01

───くそっ!化け物め!

それが最後に聞こえた言葉だった。

 

 

目が覚めればどこかの森の中のようで。
アーデンは重い体を起こしながら、瞼をこする。
……どこだ、ここは。
眠気を残しつつ、気だるげに周囲を見渡すも辺り一面、草と木と岩。
見覚えなど欠片もない──いや、あえて言うならマルマレームの森だろうか。
あそこに比べれば随分明るく、穏やかな景色ではあるが。
「ていうか本当ここ、どこ…」
ぼさぼさの髪を掻き上げ、うんざりとした表情で溜め息を吐く。燦々と降り注ぐ光が目に眩しい。
自分はどうしてこんなところで眠っていたのだろうか。
ここに来るまでの記憶を辿ろうとするも、全くと言っていいほど思い出せず、鈍い頭痛がアーデンを襲った。
「キュイ!」
痛みに頭を押さえていると突然、動物のような鳴き声がする。
なにかいるのかと思い、声のする方へ視線を向ければ白い猫のような狐のような、不思議な生き物が口に何かをくわえて近付いてきた。
「…は?」
そんな不思議な白い生き物は目の前で止まったかと思うと、ぽとりと口にしていたものを落とし。
早く拾ってついてこいとばかりにくるりと後ろを向いて数歩進む。
一体なんなんだ…。
とりあえず落とされたそれを手に取れば、どうやら羊皮紙のようで愛らしい赤いリボンでくるまっており。
何か書いてあるのだろうかとリボンをほどいてみるも、残念ながらその当ては外れた。
何も書かれてない。
念のため裏も確認するが文字どころか絵ひとつ記されてはいなかった。
「あぁ、もう……」
頭は痛いし、意味は分からないし。おまけにここはとても眩しいし。
苛立ちと落胆に思わず肩を落とした瞬間、また鳴き声が聞こえた。
「え、」
鳴き声と共に、握っていた羊皮紙からきらきらと光の粒子が溢れ落ち、その表面にインクの文字が浮かび上がる。
『届いたかな?』
ばっ、と前を見る。
その視線の先には白い不思議な生き物がこちらを見て首を傾げていた。
「お前、なのか…?」
そうだ、とでも言うように生き物は鳴いた。
『ここはきみの《夢》の世界だよ!』
「ゆめ…」
思ってもみない答えにアーデンは唖然とする。
夢。
現実ではないところ。
『今のきみはいつもより深~く眠っている』
『だからちょっとだけ遊んで冒険して 夢のゴールを探して それからあっちの世界に帰ろう?』
「は? 遊ぶ!? …ていうか冒険!? ゴールを探す!? ちょっ、なんで俺が! お前と!」
一応抗議はしてみるものの、ほら、早く行こうよとでも言うように白い生き物は先へと進み始める。
聞く耳は持っていないようだ。
あんなに大きな耳をしてるのに。
はぁ、ともう一度だけ溜め息をこぼす。
こうなったらしょうがない。
どうせ夢の世界だし、口ぶり……いや、文字ぶり? からして、いつかは現実の世界へ戻してくれるようだ。付き合うしかないだろう。
「……少しだけだぞ」
アーデンは肩をすくめ、渋々といった体で白い背中を追った。