子夜と子昼

 夫婦の間というのは子どもにはさっぱり分からないものである。いつもは構ってくれる両親も今日だけはべったり寄り添って全然相手にしてくれないし、おまけにちょっとお庭で遊んでおいで、なんて言うのだ。

「……ってゆうことで、ね! おとうさんだけ、おかあさん独占するなんてずるいと思わない、夜?」
「さあなぁ……まぁ、良いんじゃないか? そんな日があったって」

 昼の面白くない、と膨らます頬をつつきつつ、むしろさりげなく親父を蔑にしているお前も相当だと思うがねぇ、と夜の方は思ったり思わなかったり。昼はいわゆる、おかあさんっ子ってやつだ。夜としては妖怪の血が多いせいか肉体的にも精神的にも昼より成長している分、両親の惚れた腫れたなど正直どうでも良かったりする。別に母親を目の仇にするわけではないが、昼がいつもべたべたと抱きついているのを考えると、こういう機会があっても良いとさえ思う。ちなみに父親は論外だ。あの変態じみた子煩悩はもはや公害である。まぁ、話は戻るとしてこれを機に昼は少し母親から離れることを覚えれば、夜としても嬉しいことなのだ。

「昼はオレと一緒じゃ嫌なのか?」
「そういうことじゃないけど……」
「じゃあ別に良いだろ?」
「でも夜は! いつもふらっとどっかに行っちゃうし……」

 それもぼくが眠くなる夜中ばっかりで、昼間はよくお昼寝してるじゃない。だから、つまんない。その言葉に夜は、ぱちくりと瞬きをする。

「昼はオレと遊びたかったのか?」
「あたりまえだよ! なのに夜はすぐいなくなっちゃって、見つけても寝ちゃってるし」

 だからいつもみんなと遊んでるんだよ。少しだけむくれてそう言う昼に、夜はそんな話初めて聞いた、とばかりに驚くことしか出来ない。夜としては普段、昼は母親と一緒にいて、雪女や首無たちと遊んでいるから暇なので桜の枝の上から眺めつつふて寝してたというのに、だ。なんとまぁ、互いに変な誤解をしていたものだ、と結論付ければそこから先の話は早い。

「じゃあ、昼! 今から遊ぼうぜ」

え? ときょとりと首を傾げる昼の手を取って引っ張り上げる。そしてそのまま、すたこらさっさ。

「え! ちょっ……なにして遊ぶのっ」
「かくれんぼ。他の奴らは後から追いかけてくるだろ」

 それって、おにごっこじゃないの? と問う声にかくれんぼだろ、と答える。何て言ったってぬらりひょんの孫なのだ。追いかけられるなんて性には合わない。追いかけさせるくらいの心意気が無ければそれは三代目候補として失格というものだ。からからと笑いながら、さて、最初はどこに行こうかと、と考える。昼はいつも家の中ばかりだったから外にでも行こうか。
 リクオさまー? と探しに来たらしい雪女の横をするりと抜けて、昼が目を丸くしている間にさっさと雪駄を履いてしまう。大きな門をくぐり抜ければ庭で見た以上に広い広い真昼の空があった。

「ほら行くぞ、昼」

早く来いとばかりに振り返ればすぐに昼の瞳が輝き、小さなまろい手が伸ばされて。
そうして二人は駆けてゆく。光の中に。外の世界に。
そこは三代目候補などという責務も重圧も無い、自由な子ども二人だけの世界であった。

(たまには夫婦愛に感謝して)