過去編の妄想ネタ(Vassalord.)

結論から言うとチェリーは親友(と少なくともチェリーは思ってた人間)をレイフロに殺されたって話ですね。

血を与えられて、でもまだ20代の、厳格なカトリックしか知らないチェリーは日光に当たっても灰化しないこともあり食事が血だけになったということ以外ヴァンパイアになったという実感が薄く、本当は仕事の最中に死亡した(死亡しかけた)のにその事実を隠蔽。黙っていればこのまましばらくはこれまで通り過ごせると思い込んでいた。実際はレイフロにやめておけと、クリストファー=ミッシェルの人生には幕を下ろせと言われていたが、友人や育ての司教のことを思うと急死ではなく自らの意思で別れを伝えたかったこともある。

けれど彼らと継続して過ごせば過ごすほど未練は募り、一日、また一日と別れを引き延ばしていく。そして。親友と思っていた男はチェリーの知らないところでチェリーが既に人間ではないことを知る。その男は金に困っていたのか、功績をもとに昇進を考えていたのか、チェリーをヴァンパイアとして排除することを決意する。

そして、手にかけるためチェリーを呼び出した夜。現れたのはチェリーとは似ても似つかぬ見知らぬ髭面の、黒髪の男で。
「……残念だったな。クリストファーじゃなくて」
そう言って、男が手を振り上げた。最期に聞いたのは呼び出したはずの親友の叫び声。マスター、と。理解した瞬間、男は黒髪の男にその手で心臓を貫かれていた。

そこから始まるチェリーとレイフロの因縁。親友の仇討ち。レイフロはそれで気が済むのならと相手していた。

そうして30年程が経ち、チェリーの前にかの親友の息子が現れる。お前が父さんを殺したんだろ、とそう言って。
あの日、あの夜、父さんは言った。化け物を退治してくると。その化け物は父さんの親友の皮をかぶっているだと。仲の良いふりを続けて、今日こそ退治してやるのだと。そう言った父は愛する妻と幼い息子を残して死んでしまった。化け物に殺され、冷たい骸になって帰ってきたのだ。
チェリーに一枚の写真が突きつけられる。父さんと父さんの親友が、人間だった頃のチェリーが、今尚姿形の変わらぬ自分の姿が写った写真を。
それを見せつけられた瞬間、違うとも、話を聞いてくれとも言えなくなった。ようやく自分が何もかも間違っていたことに、全てが自分の罪であることに気付いたのだ。レイフロにやめておけと言われてもクリストファー=ミッシェルとして生き続けたことも。何も理解せず知ろうともせず、親友を殺めたとしてレイフロを恨み続けたことも。チェリーが未練がましくしがみついたせいで親友が死に、レイフロが手を汚すはめになったことも。全てチェリーのせいだったのだ。

呆然とするチェリーに向けられる銃口。いくら覚悟していても、相手が化け物だと分かっていても、他人に向けるのは初めてなのだろう。微かに震えている。その中に詰められているのは銀の銃弾なのだろうか。当然の報いだと思った。
その弾を全て受けて、チェリーの、ヴァンパイアとしての初めての生であるクリストファー=ミッシェルの人生は幕を下ろした。

目を覚ますと、レイフロの屋敷にいた。男からは何も言わず血を与えられた。ヴァンパイアは簡単には死なないものなのだと実感した。全てを知り、レイフロに謝罪しようとすると男はさぞ可笑しげに腹を抱えて嗤った。
「“そんなこと”をお前はまだ引きずっていたのか?」
目の前が真っ赤になる。そんなこと。そんなこととは……? 人一人が死んだ。人一人を手にかけた。それは男の中では取るに足りないことだと言うのか。
そもそもレイフロが彼のことを知っていたのならば話してくれれば。そうすれば殺す必要だって無かったのかもしれない。話し合えば、彼だって。
「お前は何か勘違いをしていないか? 俺はやりたい時にやりたいことをする。お前のために、じゃない」
最近の秘密クラブへの入り浸りに、享楽へと耽る様。もうこれが建前なのか、本当のことなのか、チェリーには分からなかった。ただ憎い。哀しい。赦せない。何故。どうして。こんこんと涌き出る負の感情はやがてどえしようもない殺意へと変わる。親友を手にかけたことでなく。こんな男に、そう簡単に死ぬことも出来ない化け物にされたのかと。生きたいと縋ったのかと。
「あぁ、幼いお前にはまだ早かったか?」
絶対に赦さないと。殺してやりたいと、そう思った。

恨みでもいい。怒りでもいい。お前が生きていてくれるなら、それが生きる支えになるのなら、それでいい。それ以外のことなんてどうでもいい。あの頃みたいに笑ってくれなんて望まないから。だから。

みたいな話。