愛猫が実はおっさんだった話 1

両親との仲が冷えきってる家庭で幼少期から飼ってた猫が唯一の癒しで、その子だけが心の支えで、めちゃくちゃ可愛がってたのに18歳の時、その猫がおっさん(アデおじ)だと知ったプロンちゃん可哀想すぎるなって思った。アデおじじゃなくておじティス(髭あり)でも良いけどどちらにしろ可哀想すぎる。
なんかの折で愛猫がおっさん(人間)になるとこを見てしまった感じ(どっかの魔法の国の鼠みたいな)。お風呂一緒に入ったこともあるし夜は一緒に寝てたし可愛い可愛いと愛でていた愛猫の思い出が事実全部おっさんだったってもうプロンちゃんのショックが計り知れないな。可哀想すぎて笑いが止まらない。
アデおじとおじティスの二頭飼いでも良い。おじ達見た瞬間絶対プロンちゃん青い顔してぎゃぁああって叫ぶしおじ達もアッやっべって顔して猫に戻るし一瞬ホッとした空気になるも騙されるかぁぁああ!!!って動転したまま崩れ落ちて泣き出すプロンちゃんにおじ猫がまぁバレちまったら仕方がないかって猫のままおじボイスで話し出すもんだからもうなんなのぉぉおおって泣きながらおじ猫引っ付かんでぶん投げる(※動物を投げてはいけません)のに空中でくるって回って着地してドヤ顔してくるから「人間になるならせめて美女でしょ!?!??なんでおっさんなの!??!?」ってキレ始めるプロンちゃん。
「オレのファーストキスがおっさんとかぁぁあああ」「まぁ俺一応王様だし」「意味分かんないしぃいい鶴の恩返しって話知らないの!??!?」「カエルの王子様は王子に戻るぞ?」「そういう問題じゃないし今、王様って言ったじゃん!!!」「揚げ足取りは良くないよ、ねぇ王様?」みたいな会話はしてる。
「いやちょっと待って、じゃあ毎年発情期の度にオレにすり寄ってきたのって…」と青ざめながら訊くプロンちゃんにドヤ顔で答えるおじ猫達は「まぁ俺ら猫じゃないし牝猫相手じゃ発情しな「うぎゃぁぁああ!!」って首根っこ引っ付かまれて開けた窓からぶん投げられる(そして華麗に着地するから腹立つ)。
「えっ、ちょっと酷くない?それあからさまにしてたの王様だけだよね?俺、寝てる時しかしてない」「黙れバカ猫ぉぉおおお!!!!」ってもう完全に本気泣きしてるプロンちゃんにピシャァァンと良い音立てて窓閉められて追い出されるおじ猫達はそれでも「だから俺ら猫じゃないって」とか言ってる残念組。
「あーもう王様のせいで追い出されたー」「半分はお前のせいだろ」って言い合いながら、で、どうする?って視線交わして「〝狩り〟でもするか…」「だよねぇ…あーもう最悪」って人型に戻って「まぁ食い散らかすにはちょうど良い時間だろ」って背伸びして嗤う男達の目は金と紅に爛々と光ってたりする。
猫のいない生活なんて何年ぶりだろ。いやあれはおっさんだったんだけど。そんなことを思いながら最低限のことをこなして布団に潜り込むプロンちゃんはぼんやりと考える。そういやなんで猫を飼うことになったんだっけ。記憶を辿っていくうちにうとうとと眠気が訪れる。それが悪夢の再来とも知らず。
「不ッッ味い!」「文句言うな」「王様にだけは言われたくない!あーもう今日は俺の番だったのに二日連続でこれはないでしょ」ぶちぶち文句を垂れつつ狩りを続けるおじ二人の獲物はナイトメア(悪夢)。でもプロンちゃんほど美味しい悪夢を提供してくれる子は今のとこ居ない。これでも一応美食家だよ。
「…ねぇ王様、これ誰一人得しないよねぇ」俺ら不味い獲物しか口に出来ないし今頃プロンプト魘されてるだろうし魘されてるとこ見るの嫌いじゃないけどここじゃそれも見られないし。「…帰るか」ということで早々に狩りを終了しアージェンタム家へ戻るおじ達。人間の家の不法侵入なんてちょろいちょろい。
誰かに銃を向け引き金を引く。焼けた木の棒を自らの腕に押し付ける。かと思えば銀世界で剣を片手にした誰かに追い回されるそれは。ちがうっ、ちがうオレは。オレは「──なんかじゃない…!」荒い息のまま飛び起きる。あまりにもリアルな夢の映像に心臓が鳴り止まない。ちがう、ちがう、あの夢はあれは。
「なんで今更…」もう見ないと思ってたのに。小さい頃に何度も見た怖い夢。いつの間にか見なくなった夢。誰も居ない家が寂しくて怖くて、だからそんな夢を見るのだと思ってた。「そういやあの2匹拾ってから見なくなったんだっけ…」なんて膝抱えて呟いてたら、にゃあという鳴き声がして2匹の猫がベッドに上がり込んできてプロンちゃん挟むようにぴたっと両側にくっついてなんとなく撫でたらにゃあって鳴いて指先ぺろぺろ舐められて、そのあったかさに「…あーもう夜中に何してんだオレ…寝よ」ってなって猫2匹と一緒にすやぁっと眠ったらその後、悪夢も見ることもなく朝が来て
「…って、なんで一緒に寝てんの!!?!?!てかどっから入ってきたのぉぉおおお!??!?」って叫びながら、おじ猫2匹を窓から捨てる。(そして寝ぼけてるのに華麗に着地するから腹立つ)
タイトル付けるなら 『前略 父上様、母上様 御二人に内緒で飼っていた猫が実はおっさんであることが判明しました』 みたいな感じだと思うので5億年後くらいにやる気が出たら書きたい。
高校生に飼われるおじ猫のヒモ感最高だし、長年猫に擬態しすぎてうっかり出された○ャオチュ~ルに目キラキラさせながら惹かれてしまったり(そして確保される)、猫用玩具に思わず飛びついてハッと我に返る(そして確保される)おじ猫達とか想像したらとても楽しい。
そういやお知らせ来てたよね~って動物病院からの定期検診ハガキ取り出すプロンちゃんに「だから俺ら猫じゃねぇって言ってるだろ!!!(※注射嫌い)」って王様が逃げ出すから年に一度の一大イベントが始まる。いや死んでもないのに突然行かなくなる方が不自然でしょ!??って追うプロンちゃん頑張れ。
いろんなものバリバリにして大乱闘の末ようやく病院連れて行ったら今度はアデ猫がいつの間にかデブ猫になってて「あらー…1年3㎏増…これはダイエットですね」って先生に言われて心の中でアーデン…!!!と叫ぶもアデ猫はそ知らぬ振りして欠伸してるからまたプロンちゃんの血圧が上がる。
プロンちゃんは学校では結構女の子達の話題に上る可愛い系イケメンなんだけど友達はあんまりいなくて、どちらかと言えば物静かな一人カメラをいじってることが多い子で、ここ最近はそんな趣味のカメラも取り出さず物憂げな様子で溜息を吐くことが多いせいか周囲では振られたのでは疑惑が浮上している。
事実は愛猫がおっさんだったことがショックで落ち込んでただけなんだけど。周囲でプロンちゃん振られて超落ち込んでる説が真実味を帯びてくる頃、プロンちゃんに告白してくる女子が現れる。プロンちゃん初めは断ろうとするも女の子の押しが強いのと猫のことばかり考えてるからいけないのだと思い直してあれはおっさんだった、猫じゃなかった、もう可愛いがっていた猫はいないのだと、自分も変わらなければならないのだと思ってOK出しちゃう。
こうして交際がスタートするんだけど、その頃からおじ猫達の姿を見かけなくなる。それまで短い時間とは言え毎日見かけていたその姿が二日に一度になり、三日に一度になり、そのうち家の中じゃ全く見かけなくなり。言い様のない焦燥感に駆られながらも彼女となった女の子に付き合って一緒に買い物に行ったり映画観に行ったり。
ただその目は隣にいる彼女ではなく今やすっかり見かけなくなってしまった猫を探すように見回してしまってどこ見てるの?と腕を引かれる度ごめん何でもないと言いながらまた猫を探すよう無意識に向こう側を見てしまう。路上の猫を見つける度にあれはと目を瞠り、違うと分かっては肩を落とす。そんなプロンちゃんの姿を隣で見る彼女がその度に不機嫌そうに唇を尖らせるのも気付かずに。
あるデートの帰り道、二人で雨が降りそうだね、どうしようか、傘買う?みたいな会話をしていると、ふとプロンちゃんの横を男が通りすぎる。髭の生えた男。愛猫が人間となった時と同じその姿に大きく目を瞠り、慌てて振り向くもその先に男は見当たらず代わりに黒猫が一匹、そちらの方向へと歩いており愛猫そっくりの後ろ姿に思わずプロンちゃんは女の子にごめん!と言い置いて駆け出してしまう。マイペースなのか自分を導くためなのか、人間が追ってるにも関わらず一定の歩みで路地の奥へと進んでいく猫の姿にプロンちゃんはなんとはなしに期待してしまう。
捕まえて抱き上げたらこの不良猫!って説教してやる。家にも戻らないで、餌も食べないですごく心配したってこと、いつも傍にあった温かさがなくてすごく寂しかったこと、全部全部言ってやるんだから。そう半ば頬を膨らまして猫を追っていけば、行き止まりの壁の前で猫は歩みを止めてプロンちゃんの方へと振り返りにゃあと鳴く。にゃあにゃあにゃあ。
猫の姿のまま猫の声で猫が鳴く。当然のことなのにプロンちゃんの胸に言い様のない不安が込み上げる。それは確かに愛猫そっくりの姿をしているのにどうして猫の声で鳴くのか、人間の姿にならないのか分からなくて思わず「ノクト…?」と呼んでしまう。しかしそれにも猫はにゃあと鳴くばかりで衝動的に猫を抱き上げる。ノクトふざけないで、ノクトは人間になれるじゃん、なんで猫のフリするの、もうやめてよ、そう怒鳴ろうとするも、その前に猫は暴れプロンちゃんの手を引っ掻いてそこから逃げ出してしまう。
「……ノクト、」引っ掻かれた手と猫を呆然と見つめる。これまで一度も自分を引っ掻いたことのない愛猫が爪を立てた。その事実にひくりと唇がひきつる。この子は本当に愛猫なのか、ただのよく似ている猫ではないのか。そうこう考えているうちに猫は身軽に壁を登り、向こう側へと消えてしまう。
ハハハ…。可笑しくて可笑しくてプロンちゃんの口から笑いが漏れる。愛猫がおっさんだったからとショックを受けて、忘れようと彼女まで作って、いざ居なくなったら寂しくてついつい目で探してしまって、見つけて猫の姿のままならふざけるなと怒ろうとして、最後は猫の方から逃げられてこれで良いんだ。これが自分の望んだことなのだ。猫の方から去ってくれるなら尚更。そう思い直して彼女のところへと戻ろうとする。も、その足も一歩、二歩と進んで三歩目で止まってしまう。震える唇を噛みしめて嗚咽を呑み込もうとするのに止まらない。
ぽろりと涙が地面に落ち、それが決壊を知らせる合図のようにぽたりぽたりと地面に染みを作った。我慢など出来なかった。しゃがみこんで、うぐ、うぐとみっともなく嗚咽を溢す。本当はもう気付いていたのだ。愛猫はおっさんだったけど、自分が寂しい時いつも傍に寄り添ってくれたのは間違いなくあのふたりだったのだと…。今更それを認めたって遅いのに。もう傍にいてくれた猫はいないのに。後悔はいつだって先に立たず。殺しきれないプロンちゃんの声が静かな路地裏に響き渡る。
「……なんで泣くんだよ、プロンプト、」くしゃりと頭を撫でられる。その感覚にのろのろと顔を上げれば眉を下げたおじティスがプロンちゃんの横で同じようにしゃがみこみ顔を覗いていて。ぼろぼろと泣きながらその顔を見つめていれば頭を撫でていた手が泣くなとでも言うようにその目尻を伝う。
なんで。酷い鼻声で訊ねればおじティスは苦笑し、だってお前が泣くからと答える。悲しそうな顔をするから離れてやったのに離れたら離れたで何でかお前悲しそうに泣くからと。それに涙腺が崩壊して勢いよくおじティスに抱きつくプロンちゃん。今までどこに行ってたの勝手に居なくならないでよと散々泣きわめきながら文句言って(その間おじティスはぐずる子どもを宥めるよう優しく背中を叩き続け)最後の最後に小さくごめん…と呟いて。それにおじティスがおじボイスでにゃあと応えるからプロンちゃんいらっとしておじティスの頬っぺた両手でつねって。
そこにアデおじが何してんのって呆れながら現れてプロンちゃんの体をおじティスから引き剥がし(奪い)ながら俺にはごめんって言ってくれないの?って言うからうぐぐ…と唸りつつもごめんと謝って。そしたらアデおじもふざけてにゃあって鳴くから頬っぺたつねられる。そしてその間おじティスはアデおじに対してガルガル唸ってる。