囚パロ

推しカプ出来たらとりあえずヴァンパイアパロはさせとけという時代に生まれたのでおじティスには軽率にスラムでヴァンパイアにしか分からない極上の血を有する千年の花と呼ばれるプロンちゃんをうっかり見つけて自分の屋敷にお持ち帰りしてほしい。
綺麗な顔をした男が、悪臭にまみれ汚ならしい格好の、飢餓による腹水で腹だけはぽっこり出てる目のギョロギョロした、そう遠くないうちに寿命を迎えるだろう地獄の餓鬼のような子どもの前で、一度も折ったことのない膝を折り、靴に消えない皺を残してその手を取りそっと口づけを落とすんだ…。
醜い、死にかけの子どもを自らの手で美しく整え、知性ある人間へと育てる。時期が来るまで、処女を散らせるほど大きくなるまで優しい美しい男であり続ける。時が来るその時まで、綺麗な男は、庭に咲く美しい薔薇を主食に今か今かと疼く牙を抑え空腹を誤魔化し続ける。
もうそろそろか。男が熟れた子どもに牙を立てる頃合いを見計らっていた頃、因縁の仲であるアーデンが一体何を嗅ぎ付けたのか門前払いも出来ぬ用を片手に屋敷を訪れる。致し方ないとばかりに男は屋敷の奥の奥、人間では到底開けられぬ錠を付けた部屋へと子どもを閉じ込める。絶対に出てはならぬと言って。
遅かったね。組み敷いた子どもの上で男がにたりと笑った。噎せるほどにこもる爛れた精と芳しい子どもの血のにおい。されるがままに揺さぶられる意識を失った白い身体。ここで何が起きたのか一目瞭然だった。男がべろりと子どもの首に舌を這わす。千年の花、なるほど口に含めばあと千年は長生きしそうだ。
「アーデン、貴様ァ…!」目の前が真っ赤に染まる。込み上げる激情のまま瞬時に召喚した剣で男を薙ぎ払った。しかし。それは届く寸前で霧散した男の体を通り越し、空を斬る。酷いな、ノクト。背後で再び形を取り戻した男が帽子を片手に肩を竦め、嗤った。客人を待たせたあげく、急に斬りつけるなんて。
黙れ、何故お前がここにいる!こいつを知っている!いけしゃあしゃあと口にする男の喉に刃を突き付ける。男の表情は変わらない。それどころかいいね、その方がずっとヴァンパイアらしいよと一瞬で伸びた牙を光る金の目を揶揄する。答えろ!吼えるよう問う声に男が唇を弧にした。ほら俺、顔が広いからさ、知り合い、多いんだよね。そうだなぁと男が掠れた声で囁いた。もしかしたらノクトの屋敷に出入りした人間もいるかもしれないね。そこでようやく思い出す。過去一度だけ子どもに服を与えるため屋敷へと呼んだ人間達の存在を。ギリと歯噛みする。悪辣な男の企みはその時から既に始まっていたということか。
可哀想なプロンプト。男が同情的におどけて言う。こわい顔したノクトに閉じ込められて。知らない男に血肉を啜られて。泣いても叫んでも誰も助けに来てくれなくて。どうして扉が開かないのか、どうして部屋から出るなと言われたのか、どうして自分は今日まで育てられたのか。プロンプトに答えは出たかな。
子どもの爪は割れ、血が滲み、中には皮膚の断片が混じっている。だが激情に呑まれた男は気付かない。突如現れた男が誰なのか、自身に何が起きてるのか分からない子どもが、子どもなりに部屋から男から逃げ出そうと開かない扉をどかない男を絶望しながら引っ掻き助けを乞うていたことなど気付かないのだ。
【出逢い編】
お持ち帰りした子どもを風呂に入れるようイグニス他使用人に指示するんだけど、こびりついた垢と汚れに大苦戦。拾った主ならともかく見知らぬ大人が自分の体に触れることにとうとう我慢出来ず(途中そこそこ抵抗はしていたものの)遂に暴れ、逃げ出してしまう。
泡だらけな上びしょびしょに濡れた裸の子どもが走ってきたかと思えば足にすがって追いかけてくる使用人に牙を剥く。一体何をしてる。嘆息して訊ねればぎゅうぎゅうと抱きつく腕の力を強めるだけの子どもと気まずそうに説明する使用人。お前を害することはないと言い聞かすも首を横に振るだけの子どもに仕方ないと男自ら子どもを抱えて風呂に入れさせる。少しずつ現れる子ども本来の姿。この国ではあまり見かけない金の髪、そばかすは浮けど白い肌、角度によっては紫にも見える目。思わず目を瞠っていると子どもは罰の悪そうな顔をする。あまり見るな。自分だって好きでこの容姿をしているわけじゃない。
珍しい容姿というのは子どもが生きていく上ではやっかい極まりないものだった。人は異質なものを拒む。同じ子どもならあからさまに。月の光も届かぬ暗い路地裏で独り獣の目をした子どもの姿を思い出した男は、唇を噛み俯きそうになるその顔を掬い上げると言う。お前に足りないのは教養と栄養だけだと。
俯くな、胸を張れ。それがこの屋敷で生きるということだ。お前は誰彼構わず牙を剥く獣じゃない。知性と理性を有した人間だ。俺がそれを教えてやるよ。男は己の額を子どものそれに合わせると甘く甘く囁いた。いずれ来るその時まで綺麗で優しい善良な男。男は人間の血が一番美味となる食べ方を知っている。
悪趣味だぞ。どうせ餌とするならあの子どもに下手な希望は抱かせるな。そう苦言を呈する側近に男は笑みを刷いたままカップを傾ける。知ってるかイグニス。人間の感情というのは思いの外、味を左右するんだ。信頼、好意、深い愛情。向けられる感情が強いほどそれは比べ物にならないほど美味となるんだ。
ヴァンパイパロで思い出したけどおじティス(ヴァンパイア)がプロンちゃん(人間)をヴァンパイアにするかしないか酷く悩んでる時に薄ら笑い浮かべたアデおじ(ヴァンパイア)がおじティスの背後から忍び寄って「お前は初めから“こちら側”だろ」と囁くんだ…。
おじティスは初めからヴァンパイアとして生まれたのでも人間だったのにアデおじに無理やりヴァンパイアにされたのでも良いんだけど、とにかく永く生きるということに膿んでいた(ヴァンパイアという生を呪っていた)側なのでプロンちゃんを同じ目に合わせたくない、でも傍に置いておきたいっていう葛藤。
アデおじも永い生に飽き飽きしてるけどこっちは人間を使って遊んでろくでもないことしでかして、なんとか退屈を紛らわせてる側。だからおじティスに囁くのも退屈凌ぎのひとつ。でも本当におじティスがプロンちゃんをこちら側に堕としたら永遠に後悔と歓びと罪悪感で苦しむおじティス見られるし、壊れやすい人間だった時では出来なかったような遊びをプロンちゃんでやれるようになれるし、それを考えれば愉しくて仕方がない。そんなアデおじはプロンちゃんにも悪魔の囁きをする。プロンちゃんの手でおじティスを崖から落とさせる。
プロンちゃんを手元に置く手段としておじティスは軽率に拾ってくれて構わないけどアデおじは大金詰まないとダメだからな。アデプロの場合どんなにお互い矢印で向かい合ってても絶対それ口にしないだろ。だから大金で買ったからそう簡単には手放さないって表向きの理由作っておかないとダメなんだよ…。
そんな薄っぺらい、破綻しかけた建前を掲げる二人の関係に罅を入れるようおじティスをぶっこみたい。アーデンと違い掌中の珠のように優しく接し、色んなものを教えてくれるおじティスと、そんな彼に心を開き次第に本来の明るさと快活さを取り戻していくプロンちゃんな…。
別荘においで。故郷の雪を見せてあげる。そんな手紙をおじティスから貰ったプロンちゃんがアデおじに連れていってと小さいながらに口にする。それはおじティスとの交流が始まる以前には考えられなかった我儘というもの。抱いてる時くらいしか聞いたことのなかったそれにアデおじは眉をひそめながらも、溜息混じりに了承する。
かくして三人は雪の中の別荘へ。相変わらずおじティスにべったりのプロンちゃんを内心苦々しく苛立たしげに思いながらも表には出さないアデおじと、おじティスと談笑しながらも一切反応を見せないアデおじを気にするプロンちゃん。
お前はいつもあいつを気にすんのな。ぽつりと呟かれた言葉にプロンちゃんは口ごもりながらも、そりゃあまぁ一応オレのご主人様だしと笑って誤魔化す。それにおじティスはこんな酷い痕を付けられてもか?と襟首を開いて所狭しと刻まれた噛み痕や鬱血をなぞる。夜な夜な責めるように手酷く抱いた男の痕を「お前の買った倍の金でプロンプトを買う。それなら文句ないだろ?」その言葉は確かにふたりの、暗黙の、薄っぺらい建前に亀裂を走らせた。アーデンはちらりとプロンプトを見る。悪くない話だ。僅かに歪んだ唇がそう応えた。ならば交渉成立だ。大人達の勝手な交渉。それにプロンプトは唇を震わせる。
オレは物じゃない、人形じゃない!どうしてノクトまでお金でオレをどうこうしようとするの、理由をお金で片付けるの。ずっと言いたかったこと。ずっと言えなかったこと。傍に居るのは金で買われたからだけじゃない。自分の意思もあるからだ。でもアーデンはそうじゃなかった。自分を金で売買出来るのだ。
続かない。