帝国パロ 2

皇子がお熱の時アラネア姐さんがおでこコツンって当ててきてあー熱出てるねとか言うんだけどその流れで宰相もコツンてしてうっかり昔治癒してた時みたいにやるも治らないから誤魔化すようにレイヴス兄上呼んでおでこコツンってして治してもらうやつ。魔法みたいとキラキラ目を輝かせる皇子にアデおじが、うん、このままいくと魔法使い(童貞)になっちゃうよね~とか言うからやっぱりどつかれるやつ。お熱なのに楽しいひととき。いつからだろうな、熱が出ても怪我をしても痛いとも辛いとも言わなくなったのは。なんでもないと無理して笑うようになったのは。泣く代わりに唇を噛み締めるようになったのは。
積まれる仕事に終わりが見えず猫になって逃げ出す宰相とうっかり遭遇して仲良くなってレイヴス兄上にこの子飼っていい?とお願いしに行くプロン皇子可愛いのでは???兄上一目で宰相だと気付いて寄越しなさいとか言うけどとりあげられると思ってダッシュで逃げる皇子な…同じベッドで眠っちゃうやつな。
猫の姿で皇子にシャンプーされる宰相可愛いだろ…一緒に寝たふりするけど実際は起きてて人間の姿に戻って皇子のくせにもう少し警戒心持った方がいいんじゃない?とか育て方間違えたかなぁ…とかぼんやり考えて皇子が目覚める頃には抜け出していないやつ。
私の考えるプロン皇子とノクティス王子はどう足掻いても最後は刃を交える関係になってしまう……まぁ、その後は歩み寄れるかもしれないけど……でも必ず一度は自分の生まれ、境遇を懸けて本気でぶつか合わないといけない…そんな運命……。
たぶんプロン皇子、ノクティス王子ともに最終的な幸せ度はMAX100だとしたら同じ50くらいなのよ…ただ王子が1から上って50になる感じで皇子は100から下って50になる感じなのよ…。
アデおじもレイヴス兄上も結局はノクティス王子に執着してるし父親はルシスのクリスタルと指輪にしか興味ないし自分の大切なものが全部全部ルシスに、ノクティス王子(真の王)に奪われてしまう…ってそういう恐怖心が芽生えて刃を向けるプロン皇子な…。
アラネア姐さん、手荒れ気にしない派だったのにある日皇子がそれに気付いてハンドクリーム付いてる手でにぎにぎしてくれるからそれ誰に教わったんだいと訊ねると晴れやかな笑顔で宰相!って答えるの思いついて笑ってる。宰相が手ずからハンドクリームにぎにぎして塗ってくれるとかどんなサービスだ。
今思えば、手を握ってもらったのがうれしかったからなのかもしれない。宰相の手。温かくはないけれど、大きくて安心するその手がゆっくりと自分の手を包み込み、丁寧にハンドクリームを塗り広げていく。それがうれしくて、こそばゆくて。同じ気持ちを誰かに教えてあげたかったのかもしれない。その後に続く皇子たるもの──なんていつものお説教が右から左へと流れていくくらい、とてもうれしかったから。
「アラネア、その手痛くないの?」「ん?」少しかさついたアラネアの手。逆剥けが目立ち始めたその手が気になって思わず声を掛けてしまった。「あー、これ? 確かに荒れてるねぇ」言われて気が付いた、とでも言うようにアラネアは両の手を表、裏と見比べ、そう応えた。長い指、武骨な節。普通の女性の指とはちょっと違う、爪を短く切り込んだ、傷やたこの目立つ軍人の手だ。それが更にガサガサと荒れ始めており、見るからに痛々しくてしょうがない。
「オレ、良いの持ってるよ」ちょっとこっち来て。ちょいちょいと手招きしてアラネアを呼び寄せる。秘密の引き出し。大切なものばかりが入ってるところ。そこから小さな軟膏壺を探し出し、取り出した。前に宰相がくれたものだ。「そこに座って」近くの椅子を指差し、アラネアを腰掛けさせる。「なんだい、それは」「ハンドクリームだよ」
蓋を開ければ芳しい花のいい匂いがふわりと漂う。お姫様が使うものみたいと笑ったのはまだ記憶に新しい。「アーデンがくれたんだ。さ、お手をどうぞ、お姫様」一丁前に手を差しのべてみれば、呆れたように肩を竦め、手を差し出す。アラネアのそういうとこ、好きだなと思う。バカだねと思いながらもちゃんと乗ってきてくれるところを。
アデおじって自分の所有物は美しく保っておきたい派だと思うんで皇子の爪とか綺麗に整えさせてそう。兄上もルーナ様いるし身だしなみとか煩そう。唇噛んで傷つけたら絶対バレるやつ。アラネア姐さんにはドン引きしてほしい。そして皇子も三つ子の魂で独りになってしまってもその習慣を続けてほしい。
ゆっくりと丁寧にハンドクリームを手のひらへと取りだし、広げていく。皇子たるもの、常に身だしなみは整えて。皇子たるもの、足をすくわれることのないよう心得て。皇子たるもの──皇子、たるもの。「……その皇子の側にいないくせに、」分かってる。分かってる。こんなこと、すでに無意味なことなのだと。分かってる。誰よりも、それは分かっている。これはただの願望であり、三つ子の魂なのだとも。
それでも。どこかで期待しなくてはやってられないのだ。また、あの優しい日々が戻ってくることを。また4人で笑い合う日が来ることを。夢見ていなければ、追い縋っていなければ、立ち上がることさえ出来やしない。ぎゅっと唇を噛みしめる。目の奥の熱さを誤魔化すように、きつくきつく歯を立てた。じわりと鉄の味が口の中に広がって虚しさだけが染みていく。ほら、また唇傷つけたよ。あの時みたいに叱ってよ。皇子たるもの、ってそう言ってよ。
なんて子どもじみた真似だろう。一周回ってバカみたいだと力無く笑う。その声に、凭れていたエルダークアールが心配そうに頭をもたげた。それに大丈夫だよ、と言って頭をぐりぐりと押し付ける。大丈夫。まだ、大丈夫。魔法の言葉のように何度も何度も繰り返す。大丈夫。また元通りになるよ。また4人で一緒に──。
大丈夫。それがどれだけ虚しく無力な言葉であるか、プロンプトは嫌と言うほど知っている。
プロン皇子も写真撮るのが好きだといい。昔はもっと近くで撮れてたのにな…て最近やけに遠くなった側近達の後ろ姿や横顔ばかりのデータを見返すの。寄り掛かってたクアールちゃんがそれに心配して身じろぎするから何でもないよって苦笑するけど窓から差し込む夕焼けにアーデン遅いねって寂しそうに呟く。
写真のデータをひとつずつ見返しててふと夕日の中アデおじが遠くからこちらへと振り向いた時の写真が出てきて。その表情というか光の加減がすごく皇子に懐かしさを思い起こさせてしばらくじっと見つめていたらひょいっとカメラを取り上げられて。驚きながら慌てて体を起こしたらアデおじが何見てるのってカメラを覗き込むから焦って取り戻そうとする。正直、盗撮だからそれで怒られるのは仕方ないのかもしれないけど、こんなしょうもないものをと呆れられるのが怖かった。
他人の目にはしょうもないものに映るのかもしれないそれは皇子にとっては心の拠り所でありとても大切なものだったから。返してって手を伸ばす皇子をいなしてデータをまじまじと見るアデおじは呆れたり馬鹿にしたりするでもなく本当に皇子は俺のこと好きだねってにまにま笑う。それが予想外で逆に恥ずかしくなってヤケになりながらそうだよ好きだよレイヴスもアラネアもみんな好きって言うからアデおじぱちくり瞬いてちょいちょいとクアールちゃん呼び寄せてちょっと二人呼んできてって呼びに行かせる。
何?って首を傾げる皇子にそう言えば最近みんなで写真撮ってなかったでしょって白々しく言う。その白々しさというか胡散臭さに眉を寄せる皇子だけど本当に二人がやって来たらもうなんでもいいかと頬が弛むんだろうな。二人は訓練終了直後か食事の真っ最中で部屋に入ってきた瞬間、時間を考えろって宰相の胸ぐら掴んでくる。プライベートでは意外と仲良い側近組。皇子はそういう光景見慣れてたけど今になってみればすごく久しぶりで嬉しさと可笑しさで笑い転げる。その笑い声で何のために呼ばれたのか薄々勘づく二人。
4人が集まるのは公の場を除けば本当に久しぶりで。笑いながらシャッターを切る皇子にあぁもうとアラネア姐さんが宰相から手を放して何してんだいとカメラを覗き込んできて。続くように兄上も苦々しげに宰相どつくとカメラを向ける皇子に歩み寄ってやめろとでも言うように頭ぐしゃぐしゃと撫でてきて昔のようにじゃれ合う3人に最近写真撮ってないでしょ?皇子が撮りたいんだってと茶々入れてくるのがアデおじで。兄上は顔ひきつらせるけどアラネア姐さんはまぁ確かにと乗ってきて。斜陽の差し込む部屋で4人は揃って写真を撮る。それが4人で写る最後の写真とは知らず。束の間の幸せがそこにはあった。
4人で写る最後の写真は斜陽に染まっている。帝国の赤、滅びゆくニフルハイム、消えゆく4人の絆、燃え上がる怨恨。何かを示し合わせるように赤く染まるその写真は、それでも最後の、4人がしあわせにわらっていた時の記録。
大きくなったプロン皇子を大小様々綺麗な宝石のついた装身具で飾り立てたい…本当は重くて動きにくくて今すぐにでも外したいくらい嫌いなのに、その昔これは皇子の義務だと諭されて以降大人しく人形のように飾り立てられる皇子様な…両国の公務が終わった瞬間即行で脱ぎ捨て始めるノクトさん見て目を丸くしてほしい。
そういうの外してもらうまで触っちゃダメかと思ってた…と呆然とする皇子に王子は、はぁ?って首を傾げてほしい。壊すわけじゃないんだし外すくらい別に良いだろって。皇子は王子との交流で少しだけお人形から人間らしくなってほしい。アデおじの望まない、駒として必要のない、自我を芽生えさせてくれ。
幼い時に抜け出したように。再び出会った二人が飾り立てられた服を脱ぎ捨ててただの同い年の人間として今度は庭園ではなくルシスの街へと飛び出して。友人のように、年頃の青年のように遊んで巡ってはしゃいでふざけて。いずれ来る災禍など知らずオレ達なら両国の関係を変えられると静かに希望を抱いて。
夜の帳が落ち始める頃、二人はグラディオとレイヴス兄上に発見されるといい。王子がグラディオにすごい剣幕で怒られる中、皇子は兄上に頬を叩かれる。その音にルシス組はぴたりと動きを止め、言葉を失う。一方で兄上は帰るぞとそれだけを言い、踵を返す。皇子は一度だけ目を伏せると静かにそれに続く。
頬を叩くのはいつしか叱ることも窘めることもしなくなった兄上の唯一の感情表現なんだけどそれでも皇子はまた幼い頃のように叱られることを、それだけの関心を向けてくれることを期待してそういうのも含めて城を抜け出した。でも結果はこれで、皇子は諦めるようにまたお人形のような顔へと戻ってしまう。
その変化を王子だけが見ていて思わずプロンプト、とその名を呼ぶけれど呼ばれた皇子はとても無機質な目をしていて。つい先程まで共に街を駆け巡った者とは遠くかけ離れたその姿に伸ばしかけた手が止まってしまう。アーデンの処へ。そう兄上に促される皇子を引き留める術を王子は持っていないのだ。
プロン皇子はアデおじがノクティス王子に執着していることを気付いているしそんなアデおじの気を引きたいがために「いいよ、アーデンが望むなら王子と仲良くする」とか言っちゃうし実際仲良くなったらアデおじの王子に対する殺意を知ってどうしてノクトを殺さなくちゃならないの?って板挟みになるやつ。
調印式の日、父も宰相もレイヴス兄上もいない城から外の世界へと抜け出すプロン皇子の話とか…うっかり城から出る途中でアラネア姐さんに見つかるけどしょうがないねぇって揚陸挺出してもらいその先で見る自由で広い世界の美しさと残酷さ。燃え盛るインソムニアに彼は何を思ったか。
プロン皇子には何かの拍子で培養液に漬かるたくさんの自分のクローン達を見つけてほしい。茫然とする皇子の後ろから気配もなくアデおじが現れて驚いた?と飄々と言ってほしい。皇子は自分の代わりは幾らでもいるのだと悟って、でもその数多のクローンの中から偶然か必然か選ばれたことに気付いてほしい。
プロンプトはオレだ、他のクローンなんかじゃない、オレがプロンプトなんだって自分の存在確立を叫んだ皇子と、他でもないアンタが皇子やるって決めたんだ、なら自分で決めた道くらい自分で歩きな!って尻蹴っ飛ばしてくれるアラネア姐さん。
アラネア、オレはまだ間に合うかな。ぼたぼたと涙をこぼしながら訊く皇子にアラネアは間に合う間に合わないじゃない、間に合わせるんだよって言ってくれるから皇子はぐしぐし涙を拭って上に立つ者の顔となる。アラネア、ひとつ頼みたいことがあるんだ。それに何なりと陛下って口角上げて跪く姐さん。