原作寄りの妄言 3

「今晩は」「……え、」誰もいないはずの背後から声が掛かる。ひやりと冷たいものが滑り落ちるのを感じつつ「へぇ、髭伸ばしたんだ。似合ってるよ」「アーデン…!」「ハハ、名前、呼んでくれるんだ」構えた銃に男が目を丸くする。
「おや、まだそれ使ってくれてるんだ。なかなかの使い心地でしょ」なんせ俺の銃だから──。驚きに目を瞠る。目を覚まし、大した武器も所持しておらず、武器召喚も出来ない自分に押し付けるよう手渡してきたあの時の銃。かの研究所の、適当なところから持ち出した物だと思っていたのに、まさか男の物だったなんて。
「そうだね、あの時も大事に胸に抱えるよう持ってたね」「違っ、あれは」「──そして、それで父親を殺した」ひくりと喉が震えた。「王様には、仲間にはちゃんと言えたかな。君が父親を撃ったことを。ルシスの人間でないばかりか、父親をも殺したことを――」
言葉を失うプロンちゃんに男はにんまりとわらう。あぁ、俺と君、ふたりだけの秘密だったっけ。カタカタと震えるプロンちゃんに良いもの見せてもらったとポケットに目的のものを捻り入れ、持ち主へと返す。そうそう。良いものを見せてもらったお礼に、と男が低い声で囁いた。王様、もうすぐ帰ってくるよ。
リストバンドなんて適当な理由であり本来の目的がそれを伝えることなのだと言われなくても分かった。この10年、折れそうになる心を必死に奮わせて、それでもいつまでこの希望と絶望と不安が押し寄せる日々を過ごせばいいのか分からなくて。男の言葉に茫然とするプロンちゃんの耳にワンと犬の声が届く。
視線の先、男の後ろから黒い犬──アンブラがとことこと歩み寄ってきて、男の横に座る。唸ることも噛みつくこともなく敵である男の隣でお座りをしてこちらを見つめるアンブラにプロンちゃんは困惑する。そんなアンブラに男はいい子だとでも言うように頭を撫でる。嬉しそうに尻尾を振るアンブラ。
なん、で…?と戸惑うプロンちゃんに男はずっと隣にいたからにおいを覚えてるのかもね、と意味不明なことを言って。代わりにアンブラがプロンちゃんの前に進み出て何かを伝えるかのようにクゥンと鳴く。王様に、何か伝えたいことあるんじゃないの。プロンちゃんの本来の目的を言い当てるように男が言う。
オチを忘れてしまったんだけどハンマーヘッドで待ってるっていう走り書きはこの時プロンちゃんが書いたもので、そうしてる間にアデおじはいつの間にやら消えていて結局ライオンハートを叩き返せないままアデおじ居なくなって、そうして捨てるに捨てられずずっと持ってるプロンちゃんの話だった気がする。
※エピプの最初の方でアデおじに奪われたリストバンド=モコ服と一緒に手に入れたもので、最後まで返してもらえなかった ・アデおじに渡された銃(ハンドガン)=アデおじの銃 ・ライオンハート=高官用の銃=アデおじの銃なのでは? という勘違いから生まれた話です。
みそプちゃん、うっかりアデおじと邂逅してアーデン絶対殺すマンとなりこの10年で養った限りの力を尽くすのにアデおじときたら怖い怖いと軽口を叩きながら避けるし一撃でみそプちゃん地面に叩きつけるしその背を遠慮なく踏みつけた上であーもう服が穴だらけなんだけどとかマジトーンで言うからこわい。
10年前、ただ震えて怯えて泣き出しそうな顔を上げ助けを待つだけで精一杯だった子どもが今や目の前で自分に牙を剥いて襲いかかってくる。さてどうすればあの時のようにまた心を折れるだろうか。その牙を折ってやれるだろうか。今度はどこまで堪えられるだろうか。考えるだけで良い暇潰しになりそうだ。
とは言えアデおじって絶対貧乏くじ引くタイプだと思う。あとあの物言いですごく誤解されるタイプでも。むしろ自分から誤解されると分かっていてそういう物言いしそうだし、頼まれてもないのに勝手に必要悪とかなりそう。しかもそんなアデおじの姓に周囲が気付く頃には手遅れになってるから質が悪い。
王様を創るために〝こっち側〟へと引っ張ってしまった3人をあの10年で正しい人間側へと戻れるようその背を蹴るアデおじとかさ。嫌がらせのように夜の世界で何度も目の前に現れていた男が(ある時期を境に消えたけど)何をしに来ていたのか、夜明け後にうっすらと理解するも、もう今では…みたいな。
プロンちゃんはそれまで一人で食べる食事を美味いとは思わなかったが不味いとも思わなかった感覚から仲間と食べる美味しさを経て今度は砂を噛むような味気ないものへと変わってしまうのだろうけど、そんなところにアデおじ現れて「あんたがいると飯が不味くなる」っていう感覚まで戻してやってほしい。
味気ないから食べる量も減ってたところに、何しに来たのかアデおじが(自分は食事をとらないくせに)少食であったり食事を残すことを煽るような口ぶりで口にするから次第に〝早く食べ終わってここから離れよう〟という考えにシフトして気が付けば食事量が戻っていたみたいな話もセットで。
そうやって足早で立ち去るプロンちゃんの背を見届けて帽子を深くかぶり直し小さく口角を上げたアデおじはその背とは反対側へと歩き出し、その後王様と共にまみえる日まで彼の前に姿を現すことはない。アデおじがやるのはその背を蹴って一歩進ませることまで。あとは自分の足で歩まねばならぬのである。
やっぱさ、アーデンという名前聞いてイグニスが敵国の宰相だって分からなかったのってアーデンって名前が一般的だったとしか考えられないわけですよ。昔の英雄の名前付けちゃうやつ。つまりアデおじは(インソムニアは別として地方では)現代において人を救った王としての記録で残ってるんじゃないか説。
シガイとして滅された悪王ではなく、数多の民を救った王として。だから民はその後の名残でアーデンって名前を子孫に残していったんじゃないかな。まぁ新王が民を救った王を殺すってどんな理由付けてもあんま良い話じゃないからアデおじは急死として処理されてても可笑しくないし。
もしもインソムニアより遠い僻地で昔ある王様に原因不明の病を治してもらった人々がその王様のことを子々孫々伝えていってたとしたら。いつしか王様のアーデンという名前が心優しき者になるようにという願いを込めて己の子どもの名前に付けていったとしたら。僻地では今も尚王様は救世主なのだとしたら。
「昔、転校してきた子がいたんだ。名前はアーデン。その子とは少し仲良くなって色んな話を聞かせてもらった。アーデンはルシスの端っこから来たらしくてね、インソムニアに来てからは驚きでいっぱいだったんだって。中でも一番驚いたのはクラスでアーデンって名前の子が自分しかいなかったことだって」
「その子の故郷ではアーデンって名前の子がいっぱいいたんだって。クラスには少なくとも2~3人。でもみんなアーデンっていう名前に誇りを持ってた。この名前は昔々命懸けでご先祖様を救ってくれた心優しい王様の名前だから。そんな王様のように立派になってほしいって意味が込められてるからって」
「王様が変わったことさえ伝わらない僻地では数百年、王様はずっとアーデン…あんたのままなんだったってさ。馬鹿みたいな話だよね。百年もしたら普通の人間だって死んじゃうのに…でもその人達にしてみれば遠い名前も知らない王様よりこの地まで救いに来てくれた王様が彼らの本当の王様だったんだ…」
「そんな話をね、イグニスにしたんだ。外の世界の話を、ね。確かに外は本当にアーデンって名前の人、多いみたいだった。いろんなとこでアーデンって呼び掛ける声がしたよ…だからかな。イグニスがあんたの名前を聞いても宰相だなんて気付かなかったのは…よくある名前だなんて流しちゃったのは」
「アーデン…本当はあんたも気付いてたんだろ。アーデンという王様は忘れられていないって。シガイとして神にも過去の王にも切り捨てられた王様じゃなく、誰よりも人々に寄り添い、救ってきた英雄王として。あんたはずっと人の心に残り続けてるんだって」
一般人だから知っているプロンプト話。そして気付いてはいても、もはや立ち止まることさえ出来なかったアーデン・イズニアの話。
夜明けを導いた王様、目の見えない宰相様、王と国の盾様。彼らの話は後の世に伝われどひとりだけ知られることなく消えていった彼らの大事な仲間、一般人。彼がどれだけ仲間に光を与えたのか、勇気を、笑いを湧かせてくれたのか、それを語る者はもういない。最後のシガイとして消え去った名も無き者は。
なんだろう…ノクトさんよりもプロンちゃんの方が世に忘れられていくというか秘密裏に処理されるというか…ニフルハイムの最後の技術として、負の遺産として独りそっと消えそうだなって…「ここにまだ神話は残っているから…」って笑顔で自分の頭に銃を突き付けそうでこわい…。
星は空へ、シガイは土へ。神を裏切り続けた。夜は明けて終わりの朝へ。次の別れこそ永遠。でも後悔なんてしない。だってこれがオレの人生だから。魔導兵でもニフルハイム人でもない。ただのプロンプト。ただみんなと旅をしたプロンプトだったから。的な磔刑の聖女の歌詞が脳内流れてきてつらい。
一度目の別れはノクトさんがクリスタルに取り込まれた10年前。二度目の別れは真の王と最後の(夜明けで消えなかった自分という)シガイの死として…って考えてひとりで泣いてる……。
10年後の王様に「王様のくせに帰ってくるの遅い」「ヒーローは遅れてやってくるんだよ」みたいな軽口みんなで叩いてたらつれぇなって思った。
n周したプロンちゃんはきっとノクトさんと同じとこには逝けないしおそらく堕ちる先としてはアデおじ側なんだけど、最後に選んだ写真の裏に小さく「いつか会いに行くから待っててね」とか書いてそうだし、転生先で星の王子様の異名を手にしているノクトさんに「初めまして!ノクティス王子!」って言って「王子じゃねぇ!…ってか初めてでもないだろ」ってノクトさんに言われて泣き笑いするプロンちゃんまで想像した…きっと転生先のノクトさんははっきりとした記憶がないから上手く説明できなくて皆には理解できないことを話して誰かを探してる=星の王子様って呼ばれてるんだと思う…。