○○しないと出られない部屋-2

「…ぁ……っ、は……ッ」

気持ちが悦い。痒いところを、疼いて疼いて仕方がなかったところを擦られる快感。足りなかったところを太いモノで埋められ、拓かれる悦楽。痛みよりも遥かに響く気持ち悦さに、クリスは堪らずシーツへと頭を擦りつける。もっと欲しい。もっと動いて擦ってほしい。埋められても、それから微動だにしない『それ』がもどかしくて、ねだるように腰をくねらせる。もっと欲しいのに。もっと揺さぶって、掻き混ぜてほしいのに。どうして与えてくれないのかと泣きたくなる。暴れようにも大きなものがそっと腹を押さえていてそれ以上身動きが取れず、代わりのように与えられる膝への柔らかな感触がただただ焦れったさを生んでいく。足りない。そのくらいでは。もっともっと強い快楽がほしいのに。埋められたナカがひくひくとひくついて、早く欲しいと『それ』に絡みつく。とろりと愛液が溢れた。その上の硬くなった尖りが痛いくらいに脈打っていて、優しく擦られたらどんなに気持ち悦いかと夢想する。もっと触ってほしい、もっと擦って、もっと与えて、もっと、もっと、もっと、もっと――どこへ、何を……?

「っ、……? ど、…して……そ、こ……ッ……」

パチン、と泡が弾けたように。ふと、正気が戻ってくる。どうしてそこに……? どうして後ろではなく……? どうして女性器そこ男性器それが埋まっている……? どうして、自分はセックスをして――

「……どうしてだァ?」

いい度胸だな、と言わんばかりに目の前の男――レイフロが膝に口付けていた顔を上げ、胡乱気に目を細める。

「お前、…まぁた一つ一つ懇切丁寧に説明してほしいのか?」
「…ぇ、……? ァ…、………ッ」
「お前が欲しい欲しいって泣いてねだったんだろうが」

そう言いながらも、もう片方の手が添えていた腹の上をすり、と押し撫で、太腿の方へと伸びる。付け根のきわどいところまで。辿って、ふっくらと盛り上がる、みっちりと埋まった割れ目すれすれの肉をなぞる。

「っ、…ァ……ま、っ……、ッ」
「ヒトがせっかく丁寧にならしてやろうとしてんのに、コッチは気に入らなかったんだろう?」

上ってきた指が陰核の真横の肌を擦る。じんじんと痛いくらい待ち侘びるその横を。焦らすように。もったいぶるように。一番欲しいところだけを避け、丹念に、くるくると優しく愛撫される。

「…そ、れ……ッ…、…ぁ、……ァ……ッ」
「こうしてたっぷり触ってやったのに――」

その言葉にパチパチと記憶の泡が浮かび上がっては弾ける。知っている。覚えている。この感覚。……そうだ。こうしてずっと焦らされ我慢させられて。愛液でそこをたっぷり濡らせと命じられて――腹の底がどんなにぞくぞくしても、ナカの疼きが酷くなってもずっとずっと触れてもらえなくて――

「っ、…、…ン…、…ァ……ッ」
「少しは思い出したか?」

その声に素直に頷くことも出来ず、ぎゅっと目を瞑る。そうだ。そうだった。白い肌に映える生々しい、いやらしい色をした割れ目。それを覆い隠すようにふっくらと盛り上がる肉。その頂きには小ぶりながらも鋭敏な陰核が覗いていて、これは皮をかぶった状態なのだと教えられて。どう触れればどう反応するのか。どうやったら挿入出来るのか。目を逸らすことも赦されず一つ一つじっくりと教え込まれて――そうして一通り教えられた後、次は何をされるのかと怯えたように、期待するかのようにそこをひくつかせて待っていたら、言われたのだ。大人しく感じておけよ、と。

「ちゃぁんと舐めて拡げてやったのに」

じっくり、たっぷり、ねっとりと。一つ、また一つと記憶が蘇り、ひくりと身体が震える。
肝心の部分には触れられぬまま、ただひたすら周囲だけを撫で擦り、焦らしに焦らされたかと思えばまるで美味そうだとでも言うようにレイフロは口を開けて。あと何度堪えればいいのか分からないと、逃げを打とうとした腿をがっちりと開いて固定したかと思えば、その二つに裂けた赤い舌を伸ばしてきたのだ。焦らされ過ぎて充血し、酷く過敏となった陰核へと。……クリスにとってはほんの少し前まで未知なる器官であったそこへと。舌を這わせ、根本から掘り起こし、ゆっくりと捏ねるように舐めしゃぶったのだ。

「っ、…ァ、ぁ……、ン…ッ」

甘い記憶が脳内で反芻し、腹がきゅんと響く。ぴくりと震えた爪先が宙を搔き、数瞬遅れてみっちりと埋まった隙間からとろりと蜜が滴り落ちた。
……あの時も舐められただけでイったのだ。
待ちに待った快楽というのは、それだけで理性を溶かすには十分な代物であり。男のものとは違うそれ。上り詰めたというのに一向に鎮まる気配がなく、しかも絶妙に陰核への刺激と周囲への焦らしを繰り返されることによってが興奮がどんどん溜まっていくのだ。触れられても足りず、触れられずとも足りず。イって、焦らされ、またイって。そうやってだんだんと短くなっていく間隔にレイフロは嗤いを溢しながらも、今度は内腿へとキスを落とし、また割れ目に程近い、際どい肉を舐め上げて。舌で押し撫で、なぞり上げ。触れてもらえると信じきっている陰核を絶妙に外し、すれすれの柔らかな皮膚へと甘く甘く歯を立てて。堪らずクリスが腰をくねらせようとすれば、今度はそれを押さえ付け、わざと弱い陰核だけに刺激を与え、嬲りに嬲って。そうして果てに果てて、初めの頃より赤く目立つようになったそれが触れてくれと言わんばかりにまたぷくりと膨らみ、尖っていけば吐息が掠め、焦らしに焦らして核心のすぐ傍ばかりを愛撫したりするのだ。
――頭が可笑しくなる。
股の合間はすっかり濡れそぼってしまい、さすがのクリスも駄々をこねる子どもように泣き言を口にした。もう挿れていいから、次に進んでくれと。それでも。

『そういう問題じゃないって、さっきも教えただろう?』

呆れ混じりの苦笑を溢しながら、くぱぁと肉を割り拓かれ、見せられる。艶かしい割れ目の中。ひくりと小さな穴が震え、糸を引いて濡れた肉がいやらしく収縮するそれに。

『お前のココは小さすぎるんだ。セックス出来ない程じゃないだろうが、広げないと入るモンも入らないだろ』

そんで、と流れるように充血しきった陰核に舌を押し付け、ゆっくりと抉るように舐め回される。ざらざらとした舌の表面でたっぷりと舐め上げ、スプリットタンの間に挟み込み。細かく動かしては、揺らして、咥えられて。そのどれが良かったのか。全てが良かったのか。クリスはあっという間に果ててしまった。

「……ッ……ン、ぅ……、~~~~ッ…」
『そうやっていっぱい感じて濡らしておけよ。ローションなんてモン、ココには無いんだからな』

あの時も、そうレイフロは口にして――そして……。

「……ッ、………ァ、…っ……?」

今、自分はどちらに感じた? どちらで達した……? 記憶なのか、現実なのか。もう何も分からず、ひとり悶え、シーツへと強く身体を擦りつける。そんなクリスをレイフロはじっと見つめるだけだった。今クリスが何を考え、なぜ息を上げているのか手に取るように分かっているかのように。はたまた単に面白がっているだけかもしれないが。ただただ現実のレイフロは静かに、記憶の饒舌さとは真反対に、クリスの様子を眺め、意図したようにゆったりと腹を擦っているだけだった。丹念に。意味深に。……その動きだけで記憶を引きずり出そうとするように。
……パチンとまた一つ記憶の泡が弾ける。

『チェリー、お前男娼の育て方を知っているか?』
「ぁ…ァ、……ア、…っ……」

――あぁ、そうだ。同じだ。焦らされ過ぎて逃げ出そうとした時と同じ。いつ終わるかも分からない、ナカの疼きに堪えられなくて暴れようとしたあの時と同じ、動きだ。

『腹ン中に綿や羊の毛を入れておくんだ。……そうすると始めは違和感しかないそこが、時間が経つごとにチクチクとじわじわと痒くて痒くて堪らなくなる。まるで今のお前みたいに』

誤魔化し、忘れかけていた欲が腹のナカでひくつく。じっとしていられないほど、腹の奥がじくじくと疼き始め、爪先がきゅうと丸くなる。

『そして最後はそこに挿れてほしくて堪らなくなる。痒いところをナニか固いモノでゴリゴリ擦ってほしい、とな。あぁもちろん、その瞬間はとんでもなく気持ちが悦いらしいぞ』
「……っ、……、ッ」
『クク……想像したのか? エッチだなァ、チェリーは。もうこんなに濡らして』

割れ目からとろりと糸を引いて溢れる愛液。それを指で掬って、クツリと嗤うレイフロの顔。腹の疼きが更に酷くなる。あの時の記憶だけでなく、欲も、痒みも、腰の動きさえ止まらなくなる。

『……でももう少し濡らそうな。このシーツがびしょびしょになるくらいには』

なのに。レイフロはそう言って、愛液を纏った指でぬるぬると陰核を擦り上げるだけだ。終わりなど見えず、けれどたったそれだけで、クリスの爪先がシーツを掻く。てらてらと濡れ続ける割れ目に見向きもせずただただ陰核ばかりを執拗に弄り回され、玩ばれる。
――いっそ痛みだけを与えられればどれほど良かったか。
こんな小さな突起に触れて、撫でられるだけで、身体を震わせ果てる。そうなったら今度はインターバル代わりに敏感になった割れ目の周辺を優しく宥めるように押し撫でられ、神経を高ぶらせて、また果てさせられて。小さな穴を濡らし、熟れさせるためだけに何度も何度もイかされる。神経の集合体を、手を替え品を替え、ずっとずっといたぶられる。

「…も…っ、………む、り…です……ッ」

ひくりと喉が震えた。これが妄想でも現実でも回想でも構わない。焦らされるのはもういやだ。限界だ。頑是ない子どものようにいやいやと手当たり次第にシーツを掻き寄せる。もう我慢できない。堪えられない。こんなことが続くのならセックスなんてしなくていい。もうやめたい。支離滅裂な思考と言動にレイフロが呆れたように眉を寄せた。

「……お前、思い出したからそう言ってるのか? それとも普通に限界越えただけ?」

低く唸るような声とは裏腹に、ぐずるクリスを宥めるよう頬に触れる手は優しく訳が分からなくなる。けれど知らない、とその手さえも拒もうとすれば手首ごと掴まえられベッドへと縫い止められた。その力強さに息が止まる。何だろう――なにか、なぜか……こわい。

「…一応、これでも気は遣ってんだぞ……お前が全部ぶち壊してるけどな」

なにを、と言う前にずり、とナカに埋められていたモノが半分ほど引き抜かれる。その感覚に肌がぞわりと粟立った。

「…っ……? ァ…、……ま、す……?」
「お前、気付いてるか? …さっきもおんなじ『お願い』をして結局泣くはめになってんの」

――俺のモン煽った時と同じで。

「ぁ、…っ………」

パチンとまた一つ記憶が蘇る。
もう終わりのない焦らしに堪えられなくて、挿れてくれとレイフロのものを……ずっと慣らし続けていたせいで、触れられもせず、興奮して血管が浮き立つまでガチカチに勃ち上がっていたそれを、いやらしげに誘うように足先でなぞったことを。その固さや熱さ、大きさ。そのせいで結局、今泣かされている事実を。そして――あの時と同じ赤い赤い目をしていることを……。クリスの息がひゅっと詰まる。

「ゃ…っ、…まっ…て、………ま…ッ」
「待たない」

ズン、と。引き抜かれた分だけ押し込まれて。ぐっ、と弓なりに背が反る。欲しかったもの。ずっと待ち望んでいたもの。気持ち悦いもの……のはずなのに。

「ァ…ア、…ッ、こ、れ……ゃ、…や、で…ッ」
「……何百年も昔の房中術を記憶の片隅から引っ張り出してみたもんだが…まァ、悪くないモンだな」

少なくともお前が泣くだけのことはある。強すぎる快楽に、逃げ出そうとするクリスの腰をがしりと掴み、また埋まったものが少しだけ引き抜かれる。――抜いて、挿れて。また引きずり出されて、また奥へ。緩慢な動きながらもグズグズに融け合うほど密着し、隙間なくなじんでいたそれに、襞を余すことなく擦り上げられるのは気持ち悦いと言うにはあまりにも強すぎるものだった。こんなもの、知らない。腹が、とける。頭が……おかしくなる。

「ァ…、……ッ、ア……っ、~~~~っ」

痒くて痒くて堪らないところをずりずりと擦り上げられる。それだけでも言い様のない快感だというのに。それに加えて、吸いつく襞を無視してずるずると引き抜かれ、抜かれてきゅう、とナカが収縮したところをまた掻き分け、拡げられるよう挿れられるのも全部全部、とけるほど気持ちが悦いなんて。……女のココがこんなにも気持ち悦いなんて、そんなの知らない。

「…ァ、っ……ひっ…そこっ…ゃ、…めぇ……ッ」

その中でも時折ぐりぐりと押し付けられる場所。腹側にあるその部分を。太く、硬いもので押し付けられると、びりびりと電流が走り、背中がゾクゾクする。熱いそれが通っていく度、腹が甘くうねり、身も世もなく泣き叫びたくなる。気持ちが悦い。もっと擦られたい。でも、そこは、いやだ。いやだ。いや。

「んー……今度はイけるか?」

舌なめずりするレイフロに「?」が飛ぶ。今度はってなんのはなしだ……まるで前にもあったような……

『あぁ……ほら、分かるな? ココ。ざらざらしてるところ。ココがお前のイイところだ』

だからしっかり覚えろと。そう言って指の腹で何度も何度も――

「ァ…ッ、…ゃ、や……ッ、…っ」

思い出した記憶に、反射的に逃げを打つ。今更、逃げられるわけでもないのに必死に身を捩る。そうだ……何度も何度も。ナカを拓くためにたっぷりと弄られ、その度にイけず。最後の一押しを与えられないまま、ずっとずっと寸前の快楽を与えられたこわいところだ。

『せめて三本は挿らないとな』

そう言った初めの頃はまだよかったのだ。割れ目を開けば糸を引いてぬるぬるに濡れそぼりながらも、せまくぴたりと閉じたただの小さい穴で。そこへゆっくりと指を差し挿れられ、疼きを宥めるよう擦り上げ、拡げられ、抜き差しされれば、それだけで――うっとりとするような、腹がぞくぞくするような気持ち悦さだった。一本、二本と増えた指にほぐされ、拡げられる度、愛液がじゅわりと腹の奥から溢れ、徐々にぬぷぬぷとも、じゅぷじゅぷとも言えぬいやらしい水音が響くようになって。ぬるま湯に浸るような快感を補うよう陰核を口に含まれ、柔らかな粘膜で愛撫されれば何度だってイけた。そこで果てることを嫌と言うほど教え込まれたからだ。だがそれまでとは明らかに違うのは、舐られ、吸われ、ナカを揺さぶられると鼻にかかった甘ったるい声が漏れ出す、そんな柔らかな快感だったということだ。欲しいところに欲しいものを、欲しいだけ与えられる。まさにぬるま湯のような快感。……だからこそ気付かなかったのだ。自分のナカに、あんなにも敏感な部分があることを。拡げながらそこを丹念に探られていたことなんて。

「…ゃ、…っ……ン、ッ…~~~ッ」

――いつからだろう。揺さぶられるところが一点に集中し始めたのは。鼻にかかる甘ったるい声がさかりのついた猫のように甲高いものへと変わったのは。口淫されずとも指でそこを圧されるだけでぶるぶると快感に身を震わせるようになったのは。なのに、いつまで経っても身悶えるだけで達せなくなったのは。

「あぁ……腰、浮かせた方が気持ち悦いトコ、当たるんだな」

掴まれた腰が持ち上げられ、浮く。ぐぅっとナカのそこに圧がかかり、がくがくと腰が震えた。ダメだ、これは。ダメだ……っ。容赦なく当てられる、加減の利かない気持ち悦さに頭をぐりぐりと擦り付ける。身体がじっとしていられない。当てられるだけで息が上がる。ずっと弱いところに微弱の電流を流されているようで、熱くて、重くて、どろどろに溶けてしまいそうになる。

「場所は…覚えてるな? まったく……もうちょっと我慢して指で覚えてたら楽だってのに…ヒトを煽って唆すから、こうなる」
「ま…っ、…そ、こっ……ゃ……、ァ…ッ」
「だろうなァ……こんな狭いトコ、指より太いモンで犯されるんだ。…女の性感帯いくつあると思ってる」

もう、息だけしてろ。そう言って、レイフロの腰が動き出す。

「ァ…ッ、っ…ン…~~~~ッ」

――擦られる。叩かれる。太いもので。硬いもので。ゴリゴリと柔らかく弱いそこを、遠慮もなしに容赦なく嬲られる。ずっと、ずっと。重くて、熱くて、気持ち悦いのが止まらず、ビリビリする。弱いと思っていたところがそこだけではなく、その裏側も、その奥も全部が全部気持ちが悦い。ゾクゾクする。腹側とその裏側を太いところで引っ掛けられ押し潰され、奥へと通りすぎる頃にはぞりぞりと長く擦り上げられて。抜かれる時はその逆で。いたずらに浅いところを突かれ、前後に擦るよう揺さぶられるともう止まらなくなる。

「ひっ……! もっ、…む、り……ぇ、す…ぅ…っ…むり…っ、…む、りぃ……ッ」

込み上げてくる。腹の奥底から。言葉にできないほどの何かが。
……なのにイけない。あと一歩が足りない。
だから。もうそこを擦らないで。叩かないで。引っ掛けないで。押し潰さないで。弱いところを虐めないで――。そう、子どもみたいに泣き叫ぶのに、それでも擦るのを、揺さぶるのを止めてもらえない。それどころかその弱いところが分かりやすく膨らんでいるのか、ピンポイントでたっぷりと執拗にいたぶられる。もう、まともに声さえも出ないのに。だらだらと溢れる愛液ごとグリグリと弱いところを押し潰され、擦り上げられる。クリスがイくまで。折れるまで。厭きることなく。――永遠に。ずっと、ずっと。

「……ァ、……っ、」
「…やっと受け入れたな」

そうだ、かんたんなことだ。とろりと、背中を押すように思考が溶け落ちる。クリスがイくまで終わらないのなら…それならかんたんだ……。うけいれればいい……。あらがわなければいい……。無意識に立てていたストッパーが崩れ落ち、余計な力が抜けていく。うけいれる。ただ、それだけのこと。与えられるものに身を委ね、受け止めるだけ。そうすればゴリゴリ擦られるのも、グリグリ押し潰されるのも、ずっとずっときもちがいい――。
そうやって一度受け入れればあまりにも呆気なく訪れるものに、ひくりと身体が身震いする。抗えない何か。それが足先から頭のてっぺんへとぞわぞわと這い上がり――気持ち悦い、では到底生ぬるい、強烈な何かとなってよじ登っていく。

「ァ…な、…か…っ、キ、て……、ッ…、っ」

とまらない。掻き混ぜられる腹の底から。当てられている弱いところから、痙攣がとまらなくなる。

「…イイ子だ、チェリー。そのまま、イけ」

その声に、命じられるままに、ぶるぶると身体が震える。自重の限界を超え、頭がまっしろになる。

「…ァ、……ッ……~~~~!!」

――高みから落とされる悦楽。声にならない快感。
ようやく与えられた絶頂にかひゅっ、と息が詰まる。どこまでも甘く苦しく、痺れて重く。霞んだ意識のまま、ぽたりとよだれが垂れる。男の射精どころか、陰核を弄られ果てた時でさえ全然違う感覚……。落ちたのに全く終わらない、ずっと腹のナカがぐずぐずに疼いて痙攣して、全身に広がる気持ち悦さ。

「……覚えたな」

不穏な声と共に軋むベッドの音に、犬のようにハッ…ハッ…と上がった息のままぼんやりと上を向く。黒い影。ふたつの赤い光。そういえば、とふとおもう。どうしてナカのものはまだぬかれてないのかと。どうしてかたいまま、おおきいままなかにのこっているのか、……と。

「――逃げるな」
「っ……ひ、………ッ」
「……悪いが俺も限界だ…、酷くされたくなかったら大人しくしてろ…」

地に這うような低い声と獣のように荒い呼吸。それに思わず腰が引けるクリスの手首をレイフロは加減もなく掴み取る。ミシリ、と音がするほど強く。そしてそのまま、訳も分からず痛みに眉を寄せるクリスに構うことなく己の腰を打ち付けた。

「…ァ、……ア゛……っ、~~~~!!」

ズン、と一息に。根元まで咥え込まされた衝撃に、クリスの背が撓る。

「ハ、ッ……ナカ、下りてきてんのかよ、」

どこか喜色を帯びた声が聞こえたかと思えば、何かを確認するよう腰を揺すられて。覚えたばかりのところをゴリゴリと擦られながら奥を突かれると落ちたばかりの感覚がすぐに快感となって上り詰める。

「ま…っ、…たっ、…イっ…ぅ、……、イ…ッ…~~~~ッ!」

叩き込まれた快楽が寄せては返す波のように。軽いもの、重いものが交互に何度も何度も訪れる。もうむりなのに。頭がぼーっとするのに。上ってくるそれに、爪先がピンと伸び、強張って、痙攣して、だらりと弛緩して。そして大して間を置かず、またピンと伸びて、強張って、痙攣して。クリスの事情など一切顧みない、乱暴ではないものの遠慮も容赦も一切ないピストンに、頭も身体もバカになっていく。快感も、追いつかない呼吸の苦しさも、全てが全部気持ちが悦い。

「…っ、…ナカ、絡みついて気持ち悦いなァ、チェリー?」

もはやクリスのナカでレイフロのモノをしごいているのか、レイフロのモノでクリスのナカをしごいているのか、そんなことさえよく分からなくなる。ただただ気持ちが悦い。きもちよくて…きもちよすぎて……あたまが…とける…………。

「ハ…ッ、……出すぞ……っ」

ラストスパートとでも言うように。ぬちゅぬちゅと音を立て、レイフロのモノがぐりぐりと奥をグラインドする。その気持ち悦さにまた上らされ、視界がチカチカと点滅した。腹の底がゾクゾクする。爪先がピンと伸びきり、背筋がきつく反る。またクる。また、おちる。また…っ………、

「っ、……クッ、…ッ!!」
「……ッ、……、ァ゛……ッ、~~~~ッ!!」

――音が消える。息が止まる。腹の奥でビクビク震えたかと思うとあつい何かをかけられ、それをトリガーに溜まりに溜まった快楽が弾ける。頭が真っ白になる。身体がガクガクと震える。それと同時に神経が焼けるように熱く、そのあまりの熱と快楽に身を捩った。あついあつい――はらがあつい…じんじんする……おかしくなる…っ………

「ハッ…ハッ………んっ、……、ッ…………? チェリーっ……おまえ、」

奥へと押し付けるように動いていたモノがずるりと抜け、少し冷静になったのかレイフロが手首を離し、ゆっくりと下腹を擦る。あつくてじくじくして仕方がないそこへ。なにか、じっくりと丁寧に確認するように。

「……やっぱり契約してたな」

触れる指がいやらしげに這い回る。腹の奥の、イってすぐのぞわぞわした感覚を再度引き出すかのように。『そこ』がクリスの感じるところだと確信しているかのように。愛撫する指が止まらない。止めてもらえない。また…っ、また……ッ、イく……ッ。

「ぅ゛…ッ、~~~~!!」

身体中が痙攣する。頭の中が霞んで、上手くものがかんがえられなくなる。くるしい。きもちいい。くるしい。きもちいい……。こんなにもくるしくて、きもちよくて、あつくて、じんじんして、とまらなくて……だからなのか、あたまがとろとろにとけていく。もっとほしい。もっと。もっと。たりないのだ。もっと。もっと、もっと、たくさん、――ここに、ほしい。

「……そういうことか、」

あのクソッタレ悪魔め、と。さも忌々しげに呟くレイフロの声を横に、白く霞がかったクリスの意識が沈んでいく。とろとろと真っ白の世界へと。眠るように。落ちるように。なのに、どうしてか。……唇だけはゆるやかに弧を描いた。