04

示された方角を白い生き物と共に進む。
今度は迷いがないせいか生き物の歩みに淀みはなく、荒々しい岩肌はあっという間に再び柔らかな湿った土と生い茂る草へと変わり、どことなくアーデンを安心させた。
「……でも、やっぱりこれは納得いかないよねぇ」
絶対さっきも同じ道を通ったはずなのに。
なんでこうも違う景色が現れるのか。
そう思わずアーデンが呟きたくなるのも仕方がなかった。
開けた先──曲がり道ひとつない、木々をくぐりけたその先には、鬱蒼とした森とは見違えるほどの美しい小さな滝と、そのほとりがあったのだから。
『なつかしいね アーデン』
そう文字を紡いだ生き物はほとりへと駆け寄る。
「そうかなぁ…」
ぐるりと見渡したアーデンは首を傾げる。
確かに言われてみればメルロの森で見た光景に似ていなくもないが……。
うーん、とアーデンは唸った。
確かに似ている。
だが、滝やほとりのところどころで煌めく巨大な水晶のようなものは、どうにも異様な違和感を覚えるのだ。
特にあれ、あの滝の頂にある、まるで天に向かって燃え盛る蒼白い炎を凍らせたようなあれ。
あれは──
ツキン、と刺すような痛みがこめかみに走った。
反射的に押さえてみるが、痛みは引くどころかどんどん激しさを増していき。
「ぅ、…っ」
目の前が白く焼かれたかと思えば、一気に色という色が溢れかえった。

 

《あれは神話の時代に墜ちた隕石》
《燃え続ける隕石の下で巨神が眠っている》
《なんのために?》
《 “   ” を待っているんだ》
《やけど、しないの?》
《しないさ。彼は “  ” なのだから》

目まぐるしく駆け巡る記憶の奔流。
知っているはずなのに、知らない誰かが指を差して言う。

《ほら見なさい》
《あそこをひとはカーテスの大皿と呼ぶ》
《ほら、あれだ。あれが──》

 

「…………メテオだ」
神話の時代に墜ちたという巨大な隕石、メテオ。
神の眠りし標。
今もなお、青く燃え続けるメテオの下で。
静かに来たるべき時を待っていた燃ゆる彼の神は。
『アーデン』
「俺は彼らを知っている…?」
手を伸ばしてきた巨大な男。
空を駆けるどの生き物でもないなにか。
指を差し告げる男。

 

“        !”

 

“あの時” 彼らはなんと言っていたか。
“その時” 俺はなんと答えたか──

 

白い生き物がキュイと鳴いた。
『きみは知ってるよ』
『だって ここは君の夢だから』
白い生き物がほとりから離れアーデンのもとへとやって来ると、するりとその足首を自らの尾で撫でる。
それはどうかすると、幼い子どもを慰めるような仕草にも見え、アーデンはそっと口をつぐんだ。
『だから どんなに望んでも』
『君の知っているもの以外 出てこないんだ』
もし叶うのなら君の望むものだけを与えたのに。
まるでそう告げるかのように、小さな案内役は羊皮紙からきらきらと細かな光を溢れさせ、青いしずくの絵を浮かび上がらせるのだった。