熱い…あつい……あたまが、とける……。
つぅ、と雫が顎を伝い落ちる。一滴、二滴と。それがもう汗なのか開きっぱなしの口から溢れる唾液なのかクリス自身も分からなかった。
「…ぁ…、アッ……マ、スター……も、ぅ…っ」
じゃらりと鎖の擦れる金属音。切羽詰まったクリスの声に、レイフロがゆるりと頭を上げる。そうすれば己の高ぶりと出したままの舌を繋ぐように透明の糸がツ、と伸びて。今何をしているのか、されているのか、分かっているはずなのに分かろうとしないその事実に──卑猥さと生々しさに、頭がおかしくなりそうだった。
「……こら、誰が顔を隠して良いと言った」
堪らず顔を覆う手を咎めるように、先端を柔らかな口内へ呑み込まれる。そこから幹の方へ。粘膜だけでなく唇でも。たっぷりの唾液を纏わせ、続けられる愛撫は腰が抜けるほどの快楽を与えてくれる。こんなこと、あって良いはずがないと言うのに。なのに体は全く言うことを聞かず、それどころか屹立は痛いほどに勃ち上がり、先の孔からはとろとろと喜んで蜜を溢している。
「クリス」
手をどけろと。ちゃんと見ていろと。続くであろう言葉にひくりと肩が揺れる。口元だけはわらっているのにわらっていない強い視線は、声音は背筋をぞくぞくと戦かせ、有無を言わせずクリスを従わせてしまう。こんなだらしない顔を見られるのも、焼け付くような淫猥さを目にするのも嫌なのに──。顔に寄せていた手をゆるゆるとレイフロの肩へと伸ばす。そうすれば満足したようにじゅるりと音を立てて吸い付かれ、限界の先まで追い立てられた。
「…ハッ、……まっ、…、っ…ンン、ァア……!」
堪えきれず、びくびくと体を震わせ。もはや肩にしがみつくと言うよりはレイフロに抱きつきながら、堪えに堪えた精を吐き出す。慣れない快感に口端から涎が伝い落ちる。
「濃いな…」
口の中のものを飲み下したレイフロはべろりと口端を舐め取ると、クリスの顎を舐め上げる。
「断食ついでに禁欲か…まぁそれもお前の美徳なんだろうが──少しは慣れないと後がきついぞ」
ぬるりと再び撫で上げられる屹立。しばらくは無理だと思ったのも束の間、吐精したばかりだというのに、力を失うどころか少し擦られただけで先程と同じ……いやそれ以上にビキビキと硬く、血管を浮かび上がらせていくそれに頭が混乱する。
「っ、……ッ、なん、で…、ッ…」
敏感な割れ目を押し拓かれたかと思えば、とろりと溢れる先走りを塗りたくるようぬるぬるとしごき上げられ。自然と揺れる腰に、上がりっぱなしの息。詰めようにも唇の隙間から漏れ出る声。少しも下がらない鋭敏な感度。上がり続ける熱。止まらない体の奥の疼き。出しても全く治まらない、満たされない焦燥感に──。混乱する。分からなくなる。知らない、こんなもの。知らない、こんな際限がないなんて。
「若いってのはいいもんだな?」
レイフロの大きく開いた口がじゅぷりと音を立て喉奥まで呑み込む。包み込まれる粘膜の感触。ねっとりと絡みつく舌。それだけで既に腰がぐずぐずに溶けそうだと言うのに……、
「それっ…ゃ、です…ッ…マス、タ…、…ま…すた…ぁ…ッ」
もういやだ。なにも知りたくない。感じたくない。熱くて堪らない粘膜がぴたりとくっついて、吸われるのも。柔らかい舌に裏スジを嬲られるのも。弱い先端がぬるぬると濡れているものに包まれ、きつく締め付けられるのも。縋る腕が、腰がガクガクと震えていることに気付かないはずなどないのに、その手が緩められることなく。クリスは堪らずレイフロの頭を掻き抱いた。
「…、…ァ、ア…ッ…、…ます…ァ」
咥えきれない根元も指でしごかれ、張りつめてせり上がる袋までも揉み込まれて。堪えるにはあまりにも酷な快楽を前に髪を振り乱す。こんなのむりだ。がまんできるわけがない。ハッ…ハッ…と犬のように涎を垂らして喘いでもレイフロは目を細めるだけで、むしろ早くイけとばかりに強く吸いついた。
「ン…ァ、もっ……だッ、め…アアァ…ッ!」
ぶるりと腰を震わせ、精をレイフロの口内に吐き出す。目の前がチカチカと点滅した。頭の中が焼け切れそうだった。立て続けに、それも短時間に繰り返される吐精は完全にクリスの許容を超えていた。全てを吐き出し、ぐったりと体の力が抜け落ちると、レイフロはようやく唇を離した。
「……まぁ、こんなものか」
「…ァ、………?」
たらり、と吐き出されたクリスの精を掌へと垂らし、その濡れた指をクリスの後孔へと宛がう。ゆるゆるとまるで潤滑剤のように広げたかと思えばゆっくりとナカへ沈み込み。
「…ん、…っ、ふ……、ァ、ア…ッ」
異物感に眉を寄せたのは一瞬だった。ぞわりと鳥肌が立つような、熱を持つような。腹の奥が悦んで指を呑み込むよう動いて、きゅっと締まる。
「……? …あぁ、自分のものでも精気は精気、か」
「…ッ、……?」
「初めてにしちゃ運がいいって話だ、…お前じゃなかったら、だが」
あまりトんでくれるなよ、とそう言って。く、と鉤のように曲がった指が一点を圧す。
「ひっ…ぃ、…ッ…!」
びくんと身体が跳ねる。電流が走ったように快感が脳を焼き、腰が浮く。それが一度ならず二度、三度と。く、く、と押し込められる度にびりびりと痺れが襲いかかる。
「…ゃ、…や、…ァ…そ、れ…っ…」
「ダメだ。慣れろ」
ずるり、と抜けた指が増え、再度ナカを犯す。
「ひ、…ア、アァ…ッ、!」
増えた指がゆっくりと拓きながら道を付け、弱いそこを挟み込んで。ぬぷぬぷと濡れた音を立てながら擦り上げ、撫でる。何度も、何度も。硬い指が、長い指が、そのやわく敏感な部位を責め立てる。
「…ッ、ぁ、ア、…ひ、ァア…ッ」
触れられる度、仰け反るほどに感じるところを容赦なく教え込まれる。強く押し込まれたかと思えば、一定の間隔でノックされて。入り口まで引いたかと思えばずるりと一気に奥まで挿れられて。前はいつの間にかガチガチに勃ち上がり、糸引くほど先走りを溢していた。ふるりと頭を振る。こんなの、慣れるわけがない。自分でも知らなかった弱点をずっとずっといたぶられ続けるなんて。こんなに悦いなんて──。あまりの官能に我知らず涙が零れる。
「キモチイイだろう? こうしてしつこく繰り返してやればお前の身体も直に覚える」
低く囁かれ、伝う涙を舐め取られる。それだけできゅうっとナカが収縮するのに、触れられるだけで敏感な耳までも甘噛みされ、更に音を立ててしゃぶられる。耳殻を舐られ、耳朶を食まれ、ぴちゃぴちゃと、ぐちゅぐちゅといやらしい水音と共にナカだけでなく耳からも犯される。
「…ッ、まっ…ァ、…ン、ンン゛ッ」
こんなの頭がおかしくなる。腰が止まらなくなる。やめてほしいのに身体が全く言うことをきかない。へこへこと媚びるように揺れ動くはしたない腰つきを見て、レイフロは口端だけで嗤った。
「キモチイイなァ、クリス? イイ子だ。このまま大人しく感じてろ」
耳の中を舐められると同時にナカのそこをくにゅ、と抉られる。びくんと大きく体が跳ね、目を見開いた。ぬちゅ、くぷ、くに、くに、くに──。道を付けるのとはちがう。ナカを拡げるためとも全くちがう。ただただそこを嬲るためだけの動きに。息が浅くなる。つらい。そこを叩かれると声が止まらなくなる。ァ、ア、とだんだん高く、短くなる嬌声に合わせるよう指の動きも早くなる。
「…だ…めっ、ァ、ア゛…ア、ア」
くに、と押し込められる度、ぐちゅ、と耳を犯される度、ぶる、と身体が震えた。むり、とかいやだ、とかそういう次元じゃなかった。こわい。なにかがクる。こわい。腰を逃がそうにもやんわりと押さえつけられ逃がしてもらえず、腹の底から込み上げるナニかに頭が真っ白になる。
「──ほら、イけ」
「ァ…ッ、ン゛ァ…ッッ……~~~~~ッ」
レイフロの声と共に来たのは言葉さえ出ないほどの深い絶頂。強すぎる快楽で。爪先はピンと伸び、体はガクガクと震えていた。一瞬トんだ意識を戻すかのように押さえつけていた掌がすり、と腹を撫でる。その度に何度もひきつけを起こしたように痙攣を繰り返して。ナカが締まり、今度は自ら指をそこへ食い込ませ、またあの深い絶頂を誘おうとする。射精のような一瞬がいつまで経っても終わらない。とまらない。快楽も、下腹の痙攣も、なにもかもとまらずパニックを起こしたかのようにぐしゃぐしゃとシーツを掻き抱く。
「ん、上手にイけたなァ、クリス。どこもかしこもびしょびしょだ」
ずるり、と指を抜き、舌を這わせると、ひくつく下腹の液溜まりに指を這わせる。いつの間に達したのか、硬いままなのにたらたらと壊れた蛇口のように白濁を溢し続けるそれにレイフロは小さく嗤うと汗や涙、涎でどろどろの顎や頬をべろりと舐め上げながらクリスの大腿を抱えた。パサリとバスローブが滑り落ちる。窄まりにひたりと滾る熱が押しつけられた。
「もう少し慣らしたいとこだが…まぁ、このままだと本気でトびそうだしな」
なんなら俺も限界だ…。そう言って膝に口付けられながら、ぬる、ぬる、と窄まりに擦り付けられる硬いモノの存在にひくりと喉が引き攣る。まだ下りてこれてないのに。そこに当てられてるだけで感じてしまうのに。またナカを擦られたら。指なんかよりずっと太いモノであれを押し潰されたら。カチ、と歯が鳴った。
「なんだ、想像しただけでイッたのか?」
「…ンッ、…ァ、…ッ、ン゛、…っ」
想像しただけでひくひくとナカが、腹が、痙攣する。小さい波が何度でも押し寄せる。イってるのにイキきれず中途半端な快楽に身を震わせるクリスに、悩ましくも面白がるようレイフロの手が腹を撫でた。
「まったくお前は…俺を酷い男にするのが得意だな」
力を抜け、と囁かれて。その言葉に気を取られているうちに、ズ、と腰が進められる。
「ァ…ッ…ァ、ア゛…っ」
「はっ……せま、…さすが処女だな」
ずりずりとナカが侵食されていく。あつい。くるしい。痛みは無いのに、指なんかとは比べ物にならない圧迫感に息が止まる。
「ほら…イイ子だから、息、吐け」
額に、こめかみに、首筋に、口付けられ、おもむろに前に触れられる。
「…ハ、ッ…ぁ、……ッ、っ~~~~ッ…」
ぐちゅぐちゅと撫でられ、擦られる直接的な悦楽に嬌声と共に吐き出される息。それを見計らってズン、と奥まで打ち込まれる楔。そのあまりの衝撃に、声が裏返った。身体が仰け反る。数呼吸置いて、ぼろぼろと涙が溢れた。
「あぁ、…ちゃんと挿ったな。…どうした、泣くことはないだろ」
ん? と苦笑してクリスの前髪を掻き上げると舌で涙を拭い取る。クリス自身もなぜ泣いているのか分からなかった。泣いている自覚さえなかった。ただ身を捩るほどの熱と、苦しさと、じわじわ焼かれるような、込み上げてくるような得体の知れないナニかがこわかった。
「ン゛、ァ゛ッ、…な、かっ……も、っ…」
「…そう慌てるな、…もう少しなじんでからだ」
そう言うと、レイフロは大きな掌で身体を撫でさする。肩を、腕を、脇を、胸を……焦れるくらいゆっくりと熱い手で。じっくりと火種を燻らせるように。ぞくぞくと腹の奥に響くそれに、知らず身悶える。撫でられてるだけなのに、触れられているだけなのに、どこもかしこも鋭敏になっているせいで、濡れた声が止まらない。腰がぐずぐずに溶け落ちる。
「…こっちは後で、な」
胸の頂きは掠めるだけに留めて、掌はゆるゆると下降して腰を、臍を、下腹を撫で始める。ふれてるだけ、なでているだけ。レイフロは動いてない。そう分かっているのに腹が痙攣したように収縮する。この奥に、挿入ってる──。
「ン゛、ぅ…ッ……ァ、ッ」
そう意識しただけできゅう、とナカが締まる。咥え込んでいるのをありありと思い知らされながら、ヒクヒクとナカが蠢く。弛緩して、締め上げて、掌に撫で擦られる度に何度も甘く、イく。ハ、ハ、と呼吸が少しずつ短くなる。だんだんと上ってくる感覚が止まらない。撫でられてるだけなのに玉のような汗が滑り落ちる。
「ハッ…煽るのだけはいっちょ前か、」
どこか余裕を失った声が聞こえてきて。ズ……、とみっちり埋め込まれたそれが少しずつ前後し始める。
「ひっ、ァ、…ァ」
腰を掴まれ、試すように小刻みに揺らされて。ぞわりと下肢が震える。敏感な粘膜が音を立てて擦れ合う。それだけで顎を反らすほど悦いのに、動きは徐々に大きくなっていって。
「ァ゛…ッ…そ、……こッ…ァ、ァ」
弱いところ。感じすぎるところ。そこも容赦なく擦られ、身体が仰け反る。
「お前は、……まだ少し動かしただけだろう?」
たったこれくらいで、とでも言うように。苦笑混じりの熱っぽい吐息を溢し、レイフロはクリスの大腿を抱え直すと、ずるりと抜ける寸前まで引き抜いた。
「ほら、これからが本番だ。……トぶなよ」
その言葉と同時にズン、と一気に奥まで貫かれて。
「ッ…ァッ…、~~~~~~ッ…ッ」
腹いっぱいに咥えこまされるそれ。息が止まるほどの衝撃。なのにそれが散り終える前に抜かれ、またナカをズンッと犯される。あついのに。くるしいのに。硬いそれに弱いところを擦り上げられ、掻き回されると頭が真っ白になるほど気持ちが悦い。ぞくぞくするのを止められない。伸びきった足先が宙を掻く。抜き差しされる度に腰が浮き、ナカが勝手に蠢き始める。
「…あー…、……これが無意識だって言うんだから、質が悪いな、」
「ッン、…? ……ン゛、……ぅ」
「お前…自分の腹ン中がどうなってるか分かってないだろ? ……とろっとろだぞ」
そう言って、レイフロは抜け出るほどに腰を引く。そうすれば、ナカはきゅうっと締め付けて引き留めようとして。逆に深く押し込めようとすればひくひくと痙攣しているのに貪欲に呑み込み、吸いついて。
「ほら、分かるだろう? …あっついのに、ねっとり絡みついてくる」
もどかしいほどゆっくりと腰を動かし教えられるけれども、──もうクリスにはなにもかもが分からなかった。突きつけられる自らの痴態に消えてしまいたいような羞恥が込み上げるのに、それさえも快楽の火種に変わってしまう。上がる息さえ、舐めるように、吸いつくように、まとわりついて搾る動きへと変わる。なにをどうしたらもっと悦楽を味わえるのか。搾り取れるのか。頭が追いつくより先に身体が勝手に覚え始めている。コントロールが利かない。気持ちが悦い。気持ちが悦い。重くて甘ったるい波がやまない。もっと、もっと突いてほしい。擦って、抉って、揺さぶって……この中途半端に炙られる熱を終わらせてほしい。腰はガクガクと震えっぱなしで他にはもうなにも考えられなかった。
「ん? ……あぁ、トんでるのか…まったく……お前が煽ったんだぞ。もう少し付き合え」
「…ッ、……ァ…?」
奥まで挿入っていたそれがずるりと途中まで抜け出されて。何かを探し当てるような腰の動きにぼんやりと顔を上げる。滲む焦点が合わさる先、口角を上げ、艶かしく下腹に掌を這わせる男の意味を理解したのはすぐだった。
「ひッ、…そっ、れ、ゃ、や゛ッ…ン…ッ」
「あぁ、この辺りか……ん、キモチイイなァ、クリス?」
わざと張り出した亀頭で弱いところを擦り上げられ、硬く熱いそれで、ぐりぐりと押し潰され。そうかと思えば深い奥のところまで挿入られて。ナカとは別に外からもク、と指先で下腹を押さえられ。覚えたての弱点をいっぺんに嬲られ、気が狂いそうなほどの快感が一気に駆け昇る。刺激が、強すぎる。下りてこれない。腰を逃がしたくとも、押さえつけられた掌で、身体をくねらせることさえ赦されず。ただただ与えられる律動と悦楽を受け入れるしかない。
「ァ、…ひ、ゃ、ア…ッ…ン、ン゛ッ…ッ」
「…っ、イイ子だ、…そのままイけ」
トドメとばかりに深く突き上げられ、その強烈な快感に身体を強張らせる。ぶるりと腰が震えた。我慢なんて出来なかった。
「ッ、…、……~~~ッ、~~~…ッ!」
「…チッ、…ッ、…」
ようやく迎えた、上り詰め次の瞬間には突き落とされるような絶頂に、まともに声も出ないまま。パタパタと薄くなった白濁が数度に分けて弾け、零れる。だらだらと尾を引く快感に、ヒクヒクとナカが痙攣する。その動きに搾られるようそれがドクン、と一際大きく脈打った。息を詰める音。奥に叩きつけられる熱いナニか。真っ白な思考がとろりと溶ける。──やっと〝満たされる〟。乾いて、渇いて、足りなかったものがほんの少しだけ埋まった感覚に、安堵してか瞼が重くなる。まだ終わってないのに……。なのに意識を保てたのはそこまでで、視界が閉じきると後はなにも分からなくなった。