【SS小説】贄(R-18)

「贄というのは自らの意志で捧げられてこそ意味を為す」

無理強いではなく喰らってくださいと。
膝をつき額づいて。
そうだろう? と男──アーデンは嗤った。
唇を噛み締め、男の言い分に従う以外に道のないプロンプトは、けれど目だけはその意志を示すようにギラギラと男を射殺す強さで睨み付け、そうしてのろのろと言葉に従う。
これ以上ない屈辱だった。
こんな男に抱いてくださいと口にする日が来るなんて。
悔しさに体が震える。
みじめでしょうがなかった。
しかしそんな姿に男は愉快そうに口端を上げ、再度頭を上げるプロンプトの顎を持ち上げるとこう言った。

「いいねぇ、そういうの。俺嫌いじゃないよ」

反抗的っていうの?
燃えるよねぇ。
そんな人間がどう従順になっていくのか見物だし。

「俺、飴と鞭の使い方だけは上手くってねぇ」

イイコに頭下げられたからまずはご褒美をあげよう。
そうだなぁ、と男は笑みを深くする。

「俺は優しいからね」
君の大好きな王様の姿で抱いてあげよう

ひくりとプロンプトの喉がひきつった。
どこまでこの男は自分を踏みにじれば気が済むのだろう。
もはや怒りを通り越し、恐怖が芽生えた。
なにが一番ひとを傷つけるのか、それを目の前の男はよく知っている。
なにがその誇りを踏み砕くのかを。

瞬きひとつで姿を変えた男はそっとプロンプトの頬を撫でると、誰よりも愛すべき姿で「プロンプト」とその名を呼んだ。

「愉しませてくれよ」

そう絶望の色を伴って。

 

*****

 

ギシギシと軋むベッドの上。
プロンプトをその身で貫きながら、つまんないなぁ、とノクトにしてはやや高い声で、ノクトの姿をした男は言った。

「……う、…ぇ…?」

頭の中が白く濁って上手く思考がはたらかない。
ぐるぐるする。
くちの中がやたらとにがい。
プロンプトはぼんやりとうつろな目で、目の前の男をみると、ゆっくりとくびを傾げ「のくと?」と口にした。

「なぁに、プロンプト」

二重、三重にぶれる男の影。
それが伸びてきたかと思えばプロンプトの首に絡み付き。
呼吸が止められ、水に溺れた人間のように、わけも分からず目の前の男にすがりついた。

「あ、ァ……」

ナカがきゅう、と締まるのが分かった。
ねっとりと男のモノに吸い付き、離さないとばかりにからみつく。
しかし男は満足しないのか、やはりつまんないの、と呟いてあっけないほど軽く拘束を解いた。

「あーぁ。途中までそれなりに面白かったんだけどなぁ」

クスリで頭のとんだ抱き人形じゃねぇ?
やっぱりズルはだめか、と男は意味ありげに嗤うとプロンプトの腕を引き、その体を抱き起こして己の上へと跨がらせた。

「ひっ、…ぃ!」

自重で沈む体。
さらに深いところへと進む男のモノ。
ゆっくりとひだを掻き分け、奥を侵すそれはびりびりとプロンプトの脳をしびれさせる。
あつい
くるしい
入り込む質量にぶるぶると体が震えた。
たまらず、背がしなる。
腹の奥があつくてしょうがなかった。

「見て、プロンプト。王様は君にいいものをくれたね」

よだれを垂らし、男にもたれかかってようやく疼く感覚をやりすごすプロンプトの前に、男は何かをぶらさげた。

「返してあげるから、もっと俺を愉しませるんだよ」

そう言って、首になにかを巻きつけられたかと思えば、きゅっと締め付けられる感触がして。
それに指を這わせていれば今度はカシャンという音とともに足首になにかを嵌められた。

「…、…?」
「王様は実にイイ趣味をお持ちのようだ」

チョーカーにアンクレット。
それが元来、何を意味するのか知ってるかい?
男が優しくささやいた。

「首輪に足枷──どちらも奴隷の証だよ。…まぁ、こっちはこんな使われ方するなんて思ってもみなかったんだろうけど」

可愛いリボンだよねぇ。ふつう男の子に贈るかなぁ?
そう言って取り出された赤いひも。
それがくるくると、立ち上がったまま一度も触れられることのなかったプロンプトの性器へと巻きつけられる。
よかったね、と男が嗤った。
これでもう狂うことさえできないよ、と。

「や、っ…! ひぐっ、」

シュッという衣擦れの音に伴い、びくん、と体が痛みに跳ねた。
霞がかった意識がようやく身の危険を察し、おそろしいことをされたのだと気付く。

「や、ゃ…あ…!」

かりかりと力ない指で、プロンプトは結ばれたものを外そうと引っ掻く。
しかし、固い結び目はぴたりとプロンプトのそれに張りつき、弛むどころかギチギチときつく食いこんで。

「あぁ、かわいそうに」

ひくひくと痙攣するようにひくつく先端の孔へ男の指が伸びる。
ぐりぐりといじられ、やわらかに擦られるも、そこからはぷくりと小さなしずくしか生まれず。
出られなくなった熱がぐるぐると奥底を炙り、いたずらにプロンプトを苦しめる。
あつい いたい くるしい たすけて
あまりのつらさにぼろぼろと涙をこぼし、目の前の男に縋りついて、のくと、のくと、とその名をよぶ。
なのに、ノクトとよばれた男は応えるどころか剥ぎ取られたプロンプトの上着を漁り、なにかを取り出したかと思えばそれを口に含んで、いびつにわらった。

「ふっ…ぅ…、」

強制的に与えられるくちづけ。
くちの中へと流れ込む液体。
くちづけを介して与えられるそれはぴりぴりと舌を刺す独特の風味を広げ。
あぁ、とプロンプトは考える──この味をしっている、と。
ごくりと音を立てて喉が上下した。
胃の中へと落ちたそれがじんわりと熱をもつ。
変化はすぐだった。
すーっと頭の中で深い霧が晴れるように、曖昧だった視界が、意識が、くっきりと目の前の男で焦点を結ぶ。
男──アーデンの擬態した姿に。

「ぁ……ァ、ア、ア」
「おはよう、お姫様」

気付け薬のお味はどう?
ノクトの顔で、ノクトらしかぬ嗜虐の表情を浮かべ、男はそう問いかけると大きく腰を動かし、突き上げた。

「ひっ…!」

ずん、と奥まで串刺しにされる感覚。
ふだん触れられることのない、奥の奥までおかされる感覚にプロンプトは大きく目を見開き、体を仰け反らせる。

「ふ、あっ、ぁ、あ…ッ──!」

ぶるり、と体が震えた。
抑えられない声が喉元を駆け上り、甘い、高い、悲鳴へと変わる。
目の前が真っ白に染まった。

「そうそう、その調子」

男が何度も突き上げる。
何度も、舐めるように絡みつく粘膜を擦りあげ、せまい隘路を割り開く。
その度に嬌声が洩れ、腹に擦れ合う性器がびくびくと震えた。
もちろんそこから噴き出すものなどない。
ただ息も出来ないほどの快楽と、言葉に出来ないほどのもどかしさが生まれるだけ。
上げては落とされ、また上り詰めて。
何度目かの絶頂で、ようやくねっとりと濃いものが、ちいさな孔から一滴、二滴と糸をひく。
それでもおわるには程遠い地獄のようだった。

「うん。いいねぇ、その顔」

知らぬ間にプロンプトの顎を伝い落ちた汗かよだれか涙か、それさえも分からぬものを、男はべろりと舐めあげる。
いやらしい、とそうささやいて。
プロンプトの弱いところを容赦なく抉り出す。
こころも、からだも、想いも、記憶も、全部、全部。
ノクトの顔で。
ノクトの体で。
誰よりも愛する王様の声で──踏みにじる。

「ふ、…ぅっ、…と、っ…、くと、」

ノクト ノクト ノクト
助けを乞うように、赦しを乞うように、プロンプトはかの王の名を呼んだ。
そうでもしなければ折れてしまいそうだった。
生きてもう一度会うのだと、そう誓った心が。
他に道がなかったとは言え、贄として膝を付いた自身が。
ぽっきりと、あっけなく折れて、ぐずぐずに崩れ落ちてしまいそうだった。
だが、それは男の神経をひどく逆撫ですることになることをプロンプトは知らない。
固く目を瞑り、愛しい者の名を呼び続ける男は気付かない。
男が、浮かべていた笑みを消し、その目に激情を走らせていたことなど。

「……抱いてる男を前に、別の男の名前を呼ぶなんて、ねぇ?」

クスリでとんでる時ならまだしも……王様は一体どんな躾をされていたのやら。
低い低い、男の声──ノクトの声でなく、男本来の、底冷えするような低いそれにプロンプトはおののき、ハッ、と目を見張る。

「…アー、デン…」
「俺、無視されるのが一番嫌いなんだよね」

だからさ、と男はプロンプトの腰を掴む。

「贄なら贄らしく、捧げられた相手に命乞いでもしてなよ」

視界がぶれる。男の姿が一瞬で、ノクトからアーデンのそれへと変わる。
自分より頭ひとつ大きい男へと。

「あ、ぁ、ぁ、…ッ」

ぎちぎちと怒張を咥えこんだナカが無理やり拡げられる。
ただでさえ、いっぱいだったところが隙間なくぴたりと収められ、あまりの苦しさにはくり、と息が洩れた。

「まさかこれで終わりとか、思ってないよね?」

まだ全部挿ってないんだけど。
そう言って男はぐっ、と腰に回す手に力が込めると、まだ先があると示すように、行き止まりであるはずの奥を、その先端で突き上げた。