ひとりがふたりになる話 肆

 側らにあった桜の木に背を預け、どちらともなく唇を貪った。角度を変え、唇を触れ合わせ、柔らかな口内をくすぐり舌を絡める。始めは舌先でつつきあって、徐々に大胆に表面をざらりと擦れ合わせれば、ほんのりと残る酒の香を交えて。
 くらりと眩暈を感じつつ、首に回した腕をより一層引き寄せ、深いものを、とねだると、敏感な上顎を、なめらかな粘膜をくすぐられ、飲み込めぬ唾液が口端を伝った。拭う暇もなく、奔放に蠢く舌に応えるだけでいっぱいのところを今度はそろりと耳朶に指を這わされて。首筋を辿り、合わせから忍び込む指は遠慮を知らず、好き放題にまさぐった。
 くすぐったい上に余裕を見せつけられているようで、何となく悔しいと思って、せめてもの意趣返しの如く夜の舌を甘噛みすれば、途端びくりと震える肩。まさか噛みつかれると思っていなかったのか、夜の驚いたような反応に少しだけ気を良くすると、抱きつく腕を緩めることなく噛みついたところをゆっくりと舌で撫でて、一度互いの唇を離した。僅かに不満げな色を宿す目は欲にまみれいて美しく、自然と閉じた瞼が合図とでも言うように再び熱く唇を重ねる。

「…はっ……ふぅ、…っ」

 今度は互いに唇へ噛みつくような口付け。唇を食んで、その隙間から舌を伸ばして、はふりと洩らす熱い吐息にじわりと熱が灯る。気持ち悦いとうっとりと快楽を享受していると、ふと夜の足が着物の裾を割って擦り付けた。先程の仕返しなのか、既に熱を持っていることを確認し、ぐりぐりと少し強めに扱けば柔らかなそれはしなやかに芯を持ち、あっという間に熱を育んで。口付けとはまた違う息の乱れ、爪の立て方に、夜は口付けを解いてふっ、と笑うと、濡れる唇と伝った唾液を舌で拭い去り、もぐりこんでいた手で合わせを滑らせ、するすると下へ下りていった。

 肩から着物が落ちれば現れるのは白くなめらかな子どもの肌で、そこに夜は唇で触れるとちろりと舌を伸ばして、舐めくすぐる。恥ずかしさと、舌の熱さに思わず体を捩らせればやんわりとだが押し留められ、次いでチリ、と火傷に似た感覚が襲った。それも一瞬のことですぐにべろりと癒すように舐められるがじんじんと熱が灯り、ずくりと腰が重くなる感覚。唇を離し満足そうに吐息を零せば、次のところへと唇を寄せて夜はまた同じことを繰り返した。うすい胸、小さなへそ、ぺたんこの腹に弱い脇腹。さらさらと掛かり、覆いかぶさる白銀の髪に指を差し入れ、夜を止めようとしても当然、抑えが効くはずもなく……幾つもの場所に触れてはじくりと幾つもの熱が宿らされる。

「…なに、っ…し……んぅ…ッ」
「痕。残しておきてぇだろ?」

 あっち(夢現)の世界じゃ付かねぇしな、と口にして夜はほら、と自ら散りばめた赤い痕を昼に見せる。白い肌のあちこちに浮かび上がるそれはまるで赤い花弁のようで。先程付けられた印もあることながら、まさかと思いつつ、ついつい問い詰めるような視線を投げでは普通のやつだ、安心しろ、とそう言ってはまた別のところへと口付けた。ぬるりと唾液を纏った舌が舐め上げて、一点に帯びる小さな熱。ひくりと怯え、収縮する腹を慰めるように舌先が赤い痕をなぞって、また唇を寄せればひとつふたつと増えていく。まるで自分のものだと示すようなその赤に。ずるい、ボクも付けたい、と熱に浮かされた声音でそう呟けば、夜はぱちくりと目を瞬いて、いいぜ、と笑って見せた。ほらよ、と小さな体へとすり寄って、抱き付かせると昼は目の前の綺麗に浮き出た鎖骨へと顔を寄せる。夜がやったように真似をして、柔らかな唇でそっと触れ、舌で撫ぜて……それからかぷりと噛みついて。は? と夜は首を傾げた。

「昼?」
「…う、……痕なんて、付かない、よ…?」
「なんだ、お前……付け方、知らねぇのかい?」

 答える代わりに頬を赤くしてうう、と唸る昼にくく、と夜は笑った。そんなこと言われたって、と昼は思う。そもそもあちらの世界で夜がこうして痕を残すのは滅多になく……おそらくこれより前にやったのは初めて体を合わせた時くらいだ、それくらいこの痕を目にする機会はない。それが、付けてもどうせ目覚めれば体に残っていないのだから、虚しさばかりを覚えるだろうという夜の配慮だったとしても、知らないものは知らないのである。この行為という中での自分の知識は夜に与えられたものがほとんどなのだ。その夜がどこから知識を得てくるかはともかくとして、気が付いたら付いているものの付け方まで分かるはずがない。羞恥で涙目になってじっと睨みつけると、夜は笑って悪かったと素直に詫び、ほら、こうするんだ、と昼の腕を取って、その手のひらへと舌を這わせた。

「舐めるのはやってもやらなくても良い。好きにしな」

 まだまだ子どもの様を表すふっくらとした手、その手の相を辿って、熱を持ったそれがぴちゃりと音を立てて舐め上げる。ぞくりと背が震えた。舌という感触もひとつにあるが、それよりもいけないことをしているような、悪いことを教えられてるような、そんな心地が昼を戦かせる。綺麗な相手に生々しい教えを頂くのは、それだけで背徳的なものを感じてしまう。ぴくりと肩を震わせる昼にふ、と吐息を洩らしながら夜はそれから、と唇で触れ、手のひらへと口付けた。

「吸ってやりゃあ良い。こうやって、な」

 その言葉と共に夜が強く手のひらを吸い上げる。思わずぎゅっ、と目を瞑れば、すぐにぺろりと舌で触れられて、くすりとだが笑う声が聞こえたかと思うとこんくらいの強さでやってみな、と昼を胸へ囲い、その丸い後頭部へと手を添えた。陽の光を知らないような自分よりも白い肌。そこに赤い痕を思い描いて、こくりと小さく喉を上下する。ほら、と夜に促され、昼はその教え通りにおずおずと唇を押し付けた。ぺろりと舌で舐めてみて。それから恐る恐る唇を使って吸い付く。そうしてこれくらいかと離してみれば明らかに夜が残すものより薄い痕しか残っておらずして……それでも愛しいと舌でなぞれば悪戯好きの子犬みたいだな、となんとも失礼な言葉が飛んできた。初めてなのにいじわる、と頬を膨らませると可愛いっていう意味だ、と笑って誤魔化され、しかし不意に思い出したように、付けられたばかりの痕を指でなぞりながら出される夜の言葉に昼はぴたりと動きを止めた。

「――そういや、昼。これ、オレが戻った時も残るのか?」
「……あ、」

 風呂場で確認した、同じ場所に同じ数だけ残った自分たちの傷跡――それはつまり、今はバラバラに付けられた痕も、元の一つの体に戻れば同じ場所に浮かび上がる可能性が高いというわけで。まぁ、オレは別に構わねぇけどな、とそう言って、再び痕を付けようとする夜に昼は慌てた。自分はただでさえ、見えやすいところに付けたと言うのに……! ボクは構うから! だからこれ以上、痕付けちゃダメ! と主張すれば、途端、夜は不服そうに唇を尖らせるも、それじゃあ…とすぐに口端を上げて、腹を滑っていた指を緩やかに下り、着物を締める帯へと引っ掛けた。既に大分弛んでいたとは言え、思わずなに、するの、と投げかけた視線に、何って……決まってんだろ? と悪い笑みで返されて。帯を辿って結び目へと伸ばすと、長い指はそれはそれは器用にしゅるりと帯を解いてしまって、ついでに邪魔なものは、と全て綺麗に剥ぎ取ってしまった。あられもない格好。頬だけでなく全身までもほのかに色染めて無意識のまま、すりと寄せる内腿を目敏く見つけた夜は、閉じられぬよう自らの足を差し入れつつも可愛い、と唇へ口付けては、その幼い性へと手を伸ばした。

「…っ、…ふッ…、…ぁ、……」

 既に熱を持ち、ぷくりと先からは蜜を生んでいるその先を。雫ごと手のひらで優しく包んで擦りながら、指腹がぬめる先をくるりと撫ぜる。ぴくりと跳ねる体、しかし今は気付かない振りをして夜はひどく敏感な先の方をいじることに専念する。指腹で触れるか触れないかの近さでつ、となぞったと思えば、ぐりぐりと痛いくらいに強く扱いて、手を丸めて出来た皺でやんわりと揉みしだく一方で、爪で甘く引っ掻いてみたりして。くっ、と反れる背と比例するように小さな孔からは蜜がとろとろと溢れだす。くちくちと水音を響かせて指先と糸が紡がれると、それさえも滴りとろりと伝い落ちて。次第にぬるぬると手のひらが蜜でなめらかに滑るようになってくれば、つられるように指もゆっくりと下っていって、指同士で挟まれた柔らかいくびれのところ、そこできわどい境目と割れ目を刺激されれば痺れるような感覚が昼を襲った。ともすれば腰から下の力が抜けそうで、ひしと夜にしがみつくと滾る熱が大腿に触れて……あぁ、夜も我慢しているのだと思うと、堪らなくなって熱い吐息を吐きだし、夜のものへと指を這わせる。

「…っ…おい、昼、」
「…夜も…いっしょ…ね……?」

 夜が何かを言う前にするりともぐりこんだその先をそっと手のひらで覆う。疾うに硬さを有したそれを拙いながらもあやすと、ぐんと手の内で育つ感触がして、嬉しさに濡れそぼつ指を絡めるときゅっと夜の眉が耐えるように寄った。可愛いなぁ、と、そんな表情も好きだな、とぼんやりと思いつつ、似たように気持ち良いであろう場所を上下に滑らせれば夜がはふりと息を吐いて。感じてくれているのだと昼が小さくはにかんだのも束の間、ぐいと顔を近付けた夜はくちゅりと音を立てて耳朶に吸い付き、鋭い歯を立て噛みつくと自業自得だかんな、と小さく呟いた。なにが、と昼が意味を問う暇などなく。急に激しく擦られ始めた高ぶりに、昼の体はびくんと撓る。それはじわじわと追い詰めるものではなくて性急とも言える動きで。ぐちゅぐちゅと緩急交えて握っては、下から搾り取るように擦り上げて、とろとろと蜜を生み出す孔を広げるかの如く指腹で抉っては、爪の先で何度もつつく。擦る度にじゅ、じゅ、と濡れたいやらしい音が耳を犯し、いやいやと首を振っても夜の指は止まることなどなく、零れる蜜もとどまることを知らなかった。

「…まっ…ひゃ、あ……、ぁ……っ…」

 敏感な先をしつこくなぶられる。指の柔らかいところ、骨ばったところ、様々な感触が色んな箇所を同時に擦り、頭が追い付いていかない。否応なしに昇り詰める感覚にひくひくと下腹がひくついた。夜の舌が首筋を這う。同時にチリ、と熱を感じるが、それに気を回す余裕など無かった。

「…ほら、昼……手ぇ、止まってるぜ?」
「…っ、そ…、…な、ことっ…言、……あ、あ、ぁ…っ…」

 もはや夜のものへと添わす指を動かすことは出来ず、与えられる快楽を受け入れるだけで、精一杯だった。先やくびれを丹念に擦られ、きつく小さくした指の輪で上へ下へと往復されながら袋を手の内で転がされ。まるで溶けてしまいそうな感覚にぎゅう、と強く目を閉じた。それに夜はイっちまえ、と甘く囁く。いやだ、と自分だけはイくのは絶対にいやだ、とふるふる頭を横に振るも、胸の尖りを口に含まれ、舐められ、吸い上げられて、カリ、と歯をかけらればもう我慢することなんて出来なかった。

「…っ、……あ、ん、んんん…ッッ…!」

 びくん、と白い首筋を仰け反らせ。一瞬だけ真っ白となる意識。吐きだされる熱。は、は、と落ち付かず喘ぐ呼吸のままに、すぅと瞼を上げれば、案の定、白濁でどろりと汚れ、手首を伝い、指の隙間からもぽたぽたと滴らせる夜の手があった。もったいねぇなと手首を垂れるそれに舌を伸ばし、残りのものにはゆるりと目を細め、暴れんなよ? とそう笑うと夜はもう片方の手で昼の足を持ち上げる。途端、均衡の取れなくなる体、慌てて昼が夜の肩を掴むと、そのままだ、と夜は濡れた指で蕾へと触れた。

 自分の出したものとは言え、ぬるりとした感覚に思わずぶるっと体を震わせると、お前はこっち触ってな、と熱を持ったままのそれを押し付けられた。痛いのが嫌ならこっちに集中してな、と擦り付けられ……触れ、とささめく声に、空いてる手でそっと夜のものを撫で上げた。
 自分のものとは比べ物にならないほど、大きなそれに。ゆるゆると指を掛けて意識を向ければ、卑しいもので愛撫を重ねていくうちに何もしなくとも、放ったばかりの自分のものがじわじわと熱を溜めていくのを感じてしまう。触れたいと。淫らにもそう思って、夜のものを包むその手に自分のものも宛がった。大人と子どもくらい違うそれを、小さな手のひらでくっつけて、ちゅ、と濡れた音を立てさせる。べとべとに濡れた手で互いを擦り、ぬるぬると触れ合わせると、とても気持ちがよくて、ジンと甘い痺れが走って、まるで夜のものを手に遊んでいるような思いに陥りそうになる。

 そうやって意識を余所に向けている間につ、と夜の指先が中へと入った。要らない力が抜けていたと言え、反射的に強張る体。それに濡れた指先は落ち付けとばかりにゆっくりと内側から撫で擦って、浅くなる息をひとつ吐かせるが、知っているようで知らないそれに慣れない体は昼の意図とは逆さまに意識すればするほど上手く出来ずに窄んでしまう。大丈夫だと口付けが落とされ、無意識のうちに高ぶりへと絡めた指先に集中するとようやく柔らかなったそこは収縮しながらも指を招き入れ、ならばと指も探るようにさらに奥へと進んでいった。僅かとは言え中を圧迫する息苦しさと、不意に訪れる刺激。二つの高ぶりを触れ合わせていた指先が思わぬところを引っ掻いてしまい生まれる悦楽。どちらのものか分からぬ蜜がとろりと指に纏わりついて、揉みしだく指の合間からはぬちぬちと糸が繋がり、ぬめりを帯びる。もう少しなのは、分かっていた。慣れぬだけでそう大きく場所が変わるわけなどないから。ただ焦らすように動く指がもどかしくて、早く早くと次を求めて、指先がぐちゅりと夜のものを握ればチッ、と舌打ちする音が聞こえて。

「…ッ、……煽ってんのかい、昼……?」
「…ぇ……ひ、っ……ああ、ぁ……ッ…」

 ある一点でくっ、と折り曲げられる指。背が反るのはもちろんのこと、持ち上げられた足先までもぴん、と伸びて。体中に電流が走ったような感覚、その後に生まれる甘い腰の疼き……意図せずとも夜の指をきつく締めあげ、そこはひくひくと収縮した。お前には物足りないか? と笑えば、二度、三度と押し付け、くるりと円を描き、小さくとも確かに感じる場所を刺激し続ける。

「…ふ、…ぅ、…く、んんッ……」

 高ぶりに添わせていた指から力が抜けて、ぶるりと腰が震えた。知らないようで知っているこの快楽は、求めていた悦びは途端、思考をふにゃりと熱で溶かしてしまう。緩まったところを一度、引き抜いて指を増やし、また中へ。素直に呑み込み、もっと、と貪欲に次を求めるそこを宥め、強弱を付けて触れられると、高ぶりは手を動かしてもいないにも関わらずぽたり、ぽたりとひとり透明な蜜を滴らせる。触れられる度にびり、と頭が、体が気持ち悦くて何も考えられなくなった。とうとう肩を掴んでいた手さえも力を失いずるり、と崩れ落ちそうになったところで、夜は昼の足を下ろしてやると、唐突に背にしていた幹に向かわせるようくるりと体を抱え直し、そこに腕を預けさせた。引っ掛かった着物のおかげで肌に傷が付くことはないが、それはどう見ても完全に背を向けた恰好で。震える足を支えるように力強い腕が腰に回されても、晒されたうなじに唇を落とされても昼はいやだと頭を振った。

「…っ、…や、だ……よる…や…ッ…」
「…昼、…辛ぇのは、嫌だろ…?」

 別に怖くねぇよ、とそう言って、夜は昼の体を押し留めると大腿に指を這わせ、そろりと丸い双丘を撫でる。羞恥を煽るようにゆっくりと触れ、次に辿るのはその狭間……濡れて解かれたそこを指腹でそっとなぞり、その指添わせるようひたりと熱いものを当てると、その切っ先はぐっと中を犯し始めた。濡れていたせいか思った以上に滑りは良く、埋まっていく熱に、はふはふと浅い息を繰り返す。圧迫感はあるものの痛みはなかった。元の鞘に収まるようにぴたりと吸い付いて、体を貫くひとつの熱で、そこから溶けてしまうのではないかと錯覚させるだけ。その熱が指では届かないところまで入りきってしまうと、夜は後ろから肩へ軽く歯を立て、痕を付けるよう唇を寄せた。
 チリ、と灼ける熱。その熱が痕として刻みつけられる度に中はきゅううと夜のものを食らうように噛みついて、有無を言わせず昼にその形を、大きさを思い描かせる。早く動いて、と昼は思った。まだ動かないで、とも。気持ち悦くなりたいのに、その気持ち悦さで我を忘れてしまうのがひどく怖いと。
 なのに、そんな矛盾した思いに気付いているのかいないのか、夜はふっ、と吐息だけで笑うと、動くぞ、と言い、腰を掬い上げた。

「…ひッ……ぁ、……やっ、…ぁあんんっ…」

 絡みつくのを抗うようギリギリまで腰を引いて、急に無くなり困惑するそこへと一気に穿つ。洩れたのは悲鳴とも嬌声とも付かぬ高い声。幸か不幸かこの体勢のせいでは内側の敏感なところが擦りやすいようで、奥まで犯していく熱はそれだけで足をガクガクと頼りなくさせるくらいに悦を与え、一瞬とは言え目の前を真っ白にさせた。むりだと思った。こんなのを続けたらおかしくなってしまうと。しかし、当然ながら夜が離してくれるはずもなく、熱は中から引いて再び奥へ押し入り柔らかな粘膜を灼いていく。

「…あ、ぁ……ふっ…ひ、ゃ…ッ…」

 喘ぐ声は止まらずに、せめてもと着物の袖で口を塞ぎ、きつく噛み締めれば、ダメだと後ろから片腕を取られ、より一層密着する形となって。そのままず、ず、と激しい抽送にただただ背筋を反らせるだけしか出来ず、あまりの強い快楽に為すがままとなった。呑み込んで、うねって、離そうとしないところを無理やり出ていって。かと思えば収縮した中を、弱いところを思い切り奥まで抉り入って。奥に入ったままぐりぐりと擦り付けられ、抜き出す時にはまた先がぐ、と悦いところを触れていって。
 腹に付くほど勃ち上がる自身からぽたりぽたりと下へ雫の落ちる音が聞こえたが、もうどうしようもなかった。自力で立つことさえ出来ていない気がする。腰から下がとろけてしまいそうなほど、熱くて、気持ち悦くて、それしか考えられなくなる。そんな真白くなりかける意識の中で、不意に取られた手に夜の手のひらが重なった。悪戯に前後する腰の動きは変わらずに、それは昼の腹を撫でて徐々に肌の上を登っていくと、添えたそれでぐりぐりと胸の頂きを押しつぶす。

「…はっ、…ゃ、…や…だぁ、そ、れぇ……ッ…」

 中を灼かれるような感覚とはまた違った不明慮な快感に肌がぞくりと粟立った。操られているとは言え、自分のものが自分のものを慰める行為。止まることなくくにくにと触れて、引っ掻いて弄る指に自然と腰が揺らめいてしまう。次第にジンジンと熱くなり、尖っていくそれ。手のひらで捏ねて、転がして、強く爪先で摘まんでみせて。そうして胸と中を同時になぶられ、弱点であるそこをじゅくりと音を立てて激しく打ち付けられた瞬間、昼の背はしなやかに反りかえり、尖りで遊んでいた爪は痛いほどに食い込んだ。

「……も……ゃ、っ…あ、んんんッ―――…!」
「………ッッ」

 頭の中が真っ白に、染められる――…。びくんびくんと大きく体が痙攣するのを感じた。ようやっと吐き出された熱はぱたぱたと濡れた音を響かせ、滴り落ちて、続け様にこれ以上なくきつく締めつけられた夜のものが中で爆ぜるのを、身悶えする熱で知る。どくどくと注がれる熱、その熱の高さにぶるりと震えた。内側から、冒され、汚される感覚……それが嬉しくて、受け止めたくて、ひくひくとひくつく柔らかな粘膜は困惑を極めながらも、必死に呑み込もうとする。最後の最後まで吐き出されて、未だ絡みつくそこから抗い、ずるりと抜け出ていく感覚にまた悦を感じつつもくたりと体の力が抜けるのが分かった。夜の腕がひし、と昼の体を抱き上げる。そうして背にしていた体をもう一度向き合う形にして、顔の至るところへと口付けを落とすと、やっぱこっちの方が良いな、と笑ってみせた。

「…顔、見えた方が好きだろ?」
「…ぇ、…っ……な、ッ…ゃ、…な…っ……!」
「ん…もっかい」

 腕の中の昼の背を幹へと押し付けて。中に出された白濁をとろりと内腿へ伝わらせていた窄まりに、夜のものが触れる。つい数分前に達したはずなのに、萎えるどころかひどく滾るその熱をすっかり解け熟れきったそこへ宛がうと夜は一気に中へと突き立てた。

「…ひゃっ…ぅああ…ッ……」

 背が仰け反って、浮いた足がぴんと伸びる。がむしゃらに夜の首を掻き抱いて、安定を図ろうとすれば、激しく打ち付けられて昼の呼吸は止まりそうになった。急過ぎる責め、抜き差しされる角度は、気持ち悦いというよりもただただ熱くてしょうがなくて。ほとんど休みもなく、鋭敏となったそこを凶暴な熱で穿たれるのはあまりにも過ぎた快楽であり、柔らかかった自身までも無理やり育て上げていく。

「…やぁっ…、あ…ッ…あ、あああ……ッッ…」

 もはや考えることなんて出来ない。脳が溶かされる。注がれた残滓がぐちゅぐちゅと中で掻き混ぜられ、反りかえったものに激しく弱いところを擦られ、挟まれた高ぶりが何度も互いの間で摩擦された。吐き出すものなんてもうありはしないのに……なのにこの悦楽から逃れる術がない。昇り詰めていくのに、終わりが見えない。

「…あ、ああ……ふぁ…っ…ッんんぁ……」

 ひくりと腹が収縮し、ぽたぽたと白濁が混じって零れるのはずっと達している状態なのか、それともこれから起こる何かの予兆なのか。分からない。もう感じられるのはこの熱量しかない。ぬるぬると潤滑剤のごとく纏う体液がさらに感度を増し、自重で沈む体は夜を奥の奥まで導いた。蠢いて、噛みついて、食らいついて、そうやって飽きることなく出ていくことを拒もうとする中を、それでも容赦など無く快楽と共に引きずり出されては、纏わりつくままに深い奥を貫かれる。その度にぞくりと奥底から何かが這い上がって、我慢できない、と痺れた頭でそう思った。分からないけど、もう無理だと言葉が零れた。

「…ハ、…良いじゃねぇか……」

 我慢すんなよ、とそう言って唇が重なる。舌を絡み合わせて、穿たれるものと同じくらい深く、執拗に、纏わりついて。ぞくぞくと奥からとめどない震えが押し寄せ、あ、あ、と意図せず洩れる意味無き言葉まで夜の唇に奪われていった。一緒に、と夜が囁く。一緒にイこうな、と膨らんだ熱で悦いところばかりを擦り上げ、応えるようにきつくなるその内に苦しそうに眉を寄せながらも、息が止まりそうな激しい口付けを交わして。伸ばした爪先がびくんと跳ねた。意識は白濁し、夜の熱しか感じられなくなる。

「……っ、…く、ぅ」
「……ふ、っ……んんんッ―――!」

 それは神経を灼かれる心地にも似ていて――真っ白になる思考、止めようもなく震える全身、一瞬では終わらない襲いくる絶頂に。思わず夜の背に爪を立てたが、それでも収まる気配は微塵もなくて、むしろ、どくりと内で爆ぜた感触がさらに昼を責め立て、涙を溢れさせた。どうして良いのか分からない。一度落ちればそれっきりではなく寄せては返す波のように体がずっと感じているのだ。中でどろどろと注がれて、ひとりでに伝い落ちていく感触だけでも足先が宙を掻いて、過敏に反応する。

「…っ、…昼?」
「…ょ……る、ぅ……とま、な……っ……」

 ゆっくりと体を降ろされても、ひとりで立つことなど出来ず、ずるずるとしゃがみ込みそうになるのを寸でのところで抱き留められるも。その腕の熱にさえひくりと喉を引き攣らせて昼は泣きじゃくった。腰が、中が甘く疼いて止められない。痺れるような気持ち悦さがずっと続いて終わらない。おいおいと、落ち付けと夜が頬を伝う涙を舐め取り、口付けて慰めるが、止まることはなくて……どうしたもんかと肩を竦めた夜は、しかし突然、あぁ、と納得したようにゆるりと目を細めた。そろりと伸ばした手が触れたのは未だ熱を持つ昼の高ぶり。ひっ、と悲鳴じみた声を無視して、ゆるゆると扱けば痛いくらいに張り詰めて。なぁ、昼……と夜の唇が緩やかに弧を描いた。もう少し遊ぶかい? と

「……気を付けりゃあ、幾らでも気をやれる」

 ちっとばかし気持ち悦くなれる状態なのだと、なんならお前が満足するまで付き合ってやろうか? とそう口にして夜はそっと内腿を擦りながら、そんな末怖ろしいことしなくていい、と青褪めて返そうとする昼の唇を塞いでしまった。まるで答えは効かないとばかりに。事実、そうなのだろう……柔らかな腿に擦り付けるそれは確実に硬さを取り戻し始めていたのだから。
 ――こうして結局は、昼の意識が飛ぶその時まで、二人の戯れが終わることはなかったのである……。

 

 

 

 うっすらと差しこむ光が眩しくて、ふと意識が浮上した。眩しいと腕で影を作りながら何度か目を瞬かせていると、外からの賑やかな音が聞こえてきて、あぁ、もう朝なのか、なんてのんきに思う。昼、と遠くで自分を呼ぶような声がした。聞き覚えのある声に応えるよう、昼は腕を伸ばして敷布のあちらこちらを手でまさぐる。呼んだ相手を探しているのだ。何せあんな成りをしていても妖怪であるせいか朝は苦手そうだし、甘えるように自分を抱き枕にしたりする。だから近くにいるはずだと思った。小さな子どもみたいに自分にひっついて眠る男。その温もりを思い出してどこ、と冷たい敷布の上を探す。敷布と言っても広さには限りがある。だからすぐに辿りつけると思ったのに、どうしてかその相手はどこに手を伸ばしても届かない。
もどかしくも冷たい感触。それに段々、不安になって、いるんでしょ……? と呟くけれど見つかることはなくて、どこまで行っても冷たい敷布に嫌な予感がし、ぱちりと昼は目を覚ました。

 目覚めた場所は朝にしては十分過ぎるくらいに明るい室内で、ちらりと横目に見た隣の敷布には確かに誰かが居た形跡があるのに、今は誰もいなかった。ひやりと冷たいものが滑り落ちる。どうして、と昼は心臓が鷲掴みにされるような気がした。いない、いない、どこにもいない。
 嫌な予感が昼の胸を占める。
 もしかしたらという最悪の可能性が脳裏をよぎった。

「――昼?」

 声が、した。ぼんやりとした不確かなものでなく、はっきりとした現実のもので。慌てて飛び起きると、分かたれたままの夜の姿が目に入った。しかしそれも束の間のことで。

「――って、おい、昼…急に起きたら、」
「……ぃ…っっ~~~!!」

 突然、襲い掛かる言いようのない腰の痛みに声も出ないまま、元いた布団の上へと突っ伏した。ずきずきと酷く響く鈍い痛み。それにうう、と唸って動けなくなる昼に、夜は言わんこっちゃねぇ、と溜息を吐いてすぐに傍へ座り込むと、ほら、じっとしてな、とゆっくりと着物の上から腰を擦り始めた。

「一体何を慌ててんだい?」
「……起きたら君がいなくて……でも、声がしたから、つい…」

 驚いたのと確認したかったので……と、そう呟けば、夜は苦く笑ってオレはここに居るだろう、と昼の手を取った。その手は夜の柔らかい頬に、弾力のある唇に、掠める温かい吐息に導かれ、触れて、そこで初めて昼はその感触が夢じゃないと、嘘じゃないと確認し、安堵の吐息を洩らす。分かっていたはずなのになぁ、とぽろりと言葉が零れた。あと二日、どんなに長くともそれを過ぎれば一人に戻ってしまうと分かっていたはずのに、いつの間にか未練が出来てしまって。
 戻りたくないと思ってしまう自分がいて、ずっと二人で居たいと願ってしまって。そう口にすれば、今日はまたオレより寝坊さんな上に、寝起きで甘えるとは珍しいもんだ、と夜は笑って言った。

「まだ大丈夫だ、昼。まだ傍にいる。まだオレはここにいる。戻るその時までずっと傍にいる……そうだろ?」

 だから安心しろ、と、一緒にいよう、と。やりたいこといっぱいあんだろ? とそう囁かれて。……あぁ、そうだった、と昼はまだまだ二人でやりたいことを思い出した。例えば夜の髪に触れること。指で触れても良いし、櫛で綺麗に梳っても良い。それから、夜の髪を掻き上げて、うなじに唇を寄せて赤い痕を残したり……一人に戻った時に自分のところに残るかもしれないけど、どうせ昨夜、ダメと言っても至る所に付けられたのだ。それならもう開き直って、二人になっている間だけでも夜が自分のものだって証明したい。それに腰の痛みが引いたらまた遠野の店を二人で巡ってみたい。

 甘味処だけじゃなくて、他にも見つけたって言ってた美味しい食堂も、綺麗な焼き物屋も見て回りたいし、指輪を頼んでいたというところへお礼もしに行きたい。ほら、やりたいことはこんなにもある。だからもう少し。もう少しだけ自分たちは二人になってなくちゃいけなくて。
 あぁ、でも、と昼は繋いだ手をそっと引いた。やりたいことはたくさんある。でも何より前にやっておかなくちゃいけないことがある。ほら、と言って昼はふわりと笑みを浮かべ、己の腕を夜の首へと回す。まずはぎゅっと抱きしめて、それから好きだと言って。

……他の話はそれから、ね?