学パロ 昼が好きな夜と夜が嫌いな昼 弐

「……離して、っていうか離せ!」
「いやだ」
「我儘言ってんじゃな……! って、ちょっ、夜……んっ」

 ギリギリと拮抗、そして最後には抵抗という暴れを見せるも空しく問答無用で押し留められ、口付けられる。ここは学校で、誰もいない教室で、けれどもドアを開ければすぐに見つかるところだと言うのに! この獣が! とリクオは腹を立てながら思うが、無駄に馬鹿力の男に適うはずもなく享受するしかなかった。と、そうやって実に間の悪いことに廊下の方からパタパタと足音がするではないか。離せ…! と夜の体を押しやるが、それくらいで止める男ではない、むしろ離れるどころかきつく抱きすくめ、舌を挿し入れて深いものへと変えてしまう。思わず気持ちの良さに、引き離そうと肩を握っていた手の力がふっ、と抜けた。

 ――……ガラリ。

 あぁ、もう……! リクオは歯噛みする。開けたドアの先には夕焼けをバックにした女子の姿。……逆光でこちらは顔が見えないが、あちらからはばっちり夜が圧し掛かって抱きついてるところも、二人で口付け合ってるところも何から何まで見えているのだろう。やられた…。きゃあっ、と短い悲鳴を上げて、すぐにその女子は走り去っていくけど、明日にはきっととんでも事になるに違いない。……この底意地の悪い馬鹿男め!
 いっそ幼馴染という関係さえも清算してやろうか、と思うくらいリクオは怒り心頭であるというのにその張本人と言えばどこぞの赤子のごとく未だちゅうちゅうと吸いついている始末。ぶちん、とリクオの中で大事な何かが切れた。
 は・な・せ! とごそごそ動いてようやく少しだけ自由になると足で夜の腹を蹴り上げる。夜はぐ、と息を詰め、蹲るがそんなこと知ったこっちゃない。口付けられた唇を袖でごしごしと拭いながら、リクオは明日の惨劇を思い描いて遠い目をしつつ荷物を手に取ると容赦の欠片もなく夜を置いて教室を出て行った。

「……あぁ、もう最悪。せっかく優等生キャラ演じてたってのに」

 あんの馬鹿幼馴染。あんな不良男と関係を持ったとでも勘違いされるなんて我慢ならない。こちとら今すぐにでも縁を切ってやりたいくらいなのに。

「キスだけは無駄に上手いとか詐欺だ」

 相手が相手なので、心底不快ではあるけれど。