愛猫が実はおっさんだった話 2

ずっと付き合いたかったプロンプトくんに告白をした。まさか本当に付き合ってくれるなんて!そうはしゃいでいたのは最初だけ。彼氏として隣にいてくれるようになった彼はどこへでも付いてきてくれるけど、その目は私を見ていない。いつもきょろきょろと何かを…誰かを探してる。っていう彼女視点。
雨が降りそうだね、傘買おうよ。そう提案したのは私から。ビニール傘を買って相合い傘をしたかったから。なんなら服が濡れたのを口実にプロンプトくんの家で雨宿りさせてもらおうなんて思って。ねぇ、とプロンプトくんの方を見上げる。しかし彼はこちらを見るどころか後ろを振り返り、大きく目を瞠ってごめんとだけ言い残し走り去っていく。
えっ。私は唖然とし、待ってよと言って彼を追いかけた。もちろんこの日のためにおしゃれをし、いつもより高いヒールを履いてる私じゃ全然追いつかないのだけど。狭い路地裏へと消えた彼に倣い角を曲がったところで誰かにぶつかった。ふらつく体にぶつかった誰かが手を伸ばす。「おや?」低い男の声。見上げれば赤い髪の、髭が目立つ壮年の男がひとり。すみません!と謝り、体を離せば男はにこりと笑った。
こんな暗がりに女の子が一人で来るなんて危ないなぁ。もしかして迷子?道、教えてあげようか?男の怪しげな言葉に慌てて首を振って、いえ…と返せば男はそう、と軽く頷いてあぁでも雨が降りそうだね、傘貸してあげるよ。お嬢さんも早く帰ると良いと言い、手にしていた傘を手渡す。それに礼を言うべきか突き返すべきか考えていると男はくるりと踵を返し路地の奥へと進みだした。それにあの、と声を掛ける。
そうすれば男が何?と振り返って首を傾げるのでここに男の子が走ってきませんでしたか?と口にする。男はそれに逡巡するも来てないよとわらう。それに本当ですか?と言葉を続ける。金髪の青い目をした、少しそばかすのある男の子です。あそこの角を曲がったのを私見たんです。その言葉に男は一瞬酷く苛立ちを覚えたかのように顔を歪めけれどもすぐに先程の笑顔を張りつけ見てないよと言葉を重ねる。
それに「でも、」と言い募り~~~なんやかんやがあるんだけど、最終的にアデおじが「あのさぁ、」と苛立った感じではぁ、と深い溜息を吐いて今の王様めんどくさくてさぁ、あんまり刺激したくないんだよね。パッと見じゃあ、にこにこ穏やかにそれこそ善良な王様みたいに笑ってるんだけど実際はハラワタ煮えくりかえってんの。どこぞの牝猫が俺のプロンプトに匂いを付けた、ってね。まぁ正しくは俺達、なんだけど。ってぶちぎれる。
その感情を露にするように、その目は人ではありえない黒い眼球に金色の瞳が爛々と光っていて。「だから勘違いしないでね。〝あれ〟は初めから俺達のものだよ」と、そううっそりと嗤う男にヒィッと悲鳴にさえならない声を呑み込んで走り去っていく女の子。そしてそれに失礼だねと肩を竦めるアデおじ。
こうしてヒーローは遅れて登場し、おじティスから引き剥がした浮気者の主人プロンプトから漂う牝猫臭いにおいに内心眉をひそめ、おじティスはまだにおいの上書きをしてない、邪魔するなとでも言うようにアデおじにガルガルと牙を剥くのでした。
HAPPY END!! だからプロンちゃんは知らないんだな。猫を追いかけるためあの場に置いてきた彼女が今、息を切らして走り去ってるなんて。目の前でにこにこしてるおじ猫達に踊らされてただけだなんて。
アデ猫のイメージモデルを探してたら赤毛のメインクーンがすごくこの子だ!感出てて、なによりもその大きさが最高だった。マジででかい猫めっちゃでかい。それまではそこそこの猫サイズだったのに正体バレてからと言うもの無言の抵抗の際などには巨大化するアデ猫とか想像したらとても可愛い最高だ。
この最中か帰り際でも良いだけど雨が降り始めてびっちゃびちゃで帰った3人がお風呂の入り方でまた揉めるのだよ。曰くおじ猫達は人間の姿で一緒に入れば良いだろと。それに猫の姿じゃないと入れません!一緒に入りません!と断固反対するプロンちゃん。そうして始まるおじ猫達との仁義無き戦い。
猫の姿じゃらっきーすけべ出来ないし俺達を風呂に入れてからお前入ることになるじゃねぇか!!風邪引くだろ!! vs (生理的に)おっさんと一緒に風呂に入れるか!!(すけべは想定してない)てかめっちゃ狭いし服無いし良いからさっさと猫になれ!! ファイッ!!!!
とかなんとかやってたらさすがに寒気が来てくしゅんってくしゃみするからプロンちゃんももうこれは手段を選んでる場合じゃないなと思い、あぁもう分かった!猫の姿でお風呂に入ったらち○~るあげるから!って言った瞬間ぷんすこしてたおじ猫達がぴたりと文句言う口を閉じて猫の姿のまま意気揚々とよし風呂に行こうプロンプト!さっさと入って終わらすぞ!とキリッとした顔でお風呂場に向かっていくから、ち○~るには一体何が入ってるんだ…?と一抹の不安がよぎるプロンちゃんであった(ち○~るめちゃくちゃ好きだけど健康維持のため滅多に食べさせてもらえないおじ猫達)
あとお風呂の後にはもちろんドライヤーがセットで付きまして「ドライヤーもなんて聞いてねぇぞぉぉおおお!!!」というおじ猫達の阿鼻叫喚の声が響き渡る。いつもやってるでしょ!これ終わったらち○~るあげるから!と魔法の言葉を使い続けながら闘ったプロン氏がいたとかいないとか。
そして風邪を引く。
ただし風邪引いたプロンちゃん熱が上がっていく中、中身がおっさんだと分かってても久しぶりに猫の姿でおじ猫達がち○~るあむあむしてるの眺めてめっちゃ可愛いめっちゃ幸せめっちゃ癒されるって思ってたし、ドライヤー後のブラッシングもずっと頬の緩みが治まらなかった。
あとおじ猫達の世話が終わったらさすがに体だるくてもういいやこのまま寝ようと髪びしょびしょのまま部屋に戻ろうとするところを二人に強制的に止められてハイこれ持っててとお膝の上に置かれた猫ティスを撫で回しながらアデおじ(人型)にドライヤーかけてもらう(風邪の悪化を防げたぞ!)。
「あーぁ、これ絶対風邪ひくよねぇー…まったく、王様のせいだよ」「…半分はお前のせいだろ」ってベッドに腰掛けて熱と悪夢にうんうん魘されるプロンちゃんの髪をゆっくり梳くアデおじと猫の姿のまま抱き人形よろしく大人しくプロンちゃんの腕の中にいる猫ティスさん。
結局、翌朝になっても熱は下がらず病欠の連絡をするプロンちゃん。おじ猫達が(今更だけど本性バレたし)俺らがやろうか?と足元うろうろするのを大人が居るって知られたら家庭訪問とか始まって色々めんどくさいのと突っぱねたりする。親は常に留守だし、大体オレとの関係聞かれたらなんて答えるの、叔父とかで良いだろ、却下、父さんと母さんにバレたらめんどくさいってぐらっぐらの頭で問答してたらピンポーンってチャイム鳴るからあぁもうこんな時にってふらふらの体で玄関に向かう。
普段家には客なんか来ないことも忘れてこんな朝早くに一体誰が、と苛立ち半分でドアを開けたら、すごいスピードで滑り込んできた眼鏡掛けた大型犬が(一緒に付いてきてた)猫ティスの首咥えて捕獲してて。え…?とか思ってたらけたけた笑いながら肩によじ登ってきたアデ猫ももう一匹現れた白い犬に華麗な回し蹴り(?)喰らわせられて後ろに吹っ飛んでいって慌てて振り向いたら
「痛い!!!!レイヴスくん酷い(泣)!!!!」って人型で頬っぺたに手を当て泣き叫ぶアデおじと「うるさい!」ってぶちきれてる白い犬と呆れたようにフンと鼻を鳴らしてる眼鏡犬とチーンとしっぽと耳垂らして終わったわ…みたいな顔してるおじティスがいてプロンちゃんは…え?なにこれ、本当何…と呆然となるも段々意味の分からなさと煩さにますます体調悪くなってくるし頭まで痛くなってくるしでもう全員出てけー!ってぺいぺいぺいっと全員纏めて外に放り出してベッドにUターンするんだけど一人暮らしの体調不良者の行動としては正解と言ってあげたい。
一方おじ猫2匹は保護者の皆さんによる徹底的な事情聴取が執り行われます。もちろん正座させられます。プロンちゃんとこに居た十数年行方不明扱いだったんだ仕方がない。ようやく見つかったのは人型取ったから。猫はどっちかって言うと擬態した姿だった。でも最近はプロンちゃんの意向により猫が主体。
補足すると全員擬態する姿は特に決まってない。おじ猫達は猫の姿が一番楽で可愛がられて都合が良いので猫やってるだけで、保護者犬もこの姿の方が鼻が利くから犬なだけ。途中で鳥とかにもなってる。
という感じで全てのきっかけとなった脱擬態の理由から何から何までげろった後にそう言えば…と眼鏡犬もといイグニスが家主のプロンちゃんの存在を思い出し口にしようとするもおじ猫達も思い出したのかそうだ!お前らのせいで追い出されたんたぞ!!!とぎゃーぎゃー喧しいので両者共に教育的指導が入る。
擬態すると擬態した姿に寄ってしまうのでおじ猫の姿だとほぼ猫のにおいで最初から猫なのか擬態なのか分からなくなる。あと本人も猫寄りになるのでまたたびとか○ゅ~るもめちゃくちゃ美味しく感じる。黙っていればパッと見ただの猫。
この時点でアデおじの頭に3つくらいタンコブ並んでるんだけど、まぁそういうことじゃなくて彼具合悪そうじゃなかったかとイグは言いたくて、だから風邪引いてんだよ!!って無駄にガルガルする王様。反省とは何か。初耳だし何でもっと早く言わないんだとこめかみ押さえて御両親は?と訊いても居ない見たことないとしか返ってこないしでプロンちゃんの家庭環境を何となく把握したイグは少し考えた後、お邪魔しますする。このまま2匹を回収していくのは簡単だけどなんだか放っておいたらいけない気がした。主人も世話になったし。ところで君達、いくら入れるからって玄関(物理)無視し過ぎでは?
ふと目が覚めるとなんだか部屋の外が騒がしい気がする。いや気のせいか。うち一人暮らしだし。そんなことをぼんやりと考えてたら枕元でアデ猫がにゃあと鳴く。お腹でも空いたのかな。寝惚け眼でもぞもぞと布団から這い出しアデ猫抱えてキッチンへ向かうとなんだか扉の向こうからいいにおいがする。え?
続かない。