しばし逡巡する。さすがにそれはダメではないだろうか。人として。
そう分かっているのにとめどなく溢れる欲望に逆らえず、迷った末に、とうとう鼻先をうずめてしまう。

「……っ、……ん、」

ふわりと鼻腔を掠める男の香り。それはあの夜と同じ匂いであり、微かに蘇る記憶に、疾うに治まったはずのものが熱を孕んでむくむくと膨らんでいく。

(…っ、…………?)

苦しくて、思わず手を伸ばす。しかしどうしてか悪いことをしているようで、あまり気が進まない。いや、他人の服をおかずにしていること自体、良いことでないのだが、……そう、これまでもそうだった。込み上げる情欲も、膨らむココも、抜いてしまえば手っ取り早いと分かっているのに、どうしてだかこの手の方法を躊躇ってしまう。
だが、今はそんなことを言ってる場合ではない。一握りの罪悪感を横に、必死に窮屈さを訴えるそこへと手を潜り込ませ、触れる。体重をかけた寝台がギッ……、と音を立てて軋んだ。

「…っ、ン……ふ、…ッ」

香りと共に瞼裏へと浮かび上がるのはバルナバスの姿、吐息、声音、熱──。あの夜を思い出しながら、先走りに濡れる雄芯をゆるゆるとシゴいていく。

「……っ、…、……ァ…っ」

バルナバスだったら、どんな触り方をしただろうか。どこを擦っただろうか。
あの夜も触れられていた気がするのに、穿たれる衝撃と熱のせいであまり記憶に残っていない。意地悪く弱いところばかりを責めるのか。存外優しく導くのか。

「……ぁ、………あ…、…っ」

先走りがとろりと溢れ出る。想像だけで手が止まらなくなる。生まれる快感に、ぐりぐりと上着に顔をうずめればより一層濃くなった匂いに思考がとけた。
あぁ、これは不味い。
そう分かっているのに、久方ぶりの快楽はあっという間にクライヴを夢中にさせる。
気持ちいいところ。敏感なところ。触ってほしいところ。弱いところ。
自分の指だというのに、節くれだった指で擦り上げると、まるでバルナバスに触れられているかのようで堪らない。いやらしい水音を立てながらクライヴは更に自身を追い立てていく。
ゆるやかな動きを徐々に速くして、頭の中をバルナバスでいっぱいにして。クライヴ、と耳元で囁く甘く掠れた声を想像するだけで、ふるりと腰が震えた。想像のバルナバスはどこまでも甘やかで官能的だ。
ハァ…ッ、ァ……ッ、と息が上がる。このまま一気にシゴいて出してしまいたい。そう思って腕を動かそうとしたその瞬間、

「──随分と愉しそうだな」

そう背後から掛けられた言葉に、時も呼吸も、全てが止まった。

 
*
 

「ノックはした。お前が気付かなかっただけだ」
「……っ、返事が無いなら普通、入ってこないだろ!」
「お前が帰ってきたことは知っている。昇降機の前で早起きな針子が教えてくれたからな。それなのに預けた服は持ってこない上、部屋を訪れてみれば人の気配がするのに返事はない。鍵もかかっていない。そこまで分かっていれば、誰であっても念のため部屋を覗いてみたと思うが?」
「~~~~っ! 百歩譲って覗いたとしても入ってくるなと言ってるんだ……!」
「鍵も掛けずにか」
「そこは見なかったふりして回れ右しろっ……!」

ジョシュアだってそうする……! と口にすれば、はぁ、とバルナバスは溜息を吐く。まるで子どもの駄々に呆れたように。
それにシーツをかぶって片隅に避難していたクライヴはぴくりと肩を跳ねさせた。まただ。また、こうなる。
ぎゅっとシーツを握り締め、唇を固く引き結ぶ。どうしてこうなってしまうのか。
いや、今日に関しては圧倒的にバルナバスが悪いのだが、その口論に至った事実よりも子ども扱いされるほうがずっと身に堪える。結局、あんな姿を晒したってバルナバスにとっては児戯に等しいのだろう。あれから大して反応のない男に情けなさと腹立たしさが溢れ、そっぽを向くと、ギッ……と音を立てバルナバスが近付いてきた。

「一体、お前は何が気に入らない」

その言葉にふるりと口端が震える。
何が気に入らない?
そんなの決まってる。お前がそうやって飄々としているところだ。
ご機嫌伺いのような言葉も、子どものような扱いも全部気に食わない。上手く誘えない自分も、それに気付かないバルナバスも、タイミングの悪さも、全部、全部……っ。

「クライヴ」
「……っ、」

けれどもそれが八つ当たりであることも十分に分かっている。だから言えない。言えるわけがない。バルナバスのせいではないのに、口を開けばお前のせいだと言ってしまうのは明らかなのだから。
口を噤んだままのクライヴに痺れを切らしたのか、バルナバスがその腕を掴んだ。がっちりと、想像以上に力強く、熱い手に掴まれ、思わずと言ったように身体が跳ねる。

「私がお前に対して狭量であることをもう忘れたか」
「……っ、な、にを」
「理由の如何によっては見逃してやるつもりだったが」

腕を掴んでいた手がするりと下り、掌を合わせ、指へと絡む。まるで抱き合っている時に握り合う、あの形のように。愛し合う恋人の繋ぎ方で。

「何分、私は他の男の名どころかお前の右手にも嫉妬する質でな。浮気とあらばこれも、処分してしまう他あるまい」
「は、……?」

何を、冗談だろ、と。笑い飛ばすにはあまりにも昏い目に、掠れた息だけが漏れる。その目をどこかで見たことはなかっただろうか。仄暗い闇の中で。身体を揺さぶられながら……。ザッ……と砂嵐でも遭ったかのように記憶が乱れる。

『…私……許…なく……触…………』

ぴくりと指が跳ねる。握られた掌にじわりと汗が浮かんだ。思わずふるりと背を震わせれば、それにバルナバスが口端を上げる。

「その様子なら覚えてはいるようだな。…頭ではなく身体の方かもしれんが」

なに、なにが、……何の話だ。薄らと漂う何かに、握られた手を引こうとするも、絡んだ指は離れない。

「…っ、バルっ、ナバス……!」
「なにを怯えている。私は簡単な質問をしているだけだ。そう難しいことでもあるまい。…それとも怯えるほど、何か後ろめたいことでもあるのか」

そんなことあるわけがない。むしろ自分は限界まで律していたくらいだ。それなのに欲求不満の解消どころかあらぬ嫌疑までをもかけられ始め、とうとうクライヴの頭に血が上る。さすがにあんまりだろう、その言い様は。
ふつふつと沸き立つ怒りと共に、呑み込むと決めた言葉がつい口を突いて出る。お前が悪いんだろう……! と。

「ッ、…お前のせいだっ! お前が全く気付かない上に、触ってもくれないから……っ!」
「…………一体、何の話だ」

不穏な気配が一転、怪訝な顔つきでバルナバスが首を捻る。その、思い当たる節など一つもない、と言った表情に尚のことクライヴの怒りは燃え上がった。
だから言いたくなかったのだ。ただただ自分が惨めになるだけなのなのだから。
もういい、とせめて距離を取ろうとするも、呆気なく手を引かれ胸の中へと抱かれてしまう。それにいやだ、と首を振れば「クライヴ」と窘める声が響いた。

「いい加減、会話をしろ。それでは、分かるものも分からんだろう」
「ぃや…っ、まて…っ! どこ触って……ひっ!」
「暴れるな。触って欲しかったのだろう?」
「義務感でしてほしいわけじゃない……っ! そもそも、…ぁっ、なんで膝に乗った時はあれで、今がこれなんだ、お前はっ…!!」
「なるほど。触って欲しくて膝に乗りはしたが、私に気付かれず恥ずかしくなってつい逃げ出した、と言うことか」
「勝手に情報を盛るな……!!」

いや、おおよそ合っているのだが……! それさえ今は腹立たしい。違う意味でもういやだ、と逃げ出したい衝動に駆られていると、怪しげな動きを見せていたバルナバスの手がするすると下へと下っていく。そして際どいところを撫で始め、

「ハ…ッ、…っ、ん……っ、…な、にを……っ!」
「触って欲しいが義務では嫌だと言うならば、やるべきことは一つであろう? ──今ここで、お前が私をその気にさせろ」
「は…………っ、?」

出来るわけがない。それが出来ていれば、こんなことにはなっていないと。首を振ってもバルナバスは撤回などしない。それどころか、

「何を言う。先程ちょうどいい見世物をしていたではないか。あれの続きをすれば良い」

あまりにも横暴な言葉に男を見れば、そこに映るのは弧を描く唇とは反対に、全くわらっていない灰青の目であり。許す、という一方的な言葉にどうしてだろう、本能的に身体がぶるりと震えた。