奴良家と子リクオ

 一家団欒の真っただ中、ねぇねぇ、お父さん、と無邪気に子どもが口を開く。

「今日聞いたんだけどね、ヒロシくんのところに妹が生まれたんだって! ヨシキくんは今度弟が出来るとも言ってたよ。ぼくも弟や妹が欲しいな。おにいちゃんって呼ばれたいよ。ねぇ、お父さん、どうして僕には弟が生まれないの?」

 平穏の中に一つの爆弾。次々と口を閉じていく側近その他多くの妖そっちのけで、子ども……否、若様は、やっぱり弟がいいかな! 一緒に遊べるもんね、と相変わらず楽しそうに語っておいでだ。もちろんなんとも答えづらい問いとは露とも知らずに。そりゃあ、やや子がどこから来る謎など若様のお年では確かに不思議も不思議、一度はお聞きしたいことではあろうよ。しかしだ、しかしなのだ。子どもはどこからやって来るの? という質問とは訳が違うのだ、若様がお尋ねになったのは、どうして自分の家に弟はひいては子どもは生まれないの? だ。前者であれば世の慣わし、コウノトリの話でも持ち出すくらい妖どもも気を回せただろう。一時とは言えそれで若様もいくらか納得されるはずだ。
 だが、ここでの問題は後者なのである……すなわち夫婦間での問題、そうそう簡単に妖どもが立ち入ってはならない、口を出そうにも出せない状況というのが今なのである。母君も、うーん、それはねぇ……と頬に手を当てそう言ったまま、頭を悩ませていらっしゃる。無理もない、と妖どもも共にその気苦労を感じとっていると、傍らで実に快活に父君……二代目は、にかりと笑って若様に言いなすった。

「そんなの簡単だ、リクオ。お前が早く寝れば良いんだよ」
「? それだけで弟が出来るの?」
「あぁ、あとはオレと若菜が頑張っ……っていたああああああ!!」
「へぇ、すごいや! お父さんたちサンタさんみたいだね!」
「ちょっ若菜っわかなああああああ、そこ弁慶さんも泣いちゃうとこだってばあああああ!!」
「あらやだ、鯉伴さんったら。それは蹴られた場合の話でしょう?」

 父君の悲痛な叫び声を気にすることなく、若様はそっか、じゃあ今日から早く寝るね! なんておっしゃって、またもぐもぐと食事を再開なさった。けれども妖どもはちゃんと見ていた。台の下で二代目の向こう脛が白魚のような母君の指でたいそうきつく抓られている様を。無言の威圧と共に子どもに何てことおっしゃってるんです、鯉伴さん? と語るそれはそれは畏ろしくもにこやかな笑みを。