クリス×レイフロ(R-18)

「──やはり考えたのですが、私もやった方が良いと思うんです」
「何を?」
「口淫を」
「………………は?」

たっぷり考えて十数秒。ふざけて撫で合っていた手がぴたりと止まり、レイフロは口を開けたまま固まった。
──クリスは時々、とんでもない爆弾を落としてくれる。

 

 

「……で、なんでその結論に達したんだ。誰かに何か言われでもしたのか?」

正気に戻って更に十数秒。押し倒そうとするクリスを引っぺ剥がし、ベッドの上に座らせるとレイフロはさも痛いとばかりに頭を抱えた。厳格なカトリックの思想で育ったクリスが突然そんなことを言い出すなんてとち狂ったか誰かに唆されたかに決まってる。レイフロは深く深く溜息を吐き、考えを巡らせた。まぁその誰かなんて考えるまでもなくレイフェル以外思い当たらないのだが。チェリーをからかうと面白いからと言って後先考えずまた適当なことを吹き込んだのだろう。一体なんてことをしてくれたんだ。一刻も早く冷静に確実に正さねば……。内心そう頭を抱えつつ息巻くレイフロとは対照的にクリスは困ったように眉を下げた。

「いえ、私はマスターに普段からその、…何度もして頂いてるでしょう? ですが私は全く返せていない状況なので、それは不平等ではないかと思いまして」
「不平等って、お前なァ……」

訂正する。レイフェルに唆されたのではなく、まさかのとち狂ったクリスの自発的発言だったようだ。レイフロは抱えた頭を更に抱え込んだ。どちらかと言うとこれはもう自分のせいではなかろうか。最近は特に、チェリーボーイを卒業して尚、咥えてやれば初心で恥じらうクリスの様が可愛くて愛おしくて、その姿見たさに調子に乗っていた節もある。まさかその行動がクリスの羞恥や嫌悪でなく、良心の呵責へと繋がるとは思ってもみなかったが。想定外にも程があるだろう。

「いい。いい。しなくていい」
「ですが………、」
「俺が好きでやってるだけだろ」
「……私も好きで言ってます」
「お前なぁ…………」

そもそもクリスはこれまで厳格な戒律に身を置き、敬虔な信者として自身も厳しく律して生きてきたのだ。故に性的なものは同性愛(ソドム)どころか自慰であっても良しとしなかった。そんな男が信仰を捨てたとは言え、ここ数年でレイフロに欲を抱き、受け入れているのである。それだけでも十分だと言えるし、口淫──フェラチオなど特段、無理をしてやることでも、してほしいことでもない。だからいいのだと、そう言うのに今日のクリスはやけに食い付いてくる。

「本当に意味が分かって言ってるのか? ココに、勃起した男のブツを咥えるんだぞ?」

口ン中に突っ込まれて、喉の奥まで犯されて、モノみたいに扱われるんだよ。明け透けな言葉で大袈裟に説明しながら顎をつまんで唇を軽く押し開かせる。ぴくりと肩が震えた。ほら見ろ、こんなこと勢い任せで、ましてや引け目に感じてやることなんかじゃない。レイフロは肩を竦める。

「大体、俺のことを餌だと思ってる奴に大事なムスコを預けられるか。さすがにソコから血を吸われるのは勘弁だ」
「……今は餌でなくパートナーだと思ってますけど」
「パートナーでも! 咥えられてる時に牙伸びてたら普通に怖いだろ!?」
「なるほど……?」

ド正論中のド正論を言ってるだけなのに、何を思い付いたのかクリスがぱちくりと瞬いた。何故だ、先程よりどこか目が輝いてる気がする。というより全くレイフロの言葉に納得した、なるほどという顔ではない。思わず嫌な予感がし、レイフロの腰が引けた。これは稀に見る不味いパターンではなかろうか。クリスの悪癖の。

「……つまり牙を伸ばさない、そこに食い付かない、ということであればマスターとしては問題ないということですね?」

他は私が出来る、出来ないという問題のようなので。そう宣うクリスに天を仰いだ。ダメだこいつ、口淫に対するデメリットより好奇心の方が勝ってる状態だ。完全にクリスの悪癖である。その好奇心がかつての自分達の出逢いとなり、後にクリスのデジタルへの興味、精通へと繋がり、果てには合理性もあって自身をサイバー化するまでに至ったことは明らかだが、レイフロからしてみれば悪癖も悪癖だった。つまり一度こうなった以上何を言っても聞く耳を持ちやしないということだ。いや元よりクリスから持ち掛けてきた話なのだから余程の理由でも無い限り、折れる気なんて端から無かったのかもしれない。詰んだな、と顔を覆う。遠回しでなくさっさと強めにノーと応えておくべきだった。

「マスター」
「っ~~~~~~……あ~~~もう分かった、分かった。でもまずは指からだ。これ咥えて牙出したらその時点でやめさせるからな」

いいでしょう? なんて言うように甘えたな目を向けてくるクリスへ早々に両手を上げ、くに、と唇を押し開く。なんだかんだでクリスのそういう顔には弱いのだ。本人に自覚は無いのだろうが。今はまだ伸びていない犬歯をそっと撫で擦れば、一瞬きょとんとした顔をするも、クリスはすぐに言葉の意味を理解したのだろう。入れられた指先を口に含むとぺろりと舌先で舐め始めた。

「…ん、……ン、…? ………?」

とは言え、ぺろぺろと。口に含んだは良いもののどうしたら良いのか分からないと言ったようにクリスは指を舐り続ける。性器ならともかく、指を咥えられ愛撫されることなど滅多にないのだから勝手どころか何をすれば良いのかさえ分かっていない顔だ。品行方正、清廉潔白に生きてきたのだから指フェラなんて俗語自体知らない可能性もある。いっそ牙を伸ばさなければ良いのか? と思い悩みながら舐る姿はさながら仔犬のようにも見えて思わず口元に苦笑が滲んだ。さて、どうしようか。ここで終わらせるのは簡単だが、それでクリスは納得するだろうか。しないだろうなァ、という答えが瞬時に浮かび、すぅっと目を細める。……まぁ、牙を伸ばした時点で終わるゲームなのだ。少しくらいレイフロも愉しんだって問題あるまい。

「……クリス、口を開けろ」

顎を掬い上げ、大人しく開いた口の中へと指を差し入れ、舌へと触れる。ぴく、と身体が震えた。柔らかなそこは味覚だけでなく触覚にも敏感な器官なのだ。

「ゆっくり舐めるんだ。指全体を…そう、舌を絡めて、」

ちゅ、ぴちゃり、と。音を立て、促されるまま舌を伸ばすクリスを撫でながら上手い具合にしゃぶらせていく。太い節まで咥えさせ、舌を絡ませて。時には柔らかなそれを擦り、くすぐってやる。それだけでクリスはとろりと表情を蕩けさせた。じゅわりと唾液が湧いて、熱が上がる。口の中というのは存外、性感帯だらけなのだ。慣れないのなら尚のこと。下手に口技を知らない分、素直に舌を預け、舐められるのはレイフロにとっても気持ちが悦いものだった。

「ン……、っ…ふ…、ぁ…」

甘ったるい吐息を漏らしながらクリスは次第に夢中になっていく。導かれずとも口内で飴玉のように舌で転がして、唾液まみれにべとべとになれば丁寧に舐め取り、吸い付いて。ちゅ、ちゅ、とキスを落とし、指の股にまで舌を伸ばしたかと思えば、微かに肩を跳ねさせ反応したレイフロを上目で見たりもする。

「…どうれすか?」

上手に出来ているでしょう? と、さも煽らんばかりに見上げられれば、うっかり対抗心のようなものまで芽生えてくる。口はまだ処女ヴァージンのくせに。全く、どこでそんなものを覚えてくるんだ。

「いっちょ前に」

ちゅうと赤子のように吸い付く舌から指を引き抜き、歯列を割ると、軽く押し上げ、薄く唇を開かせる。鋭敏なのは舌だけではない。そのことをクリスはまだ知らない。すり、と牙が伸びていないか調べるよう犬歯に触れ、そこから上顎へと指を滑らせるとクリスがびく、と震えた。

「あぁ、ここも弱いのか」

硬くざらざらしたところから柔らかいところまで。撫でてくすぐって、今度は内頬、歯齦へ。

「ん、ぁ…っ、まふ、たー…ァ…」

ひとつずつ感度を確かめ、より反応の良いところをぴちゃぴちゃ、ぐちゅぐちゅと掻き回す。触れる度にびくびくと肩を跳ねさせ、堪えようとする様はレイフロを大いに満足させてくれた。

「気持ちイイなァ、クリス? …ククッ、そんな顔をして…そんなに口ン中気に入ったのか?」

いつの間にか舌を掻いても舐めることさえ忘れ、されるがままのクリスの耳朶を優しく擦りながらクツクツと笑う。それだけでもクリスはびくりと反応し、ン、ン…と色っぽい吐息を溢した。

「ほら舐めないのか? これくらいで満足してんならおしゃぶりはまた今度な」

だらだらとクリスの顎に滴る唾液をべろりと舐め上げ、レイフロは舌なめずりをする。先程までは抱かれてやるつもりだったが、なんだか気が変わってきた。何せ今日のクリスはこんなにも可愛いのだから。さっさと押し倒して隅々まで食ってしまうのも悪くないだろう。そう思って指を引き抜き、肩を押しやろうとすると、その瞬間ガシッと手首を強く掴まれ、目が丸くなる。

「…約束が、ちがいます」

ぬらぬらと濡れたままの指に舌を這わせて。そのまま口に含んで付け根まで呑み込むと、クリスは歯を押し付けるよう甘く噛んだ。その硬さに、一歩間違えればえずくであろう深さに思わず眉が下がる。

「………ッ、コラ」
「ちゃんと、きば、らひてないれしょう?」

指を咥え込んだまま、そう舌足らずに問われれば、額を覆うしかない。確かに約束と言われれば約束だ。牙を出してないのだからクリスとしては、やめる必要が無いだろう。とは言えそこまで拘ることだろうか。所詮、前戯のひとつ、愛撫のひとつではないか。

「なんでそんなにしたがるんだよ、お前…」
「…されてなにか、こまることれも?」
「質問に質問で返すのはお行儀が悪いって習わなかったか?」

普段ならしないであろう子どものような応酬に眉が下がる一方だ。とりあえず苦しかろうと指を引き抜くが、それでも手首を掴むクリスの手は離れていかなかった。

「…私がしたら不都合なことでもあるのですか?」
「……クリス、」
「絶対噛み付きません。約束します。だから良いでしょう?」
「…クリス、」
「上手くは、出来ないかもしれないですけど…」
「そうじゃなくてだな、」
「では、何です? 実はマスターはされるのが初めてで、だから怖いとでも?」
「んなわけっ、」
「それなら、私がしても良いですよね? 見知らぬ誰かが貴方にしたのなら私がしても問題ないでしょう?」

私は貴方のパートナーなのだから。そう無言で圧をかけてくるクリスは嫉妬にまみれた雄の顔をしていて。そこでようやくこの一連の行動にも見当がつく。好奇心が湧いたのも、一方的な奉仕が不平等だと思ったのもおそらく事実だろう。だが、根っこのところはたぶんこれだ。他の者には赦されて自分には赦されないことが、いつまで経っても与えられるだけの子ども扱いされることが、クリスには堪えたのだ。馬鹿だな、と少しだけ可笑しくなる。性に疎い、可愛いクリス。アレが愛を紡ぐためだけの行為ではなく暴力や支配の象徴にもなり得るものだと知らないのだ。まぁレイフロの場合、知っているからこそクリス相手なら愛を深める行為になると学び、どっぷり嵌まり込んで調子に乗ったわけであるが。そんなレイフロを余所に、それに、とクリスはにじり寄り、目線を下げてジッと見つめると、そろりと手を伸ばした。

「…ココ、硬くなってます。貴方も満更ではないように見受けられますが…?」

期待してるのでは、と暗に問うようにスリ…とボトムのフロント部分を撫で上げられ、ぴくりと身体が跳ねる。指摘は言わずもがな図星だった。というより、あれだけ色っぽく喘いで煽られて、かと思えば嫉妬に駆られた雄の顔をして迫られたら反応だってするだろう。相手は可愛い可愛いレイフロだけのパートナーなのだから。

「マスター…」
「…お前な、本当に分かってやってるんじゃないよな、それ」
「……?」

甘えるような、縋るような顔をして。切ないほど必死な声でこちらを呼んで。それがどれほどレイフロにとって弱いのか、効果的なのか、全く分かっていないのだから質が悪い。降参だとばかりにするするとクリスの頬を撫で、腕を辿ると、フロントに触れる手を覆い、滾る熱へとぐっと押し付けた。クリスの身体が緊張に強張る。

「…いいよ、分かった…やるんだろう? 可愛いパートナーの滅多にないおねだりだ」

覆った手でクリスの手を金具へと誘導させて、その耳元で来いよ、と優しく囁いてやる。コクリ、とクリスの喉が鳴った。今にも心臓の音が聞こえてきそうな程、緊張で硬くなる背をゆっくりと撫で、先を促せば、微かな衣擦れの音を立て前を寛げていく。その遠慮がちな手つきさえ可愛らしく、そして直に肌へと響く感触はレイフロを煽るのに十分だった。

「………ッ、」

息を呑んだのはどちらだったか。布の下からぶるりと現れた、そそり立つそれ。既にそれなりの硬度を保ち、血管も浮かび始めたそれを前にクリスが少しばかり瞠目する。怯えか、あるいは緊張か。すい、と視線が逸れ、おろおろと彷徨わせる様にちいさく苦笑すると、するりと頬を撫でその顔を覗き込んだ。

「…どうした? やっぱり今日はやめておくか?」

次の機会でも良いぞ、と逃げ道を用意して。覚悟は挫かずとも、今日に拘る必要性もないことをそれとなく伝えれば、クリスはレイフロの手を取り、すり、と頬を擦り寄せる。

「っ、……違うんです。怖いとか驚いたとかではなく…その、初めて見るわけでもないのに、恥ずかしいというか、嬉しいというか、実感が伴ってきたというか……」

そう口にして、かぁぁ、とクリスの頬に熱が上っていく。まだ何もしていないくせにじわりと瞳を潤まさせ、興奮したように熱い息を溢して。困ったものだと目元をなぞる。そうやってこれ以上俺を煽ってどうするんだ、こいつは……。下手すれば暴発しそうな予感に、初心のおそろしさを知る。これが計算でないのだから嗤えない。つられて上がりそうになる呼吸を抑え、触ってくれないのかとクリスを唆した。

「……ン、……ッ、」

溢れ出す先走りを潤滑剤代わりに。こすこすと、くちゅくちゅと指で撫で、掌で擦り、幹を太らせていく。それだけでもひどく気持ちが悦い。いくら性に疎いと言えど同じ男であること、ここ数年教え込んだことが功を奏し、力加減も絶妙だ。いっそ触り合いでも良いかもな、とそう思うも、クリスはもぞもぞと前へと屈み、猫のように這うと、撫で擦っていたそれへと顔を寄せた。

「……大丈夫か?」
「ん……っ、」

熱い吐息が触れるほどの距離で、無意識なのかスンと鼻をひくつかせる。まるで何かを確認するかのように何度も。ひくりと頬が引き攣った。確かにやっていいとは言った。言ったが、そんな玄人さえやるかどうかの真似までするとは思ってもおらず、反射的にクリスの頭を押し戻そうとする。

「……っ、コラ、クリ…ぅ、ッ」

だが、時すでに遅く。ぷくりと膨らみ、孔から滴り落ちる雫を舐め取るよう、ねっとりと下から上へと舐め上げられて。熱い吐息を溢す合間にもちゅ、ちゅ、と敏感なそこへと熱心に、執拗に口付けられていく。

「……っ、…ハ…ッ、」

キスされたそれが大袈裟にびくりと反応する。尾てい骨からぞくぞくするような快感が駆け上り、堪らず濡れた息が漏れた。ちょっと舐められてキスされただけだというのに。久しぶりなこともあってか、やたらと感度が良い気がする。思わず舌打ちしたくなるのを抑え込み、誤魔化すよう苦くないか、と頭を撫でてやれば、クリスはアルコールにでも酔ったかのようにとろんと目を蕩けさせ、またひとつちゅう、と口付けを落とした。

「…ん、…とても、…おいしい、れす」
「…? おいし…? …ッ、」

どういう意味だと思っているうちに、伝う先走りがもったいないとばかりに舌先で追って。次第にぴちゃぴちゃと止めどなく溢れ出るそれを舐め啜ることに夢中になる。まるでまたたびを前にした猫のように。ミルクを舐め取るよう這う舌は、先程感じた快楽というよりもくすぐったさの方が遥かに強くて。なんとも言えない感覚に上がりそうになる声を抑えつつも顎を掬って止めさせれば、ぼんやりとした目がこちらを見上げ、確信した。間違いない、酔ってるなコイツ……。

「お前なァ……そんなに、俺の精気は美味いか?」
「ン? っ……ン、」
「っ、…そう慌てるな…ちゃんとやるから。でもやり直しだ。口を開けろ」
「…ん、………ァ」

急に止めさせられ不満げな顔から一転、やる、という言葉に少し落ち着いたのかクリスが大人しく口を開ける。ぽたぽたと獣のように口端から涎が垂れ落ちるが、この際しょうがない。ビギナーが加減もせずレイフロの精気をうっかり直に喰ったのだ。レイフロとて忘れていた。精気を喰える初心な相手など久々だったのだ。……とは言えこんな状態でもクリスはヴァンパイアだ。しばらくすればそのうち慣れて酔いも醒めるだろう。なんなら、嫌悪感の少ない今の方が教え込むには丁度良いのかもしれない。

「教えただろう? お前が感じるのはココよりこの奥の方だって」

舐めていた舌先を指で捕え、それからもう少し奥を軽く押す。ひくんとクリスの身体が跳ねた。唾液がとろりと垂れ落ちる。

「舌全体で舐めるんだ。そうしたら俺だけじゃなくてお前もすごく気持ち悦くなれる。…出来るだろう?」

そう言って髪を梳いて、促せば。クリスはひたりと舌をあてがい、じゅるりと音を立てて舐め始める。

「…ン、ッ……っ……」

根元からじっくりと。敏感なそこを、熱い唾液を纏った柔らかい舌がゆっくりと、じっとりと擦り上げていく。

「……っ、…ハ……ッ、」

柔らかな見た目とは異なり、ざらざらとした感触。それが肉を擦り、血管を辿り、少しずつ、確実に先端の方へと迫ってくるのが堪らない。ぴくりと腰が震える。思わず詰めた息が艶を帯びて漏れ出した。

「きもひい、れすか…ますた?」
「…はずかしい、から聞く…っなよ、そんなの。ガチガチ、なの、…分かるだろ?」

むしろお前の方こそ、つらくないかと。そう問うもレイフロの答えを、もしくはこの行為自体を気に入ったのかクリスは機嫌良く舐め続けて。舌だけでなく唇でも大胆に吸い付いたかと思えば、支えるように添えていた指でも擦り上げてくる。

「…、…っ、…ン、……ぅ、ッ」

剥き出しの神経により近いところを舌で舐って、吸い付いて。根元の方では育った幹を更に反らせるよう手を上下に動かして。ぢゅっ、じゅる、といやらしい音が耳を犯す。先走りが止まらない。腰がどんどん重たくなっていって、声を抑えるのも難しくなってくる。拙いはずの技巧が徐々に滑らかなものとなり、髪を梳いていた指がちいさく跳ねた。それにますます気を良くしたのか、クリスは自分の気持ち悦い舌の部分を押し付けようとしながらも、少しずつレイフロを翻弄する形へと変えていく。

「…ッ、ん……っ、そこ、…っ」

カリ首に舌を這わせ、もう少しで亀頭、裏スジといったところで動きを止めたかと思えば、ジッと上目で見つめてきて。こちらを焦らすつもりなのか、次の指示を待つ犬のように大人しくなる一方で、煽るようにくに、くに、とほんの少しだけ舐め弄ってくるのだからもどかしくてしょうがない。

「…っ、……この、イタズラ好き、め…っ」
「…………」

けれど素直に乞うのもなんとなく癪で、子ども扱いするよう揶揄すれば、どうにもその言葉はお気に召さなかったのだろう。クリスはぴくりと片眉を跳ねさせ、むくれた顔つきとなると言い返す言葉の代わりに動きを止めていた舌と唇でちゅう、と強く吸いてくる。

「…っ、おま……っ、…ンッ」

たっぷりの唾液を纏った舌が、勘どころである亀頭をじっとりと舐め回し、裏スジを軽く弾いて。その刺激だけでも足先が丸まり、撫でていた指に力が込もってしまうと言うのに、

「……ッ! 待ッ…ン、ん…ッ!」

舌全体で舐められ、覆われたと思ったところで、ずるりと深く咥内に呑み込まれる。

「っ……く…ッ、…ァ、っ」

鋭敏な神経がねっとりと柔らかいものに一気に包まれる感触。ぬめぬめと熱く濡れた場所に浸される感覚。声を噛み殺せただけでも十分だった。想定外の愛撫に、腰を犯すぞくぞくとした快感が止まらない。まさか本当に咥えるなんて。

「…ッ、ク、リ……ッ、」
「ン、ッ……んぅ…ッ……」

蕩けてしまいそうなほど熱い咥内で、舌がたどたどしく蠢く。どうやら咥えたは良いものの、ここからどうすれば良いのか、まだ戸惑いながら試行錯誤している段階のようだった。舐めたら良いのか、吸ったら良いのか、はたまた擦ったら良いのか、ストロークしたら良いのか。一つずつやってみて反応を見て、次の手を変えようとしているのかもしれない。だが、どちらにしろレイフロからしてみれば冗談ではなかった。そんなもの、端からクリスに覚えさせる気などさらさら無いのだから。舐めさせてクリスの気が済めばそれで終わり。奥まで咥えさせるなど完全に予定外だった。いくらパートナーと言えど、クリスは幼子の頃から見ている愛し子なのだ。その一線を越えるには躊躇する聖域の一つ、二つくらいレイフロにだってある。クリスがこの先、一生覚えなくていいことだって。

「こ、ら…っ、…酔い、すぎ、だ…! もう満足、したろ…クリス…っ!」
「…ぷ……ァ、…ッ……ン、ん…?」

夢中になっているクリスの顎を捉え、無理やり口から引き抜けば。ツ…と舌から唾液の糸が伸び、そのまま訳も分からずきょとんとした目が見上げてくる。

「ますたー?」
「…これ以上はいいだろう? …今夜は、別のことをしよう、な?」
「…へた、でしたか?」
「そうじゃない…、そんなことは言ってないだろう、クリス?」

嘘は言ってない。だが説明したっておそらくクリスは聞きやしないだろう。誤魔化すよう、涎でべたべたになった口の周りを手で拭ってやる。クリスは大人しくされたままジッとこちらを見つめていた。そして口端へと指が触れ唇を拭ってやると、ようやくそちらへと目を向け、ぽつりと呟く。

「……くちの中、…きもちい、ところ…?」
「? ……ッ、」

何のことだと思った瞬間、うっそりとクリスが微笑み。淫靡に艶かしくべろり、と舌なめずりをしたかと思えば頭を下げ大きく口を開いて、じゅぷりと奥まで陰茎を咥え込む。

「ッ…、コラ、…クリ、ッ……ン、ぅ…ッ」
「……なへてない、ふへに萎えてないくせに

そう言われてもクリスが何を言っているのか以前に、逃すことのできない振動が直に伝わって。咥えたまま喋るなと、そう口にしようとするも、その前に口の中から抜き出そうとした亀頭がずるりと上顎を擦り、レイフロの背が反った。

「…ハ、ッ…待て、クリ、ッ……」
「…う、ッ…、…ん…ぅ…」

深いところ、浅いところ、硬いところ、柔らかいところ、ざらざらしたところ、ぬるぬるしたところ。咥内の至るところ、様々な感触のところで、敏感な肉を擦られながら、挟み込むように、逃げられないように舌で押し撫でられる。それは先程とは比較にならないほどの快感で──。特に舌の根で、張ったエラのくびれを引っ掛けるのを気に入ったのかそこを重点的に抉られれば、その度に腰が抜けそうになり声が止まらなくなった。何なんだ、一体。そう混乱して、肩を跳ねさせているうちに、クリスがぷは、と息を吐いて顔を上げる。

「ッ……ン、も、…おまえ、なに…っ……」
「………? ますたーが、言ったのでしょう? 口の中…、気持ちいいとこ、使えって」
「それは、…っ、ァ…」

再び咥えられ、今更といったように気付く。確かにそうだ。擦られる上顎も、頬の内側の粘膜も、舌の奥も、全部クリスが指で反応したところ。ならば時折、触れたところがひくひくと痙攣していたのもクリスが感じていたということか。じゅぷ、ぐぷと浅く、深く咥えられながらも、今にも飛びそうになる理性を必死に手繰り寄せ、クリスの頭を押しやろうとする。不味い、本当に不味い。ハッ…ハッ…と上がる息を手で塞ぎ、どうにか堪えようにも、もはや手遅れといったようで。うっとりとした顔をしながらも懸命に奉仕するクリスの姿に、ぶるりと腰が震えた。あぁダメだ、これは。

「…っぅ、リス、…も、…ィく、から、……ッ」
「ン…、らして、…いい、れふよ…っ…」
「ッ、…い…、わけ……なっ…だろ、ぅ…ッ」

むしろこうなったら、それだけでも回避しようと必死なのに。腹に力を込め、気を逸らそうとするもクリスは口を離すどころか、今よりも深い喉奥へと呑み込み、先を促そうとする。

「…ッ、…ン、ぅッ……ま、て…それ、ァ…ッ」
「ん、ッ…ぅ゛……ンぅ…ッ」 

喉を犯す慣れない圧迫が苦しいのか。それともそれさえ感じているのか。呑み込まれた亀頭がひくひくと震える粘膜に挟み込まれる。熱くてとろとろに蕩けた粘膜がきゅう、と先を締め付け、それだけでイきそうだった。理性が揺らぐ。腹の底が熱くて重い。男の本能でこのままクリスの頭を固定し、喉奥に容赦なく雄を突き立てたい欲を無理やり捩じ伏せるだけで手一杯だった。えずく程苦しいだろうに、それを気にかけてやる余裕も無い。

「ハ、ッ…なせ…、クリ…、…も、…っ」

目がチカチカする。追い討ちをかけるようじゅぷ、ぬぷ、と頭が上下して喉奥に当たる度、ひくひくと痙攣するのが堪らない。舌が這い、ぢゅるりと吸い付かれれば、限界はすぐ目の前だった。

「…ッ、くッ……ぅ…ッ…!」
「っ、…ん……ぁ…、っ…………?」

今にもはち切れそうな理性で最後の最後にクリスの頭を押しやる。ずるりと抜き出されたそれ。それが粘膜に擦られ、数瞬の間を置いて、堪えきれず白濁を放ったのはもはや必然だった。

「…ハッ…ハッ…っ、……ン、」

痺れるような快楽。束の間の忘我。獣のように最後まで絞り出すよう無意識に擦り付けたのは精にまみれたクリスの頬であり──パチンと弾けたように意識がクリアになった瞬間、目の前で呆然とするクリスに冷や汗が滴った。

「…っ、わ、悪い、クリス……」
「………ますたー……これは、あまりにもひどいのでは…?」
「分かってる! 本っっ当に悪かった……って待て待て待て…! お前何しようとしてんの!?」
「……なにって、口にし損ねた精気をいただこうかと」

顰めた眉とは対照的に口を開け、しなだれたそれへと手を伸ばし、口付けようとするクリスの顎を慌てて掬い、止めに入る。ここまでやっといて、まだ足りないなんて本当にもう勘弁してくれ。屈み込んだままのクリスの腰を抱き寄せ、膝に乗せると明らかに機嫌の悪いしかめ面へと変わり、レイフロは宥めるように濡れた頬へと舌を伸ばした。

「……慣れないなりに努力はしたんです…貴方にとっては下手だったかもしれないですけど」
「下手ならイかねぇだろ……」
「…でも、くれなかったじゃないですか」
「………わざわざ飲まなくたっていいだろ、こんなモン、美味いわけでもあるまいし」

実際問題、精気も糧となるとあってか口に出来ないほど不味いものでもないが、進んで口にしたいものでもないのだ。従属にとって真祖の精はまた別なのかもしれないが、少なくとも血ほど美味いものでもない。所詮、自分達はヴァンパイアであってインキュバスではないのだから。そうは言っても納得しないのがクリスなのだが。

「……でも他の人間には与えるのでしょう? 上手く出来なかったらこうして世話をしてやって…」
「………あのなァ、クリス。相手はエサだぞ? お前相手ならともかく他のヤツにわざわざこんな事ヤるわけな、い…って……………えーっと、あの、………クリスさん?」
「……………………マスターは酷いです」
「あー……ウン……その通りデス………その、…本当に俺が悪かったって」

機嫌を直してくれよ、と目元を擦ればそれだけでクリスの肩がひくりと跳ね上がって。次いで、ますますクリスの目が険しくなり、どんどん口角が下がっていく。それもそうだ。今更のように気付いた、レイフロの腿に触れるクリスのソレは今や反応しきっていて熱く、硬く。その状態で様々な事を不発に終わらせられれば機嫌だって悪くもなるだろう。そもそもの話だ。

「血を飲む前に、こんなことするから…」
「……代わりに精気をいただく予定だったんです」

口淫だなんだと言い出す直前、何をしていたかと言えば腹を減らしたクリスに血を与えるところであり。あの爆弾発言が無ければ今頃、腹をくちくして、ついでに欲まで満たせていたはずだったのだ。そう思えば、あれだけやっても欲を満たすどころか精のひとつも口に出来ていない現状はあまりにも酷な話だった。なんだか申し訳なさを通り越して可哀想な気さえしてくる。……元はと言えばクリスが全ての発端なのだが。

「あー…うん、まぁ、そうだな……とりあえずクリス、最初からやり直さないか…? さすがに腹、減ったろ。出血大サービスだ。どこからでもいいぞ、好きなだけ飲めよ」

ちゃんと牙を伸ばさずイイ子にしてたご褒美だ。そう囁いて、おいでと背中を押せばクリスは少し間思案した後、何かを思い付いたかのようにぺろりとレイフロの唇を舐め、しっとりと口付けて。舌を忍び込ませ、レイフロのそれへと絡み付いてきたかと思えば、流れるように誘い出してくる。

「…ん? ン、……んン゛ッッ!?」

そうして首を傾げつつも誘われるがまま舌を差し出せばガリッ、と思い切り、盛大に牙を穿たれ、噛み付かれ。たちまち、どろりと血が溢れ出すとクリスは美味そうにそれを舐め上げた。

「…これは顔を汚されたお詫びとして頂きます」

ご褒美の方は後程、別に頂きますのでどうぞお構い無く、と。そう言っては舌を擦り寄せ、傷口を割り開き、血を舐め啜って。痛みに混じる快楽と高揚に半ば没頭していると、ゆるりとクリスがきわどい下腹を撫で、くすぐった。

「ッ、お、まっ……んぅッ……どこで…そんな、エッチなやり方…っ、覚えてきたんだよっ」
「さぁ、っ……貴方以外の、誰かから、ですかね」

確かめてみますか? と挑発するように囁いて。筋肉を擦り、臍の下へと戻ってくるとくっ、と意味ありげにそこを押し撫でる。

「まぁ、…その余裕が、あれば、の話ですけど」

鬱憤混じりに焚き付ける声とは裏腹に、いつの間やら酔いも醒めたようなクリスの表情はどこか焦燥を隠せない雄の顔をしていて。あぁこれは明日の昼まで寝かせてもらえないやつだな、と思いつつもレイフロは年長者らしく、にやりとわらってみせた。

「……いいだろう、クリス。もう手加減はしてやらないからな」

そう口にして、腿に当たる硬く熱したそれを擦り上げ、煽ってやれば、クリスの瞳にじわりと熱が灯り。それを合図にどちらからともなく顔をすり寄せ、静かに瞳を伏せると、深く深く唇を重ね合わせるのだった。